第216回国会(臨時会)
質問第二五号 スプリンクラー設備設置と損害保険料率等に関する質問主意書 右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。 令和六年十二月十三日 浜田 聡
参議院議長 関口 昌一 殿 スプリンクラー設備設置と損害保険料率等に関する質問主意書 令和六年十月三十一日、公正取引委員会は、大手損害保険会社及び損害保険代理店の計五社に対し、独占禁止法の規定に基づく排除措置命令及び課徴金納付命令を行った。今回、共同保険の組成過程において、複数の損害保険会社が入札前に保険料等を事前に調整したことが独占禁止法違反行為と認定されたが、共同保険に限らず、我が国の企業向け損害保険には大きな問題があるのではないか。これらの問題について以下質問する。 一 企業向け損害保険の在り方について 1 一九九〇年代後半に我が国で保険が自由化されて四半世紀が経過した。しかし、企業向け損害保険分野においては自由化以前からほとんど変わっておらず、欧米の損害保険会社が果たしてきた社会全体のリスクを下げるという役割を果たしてこなかったと考えるが政府の見解を示されたい。 2 前記1で指摘した役割を果たすためには、①顧客企業の事業所等の各拠点のリスクを評価すること、②顧客企業へリスク低減策を提案すること、③リスク評価の結果を適切に保険料率や保険引受条件へ反映させることについて強化が必要であり、これらの点において各損害保険会社は差別化を図り健全な競争をすべきと考えるが政府の見解を示されたい。 3 我が国の多くの企業は「経済的損害防止」あるいは「ロスコントロール」という概念をよく理解していない状況であると思料する。今後、損害保険業界はこの概念を企業に広めていく必要があると考えるが政府の見解を示されたい。 二 スプリンクラー設置による保険料割引について 1 損害保険料率算定会(現損害保険料率算出機構)は、欧米に倣って独自のスプリンクラー基準を設けており、スプリンクラーの設置により十~三十パーセントの保険料割引率を設定していた。この基準は現在も使われているか示されたい。使われていない場合、その理由を示されたい。 2 欧米でのスプリンクラー設置による保険料割引率は平均で五十パーセント、最大で九十パーセント程度とされている。欧米の損害保険会社がデータの裏付けもなく保険料の割引をする可能性は考えにくく、これらの値が正しければ、スプリンクラー設置によって、実際に損害率が平均五十パーセント、最大九十パーセント低下していることになる。一方、我が国では現在に至るまでスプリンクラー普及率が低く、スプリンクラーの有無における損害率の違いを検証するための十分なデータは存在しない。したがって、十~三十パーセントという保険料割引率はデータの裏付けなしに決められたと考えられるが政府の見解を示されたい。 3 工場におけるスプリンクラー普及率について、米国では現在五十~六十パーセントと推定される。スプリンクラー設置のための費用は数百万円~数億円と高額であるが、保険料割引によって最短では数年でペイするとされている。米国ではスプリンクラーの技術を高めて有効性を向上させ、かつ適正な保険料割引率を設定した結果、このような高い普及率になったと考えられる。一方、我が国の工場における普及率は平成二年に推定〇・一三パーセント(当時の自治省消防庁調べ)であり、現在でも一パーセントに満たないものと推定される。この低い普及率は、保険料割引率を十~三十パーセントと根拠もなく低い値に設定したことに起因すると考えるが政府の見解を示されたい。 4 我が国の損害保険会社は、一九九〇年代後半の保険自由化以前もそれ以降も、保険料割引をするくらいならスプリンクラーを設置する必要はないとの立場を取り続けており、顧客企業に対してスプリンクラーの設置を積極的に推奨してこなかったとの指摘がある。これは、欧米の損害保険関係者あるいは企業リスクマネジメント関係者からすると奇異に思えるようである。我が国の企業向け損害保険分野においては、損害保険会社間で競争する環境になく、顧客企業のリスクを下げるインセンティブが働いてこなかったことに原因があると考えるが政府の見解を示されたい。 三 消火設備の有効性の検証について 前述のように欧米では消火設備が大幅な保険料割引の根拠となってきたことから、米国のFM GLOBAL等の損害保険会社がその有効性を厳しく検証してきた。一方、我が国では消火設備の有効性の検証は網羅的には行われておらず、東京消防庁など一部の自治体において限定的に行われているのみである。機械式駐車場における全域放出型ガス消火設備、屋内駐車場等の少量の可燃性液体が存在する場所での泡スプリンクラー設備、高天井部における放水型スプリンクラー設備等は、我が国独自の考えに基づいて設置されているが、それらの設備が現実の火災でどのくらい有効に機能するか、あるいは誤作動のリスクがないかについて十分なデータが存在せず不明であると思料する。我が国で慣習的に設置されてきた、これらの消火設備が実際にリスク低減に寄与しているのか、損害保険業界はその妥当性について検証する必要があると考えるが政府の見解を示されたい。 四 有識者会議について 共同保険におけるカルテルを受けて、令和六年三月から六月にかけて「損害保険業の構造的課題と競争のあり方に関する有識者会議」が開催されたが、有識者会議の報告書を見ると本質問主意書で指摘しているような内容についての議論はされていない。本質問主意書で指摘している内容は、我が国の企業向け損害保険の在り方に関する重要な指摘であり、この内容についても有識者会議で議論すべきと考えるが政府の見解を示されたい。 質問主意書については、答弁書作成にかかる官僚の負担に鑑み、国会法第七十五条第二項の規定に従い答弁を延期した上で、転送から二十一日以内の答弁となっても私としては差し支えない。 右質問する。 |