第213回国会(常会)
内閣参質二一三第二三九号 令和六年七月二日 内閣総理大臣 岸田 文雄
参議院議長 尾辻 秀久 殿 参議院議員小西洋之君提出地方自治法第二百五十二条の二十六の五に定める各大臣の「生命等の保護の措置に関する指示」と地方自治の本旨等との関係に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。 参議院議員小西洋之君提出地方自治法第二百五十二条の二十六の五に定める各大臣の「生命等の保護の措置に関する指示」と地方自治の本旨等との関係に関する質問に対する答弁書 一について 地方自治法の一部を改正する法律(令和六年法律第六十五号。以下「改正法」という。)による改正後の地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号。以下「改正後地方自治法」という。)第二百五十二条の二十六の五第一項の規定に基づく指示は、国の関与は、法律又はこれに基づく政令によらなければならないとする「関与の法定主義」、また、国の関与を設けるに当たっては、必要な最小限度のものとするとともに、地方公共団体の自主性及び自立性に配慮しなければならないなどとする立法の指針としての「関与の基本原則」にのっとり、災害対策基本法(昭和三十六年法律第二百二十三号)や新型インフルエンザ等対策特別措置法(平成二十四年法律第三十一号)等を参考として、「国民の安全に重大な影響を及ぼす事態が発生し、又は発生するおそれがある場合において、当該国民の安全に重大な影響を及ぼす事態の規模及び態様、当該国民の安全に重大な影響を及ぼす事態に係る地域の状況その他の当該国民の安全に重大な影響を及ぼす事態に関する状況を勘案して、その担任する事務に関し、生命等の保護の措置の的確かつ迅速な実施を確保するため特に必要があると認めるとき」に、「他の法律の規定に基づき当該生命等の保護の措置に関し必要な指示をすることができる場合を除き、閣議の決定を経て、その必要な限度において」必要な指示をすることができることとしているものであり、お尋ねの「憲法の定める地方自治の本旨たる団体自治及び住民自治」及び「地方公共団体の自主性及び自立性」の趣旨に反するものではないと考えている。 二について 前段のお尋ねのうち、改正後地方自治法第二百五十二条の二十六の五第一項の規定に基づく指示の「いわゆる立法事実」については、例えば、新型コロナウイルス感染症への対応において、患者移送等について、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成十年法律第百十四号)に基づいて対応すべき保健所を設置する地方公共団体では十分な対応を講ずることが困難であり、国による都道府県の区域を超えた調整が必要となった事態や、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づいて使用制限を要請する施設の範囲等について、国と都道府県との間で考え方の相違によって調整が難航した事態が生じており、こうした事態が生じたこと等を踏まえ、国が果たすべき役割及び責任を明確にするため、後に、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律や新型インフルエンザ等対策特別措置法等の個別法の改正が行われているが、これまでの経験を踏まえると、今後も、個別法において想定されていない事態は生じ得るものであり、改正法はこうした場合に備えておくためのものである。 また、前段のお尋ねのうち、「「生命等の保護の措置の的確かつ迅速な実施を確保するため特に必要があると認めるとき」の趣旨」については、改正後地方自治法第二百五十二条の二十六の五第一項の規定に基づく指示は、「国民の安全に重大な影響を及ぼす事態の規模及び態様、当該国民の安全に重大な影響を及ぼす事態に係る地域の状況その他の当該国民の安全に重大な影響を及ぼす事態に関する状況を勘案して」指示を行う必要が特に認められる場合に行われることとするものである。 中段のお尋ねについては、改正法の立法事実は前段で述べたとおりであり、「立法事実を欠く」との御指摘は当たらない。 後段のお尋ねについては、一についてで述べたとおり、改正後地方自治法第二百五十二条の二十六の五第一項の規定に基づく指示は、地方自治の本旨等の趣旨に反するものではないと考えている。 