質問主意書

第216回国会(臨時会)

質問主意書

質問第三一号

ラピダス社への大規模な公的支援の妥当性等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和六年十二月十七日

浜田 聡


       参議院議長 関口 昌一 殿



   ラピダス社への大規模な公的支援の妥当性等に関する質問主意書

 「国民の安心・安全と持続的な成長に向けた総合経済対策」(令和六年十一月二十二日閣議決定)には、以下のとおり記載されており、半導体メーカーであるラピダス社への支援(以下「ラピダス社への公的支援」という。)が念頭に置かれていると考える。

 産業競争力の強化、経済安全保障及びエネルギー政策上の観点から、今後十年間で五十兆円を超えるAI・半導体関連産業全体での国内投資を官民協調で実現するため、政府は、二〇三〇年度までに、

(一)次世代半導体研究開発やパワー半導体量産投資等への補助及び委託等として六兆円程度(補助及び委託等)

(二)次世代半導体量産投資やAI利活用に向けた計算基盤整備等への出資や債務保証等として四兆円以上(金融支援)

 全体として十兆円以上のAI・半導体分野への公的支援を必要な財源を確保しながら行う。

 他方、大規模な公的支援を行うことによってモラルハザードを高めるとの指摘や、自らの力で成功を勝ち取るとの意欲が低下すれば、事業の失敗のリスクを高めるとの指摘もある。また、銀行や関係企業からの監視が緩くなるおそれなど民間企業の競争力を削ぐのではないかとの意見も見られる。実際、政府がこれまで行った公的支援(以下「政府の公的支援」という。)には、以下のように経営破綻若しくは巨額赤字を出すなどの事案が多数見られる。

1 平成二十一年六月に、産業活力再生特別措置法の認定を受け、日本政策投資銀行がエルピーダ・メモリに対して三百億円出資したほか、危機対応融資として百億円を貸し出しているが、平成二十四年に同社は経営破綻し、国に二百八十億円の損失が発生している。

2 平成二十年四月、三菱重工が三菱航空機を設立して三菱スペースジェットの開発が開始された。公募を経て同社が採択され、総額五百七・五億円を交付したが、度重なる設計変更等により合計六回納入延期された。令和五年二月に開発中止を公表し、累積赤字は八千億円以上であると言われている。

3 平成二十五年十一月に設立され、アニメや和食など日本文化の海外展開支援を目的とする官民ファンドである海外需要開拓支援機構(クールジャパン機構)は、令和六年三月末時点で国からの産業投資出資額は千二百三十六億円、民間出資額は百七億円であるが、令和五年度末の累積損益がマイナス三百九十八億円であり、そのうち、約半分がファンド運営の必要経費(マイナス二百十一億円)、残り半分がEXIT等による投資損益(マイナス八十六億円)と投資中案件の含み損の先行計上(マイナス百一億円)と巨額赤字を出している。

4 平成二十四年に東芝、ソニー、日立製作所の中小型液晶事業を統合して発足したジャパンディスプレイ(以下「JDI」という。)は、産業改新機構(現在はINCJ)が設立時に二千億円出資し、投資額の累計は四千六百二十八億円であるが、令和六年度三月期決算では、四百四十三億円の純損失を計上し、十年連続の赤字計上となっている。

5 平成二十六年七月にJDI、ソニー、パナソニックの有機ELパネル製造事業を統合して発足したJOLEDは、INCJが五十六・八%の株式を保有する筆頭株主であり、累計千三百九十億円を資金援助しているが、八期連続の最終赤字を計上しており、令和五年三月には、民事再生法の適用を申請し、負債額は約三百三十七億円である。

6 その他、半導体関連の国家プロジェクトとして、製造プロセス開発を目的とした「あすかプロジェクト」(国費二百億円)、「HALCAプロジェクト」(国費八十億円)、製造プロセスの共通化を目指した「先端SoC基盤技術開発(ASPLA)」(国費三百十五億円)がある。

 日本国内での先端半導体生産の試みは、国全体の競争力や経済安全保障の観点からも重要であるため、ラピダス社への公的支援を大規模に行うことが最善策であるかどうかは、慎重に見極めることが重要と考える。これらを踏まえて、以下質問する。

一 政府の公的支援(前記1から6)それぞれについて、公的支援の結果の検証及び支援が妥当だったか否かについて政府の受け止めをそれぞれ示されたい。

二 政府の公的支援(前記1から6)以外に、特定企業に対して政府がこれまでに同規模以上の公的支援を行ったものがあれば、その内容と、公的支援の結果の検証及び支援が妥当だったか否かについて政府の受け止めをそれぞれ示されたい。

三 ラピダス社への公的支援の成果責任者を示されたい。

四 政府におけるこれまでのラピダス社への公的支援実施の決定プロセスにおいて、前記一又は二の公的支援の検証結果は参考にしたか。また、今後のラピダス社への公的支援の実施検討段階において、前記一又は二の公的支援の検証結果を参考にする考えはあるか示されたい。

五 政府は、ラピダス社への公的支援について、公的支援を行った場合と行わなかった場合それぞれのラピダス社、我が国及び他国を含めた世界の半導体市場の将来予測を行っているか。行っていれば全て示されたい。行っていなければ、その理由と、今後、将来予測を行う考えがあるか示されたい。

六 ラピダス社への公的支援の成果指標を示されたい。成果指標を達成することでラピダス社、我が国の経済、我が国及び他国を含めた世界の半導体市場にどのような影響が見込まれるか示されたい。

七 前記六について、成果指標が達成できなかった場合の政府の対応方針を示されたい。

八 ラピダス社が仮に今後撤退ないし巨額赤字を出すことになれば、政府の大規模な公的支援に対する国民への不信感が高まる可能性が極めて高い。したがって、ラピダス社への公的支援については、公的支援を行うことで想定し得るリスクを全て検証して慎重に進めるべきと考えるが、政府の見解を示されたい。

九 前記八について、今後、ラピダス社が撤退ないし巨額赤字を出すなどの事態に陥らないための手段の一つとして、ラピダス社に対する国及び国民からの監視を強化する必要があると考える。可能な限りラピダス社の成果指標や事業の進捗状況を公開し、政府からの支援金が係る分野においては透明性を高める必要があると考えるが、政府の見解を示されたい。

 質問主意書については、答弁書作成にかかる官僚の負担に鑑み、国会法第七十五条第二項の規定に従い答弁を延期した上で、転送から二十一日以内の答弁となっても私としては差し支えない。

  右質問する。