質問主意書

第216回国会(臨時会)

質問主意書

質問第四五号

アイヌ施策推進法の見直しに関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和六年十二月二十日

紙 智子


       参議院議長 関口 昌一 殿



   アイヌ施策推進法の見直しに関する質問主意書

 「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」(以下「アイヌ施策推進法」という。)は、施行から五年が経過し、見直しの年を迎えた。自見はなこアイヌ施策担当相(当時)は二〇二四年七月、札幌市内で「民族として誇りを持って、尊重される社会を実現するために、心を一つに力を合わせていきたい。推進法の見直しの議論をスタートさせたい」と述べ、伊東良孝アイヌ施策担当相は同年十月、アイヌ施策推進法の「施行状況等の検討を行うため、アイヌの人々の意見などを広く伺う意見交換会を開催する」考えを明らかにしている。

 アイヌ民族は、明治期以降の国や北海道による同化政策によって、土地や資源を奪われ、強制移住を強いられるとともに、文化や言語を否定され、民族の権利を奪われ、生活基盤を根底から破壊された。差別と偏見の中で、生活苦が何世代も連鎖し、生活環境や進学においても格差に苦しんでいる。

 二〇〇七年に国連総会は「先住民族の権利に関する国際連合宣言」を採択し、日本では、二〇一九年四月にアイヌを「先住民族」と規定したアイヌ施策推進法が成立した。

 国連宣言以降、世界では先住民族へ謝罪する動きが広がっているが、日本では政府によるアイヌ民族への謝罪がなく、また、アイヌ施策推進法には先住民族の権利(自決権、土地権、生業の権利など)の規定がないなど、国際水準から大きく立ち後れている。

 私は、二〇二四年四月十五日の参議院決算委員会において、アイヌ施策の見直しに当たって、アイヌの人々や団体が広く参加できる仕組みを作ること、国連人権条約監視機関の勧告を踏まえた施策の具体化、参議院国土交通委員会の附帯決議に沿った対策を求めた。

 そこで、以下質問する。

一 政府は北海道内外で意見交換会を始めていると承知しているが、現在の取組状況を明らかにされたい。また、伊東アイヌ施策担当相は、アイヌ民族との意見交換会を行う考えを明らかにしているが、関東や関西を含めてどのようなかたちで意見交換、意見集約を進めるのか明らかにされたい。

二 北海道が公表した二〇二四年度道民意識調査の結果では、交流サイトなどを含むアイヌ民族への差別や偏見について、回答した道民の二十六・九%が「直接見聞きしたことがある」と答えている。

 自由権規約委員会は、「日本の第七回定期報告に関する総括所見」(二〇二二年十一月三十日)を公表している。主な懸念事項及び勧告において、「委員会は、(中略)締約国に対し、優先事項として、パリ原則に沿った独立した国内人権機構を設置し、同機構に対して適切な財政的及び人的資源を配分することを求める。」としている。

 アイヌ施策推進法案に対する参議院国土交通委員会の附帯決議の四は、「本法第四条の規定を踏まえ、不当な差別的言動の解消に向けた実効性のある具体的措置を講ずること。」としているが、アイヌ施策推進法施行後、どのような措置を講じたのか明らかにされたい。

三 アイヌ語は、国連教育科学文化機関(ユネスコ)によって、消滅の危機にある言語の中でも「極めて深刻」な危機にある言語の一つに認定されている。母語として話せるアイヌの人は数人しかいないと言われている。

1 言語は文化の基盤である。母語としてのアイヌ語の話し手育成を、緊急課題として位置付ける必要があると考えるが、政府の見解を示されたい。

2 二〇二四年九月に北海道で行われた北欧の先住民サーミに学ぶ学習会でアスラック・ホルンバルグ氏(サーミ評議会議長)は、「毎年十数名がサーミ言語の教育を受ける環境をつくり、受講者が四百人を超えた。地元の学校でサーミ語の教育を受けることが可能になった」と紹介された。

 私が、二〇二一年四月十九日の参議院決算委員会においてアイヌ語の話し手の早急な育成を求めたところ、加藤勝信官房長官(当時)は、アイヌ施策推進法の「趣旨にのっとって対応していきたい」と答弁した。政府は、これまでアイヌ語の話し手育成をどのように進めてきたのか。また、今後の育成計画や予算を明らかにされたい。

  右質問する。