三について お尋ねの地方自治法第二百四十五条の二及び第二百四十五条の三第一項の規定は、地方自治の本旨に基づき、「地方公共団体に関する制度の策定及び施策の実施に当たつて、地方公共団体の自主性及び自立性が十分に発揮されるようにしなければならない。」とする同法第一条の二第二項の規定の趣旨を踏まえたものであると考えている。 四について お尋ねの「地方自治法第二百五十二条の二十六の五」は、地方自治法第二百四十五条の二の「法律」に当たる。 五について 前段のお尋ねについては、改正後地方自治法第二百五十二条の二十六の五第一項の規定に基づく指示は、「ポストコロナの経済社会に対応する地方制度のあり方に関する答申」(令和五年十二月二十一日地方制度調査会)において、「国民の生命、身体又は財産の保護のための措置が必要であるにもかかわらず、個別法の規定では想定されていない事態が生じた場合には、国は地方公共団体に対し、個別法に基づく指示を行うことができないほか、地方自治法上も、地方公共団体の事務処理が違法等でなければ、法的義務を生じさせる関与を行うことができず、個別法上も地方自治法上も十分に役割を果たすことができないという課題がある。」とされたことを踏まえ規定したものであり、その法律上の要件については、一についてで述べたとおりであるが、当該要件に該当するか否かについては、当該指示を行う各大臣が、事態の規模、態様等に即して判断することとなる。また、各大臣は、当該指示をしたときは、その旨及びその内容を国会に報告するものとされており、これは、どのような場面においてどのような指示が行われたのか、国会においても適切に検証し、個別法の制定や改正に関する議論につなげていくことを目的とするものである。 後段のお尋ねについては、「補充的な指示」という用語は、地方制度調査会の調査審議において用いられ、改正後地方自治法第二百五十二条の二十六の五第一項の規定に基づく指示は、「他の法律の規定に基づき当該生命等の保護の措置に関し必要な指示をすることができる場合を除き」行うことができるとする当該指示の要件を踏まえたものとして、政府においても用いてきたところである。 六について 一についてで述べたとおり、国の地方公共団体に対する関与の基本原則を定めた地方自治法第二百四十五条の三の規定は、国の地方公共団体に対する関与についての立法の指針を定めたものであり、改正後地方自治法第二百五十二条の二十六の五第一項の規定に基づく指示は、当該指針にのっとって規定したものである。 七について 改正後地方自治法第二百五十二条の二十六の五第一項の規定に基づく指示については、その必要性が「国民の安全に重大な影響を及ぼす事態の規模及び態様、当該国民の安全に重大な影響を及ぼす事態に係る地域の状況その他の当該国民の安全に重大な影響を及ぼす事態に関する状況を勘案して」判断され、「その必要な限度において」行われることが、法律上、求められるものである。 八について 改正後地方自治法第二百五十二条の二十六の五第一項の規定に基づく指示を行うに当たっての地方公共団体への対応については、同条第二項において、「各大臣は、前項の規定により普通地方公共団体に対して指示をしようとするときは、あらかじめ、当該指示に係る同項に規定する国民の安全に重大な影響を及ぼす事態に関する状況を適切に把握し、当該普通地方公共団体の事務の処理について同項の生命等の保護の措置の的確かつ迅速な実施を確保するため講ずべき措置の検討を行うため、第二百五十二条の二十六の三第一項又は第二項の規定による当該普通地方公共団体に対する資料又は意見の提出の求めその他の適切な措置を講ずるように努めなければならない。」と規定しており、法律上、当該規定に基づく対応が求められるものである。 九について 改正後地方自治法第二百五十二条の二十六の五第一項の規定に基づく指示については、地方公共団体との間で十分な情報共有・コミュニケーションを図りつつ、目的を達成するために必要な最小限度の範囲で、地方公共団体の自主性及び自立性に配慮して行われるようにすることが重要であり、政府としては、御指摘の附帯決議の趣旨を尊重し、適切な施行に努めてまいりたい。 十について 前段のお尋ねについては、御指摘の「戦前の戦争のように政府の国策遂行に絶対に濫用することがないようにすること」の意味するところが明らかではないため、お答えすることは困難である。 後段のお尋ねについては、一についてから九についてまでで述べたとおりである。 |