質問主意書

第215回国会(特別会)

質問主意書

質問第九号

太平洋クロマグロの漁獲枠の配分に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和六年十一月十二日

紙 智子


       参議院議長 関口 昌一 殿



   太平洋クロマグロの漁獲枠の配分に関する質問主意書

 二〇二四年七月に開かれた中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)北小委員会は、太平洋クロマグロ(以下「クロマグロ」という。)の漁獲枠を二〇二五年から、大型魚(三十キログラム以上)は現行の一・五倍、小型魚(三十キログラム未満)は一・一倍にすることで合意した。十一月から十二月に開催されるWCPFC年次会合で承認されると、来年一月から実施される。

 クロマグロの親魚(成熟した魚)の資源量は、一九六〇年に約十五万トンであったが、二〇一〇年には約一万トンまで低下したため、資源管理が重要な課題となっている。しかし、その在り方は、国連食糧農業機関(FAO)などが提唱しているように小規模沿岸漁業者の生活に配慮した漁獲枠の配分とすることが常識になっている。日本においても、クロマグロの漁獲枠の配分は、全国の漁業経営者の九割以上を占める沿岸・家族漁業者の生活と権利を守る立場から行うことが重要である。

 WCPFCの二〇一四年の合意を受けて、水産庁は二〇一五年から自主的な取組としてクロマグロの漁獲規制の試験実施を開始し、二〇一八年からは「海洋生物資源の保存及び管理に関する法律」に基づく漁獲可能量(TAC)制度に移行した。しかし、水産庁はTAC制度への移行時に、沿岸漁民や漁協への十分な説明や協議をしないまま大規模漁業(特に大中型まき網漁業)を優先する漁獲枠の配分を行なった。これに対して、全国の沿岸漁民らは「水産庁の配分案は大中型まき網漁業優先で沿岸漁業軽視の配分であり、これでは沿岸漁民は生活できない」と農水省前で抗議集会を行い、農林水産大臣に対して漁獲枠の配分の見直しを求める要望書を提出したが、水産庁は見直すことなくTAC制度を強行した。

 二〇二五年から増える漁獲枠の設定に当たっては、この間の経過を踏まえて抜本的に見直すことが必要であるので、以下質問する。

一 二〇一八年から六年間、クロマグロを漁獲対象にする沿岸釣り・はえ縄漁業者らは、漁獲枠が極めて少ないことから、クロマグロが目の前の海に来遊しても漁獲することができず、生活苦に追いやられ、息子は漁師に見切りをつけて転職したなどの実情が報告されている。また、定置網にクロマグロが入った場合でも漁獲枠を守るために放流せざるを得ない実情も各地から報告されている。沿岸漁業に混乱を招いている現状をどのように認識しているか、政府の見解を示されたい。

二 元水産政策審議会会長の櫻本和美東京海洋大学名誉教授が、水産庁に対し「太平洋クロマグロの資源管理について」と題する公開質問状を出している。公開質問状では「太平洋クロマグロの漁獲規制(TAC)に基づく管理が二〇一五年から実施され十年が経過した。(中略)十年間で親魚量は大幅に増大し、資源管理は成功したかにみえる。しかし、資源増大のために大きな犠牲を払ったのは、主に沿岸漁業者であり、定置網等では大量に入網したクロマグロの放流や操業自粛要請等により浜は大混乱に陥った。また、沿岸漁業への極めて少ないTACの配分は、沿岸漁業の経営状態を圧迫し、沿岸漁民は困窮した。」と指摘した上で、十六項目にわたる質問に対する回答を求めている。極めて重要なこれらの指摘に対して、いつまでに、どのように回答するのか。政府の見解を示されたい。

三 全国沿岸漁民連絡協議会(JCFU)は、二〇二五年から適用されるクロマグロの漁獲枠の国内配分について、沿岸釣り・はえ縄漁師が安心して操業できるよう、漁獲枠の大幅な増枠を世論に訴え、水産庁にも要請活動を行ってきた。今年八月にスタートした「沿岸漁業のクロマグロ漁獲枠の大幅拡大を求める一万名署名」は十月現在、一万二千名に達したとの報告を受けている。二〇一八年から六年間、沿岸漁業者らが苦しんできた実態を踏まえれば、沿岸漁業者らが要望するように、沿岸漁業の配分枠を大幅に拡大すべきではないか。このことは、スルメイカなどの不漁にあえぐ地域漁業の現状を救済するためにも重要な課題であると考える。政府の見解を示されたい。

  右質問する。