質問主意書

第213回国会(常会)

答弁書

内閣参質二一三第一三七号
  令和六年五月二十八日
内閣総理大臣 岸田 文雄


       参議院議長 尾辻 秀久 殿

参議院議員神谷宗幣君提出次世代の教育を支えるための奨学金制度拡充に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員神谷宗幣君提出次世代の教育を支えるための奨学金制度拡充に関する質問に対する答弁書

一について

 「学歴で卒業後の就業での賃金格差が顕著である現状を、政府はどう見るのか」とのお尋ねについては、厚生労働省の「令和五年賃金構造基本統計調査」によると、「企業規模計(十人以上)」に係る「きまって支給する現金給与額」は、高等学校修了者は三十一万二千円、大学修了者は三十九万八千三百円、大学院修了者は五十一万千五百円となっており、これらの金額に違いは見られるものの、賃金は様々な要素の影響を受けて決定されるものであるため、最終学歴と賃金との関係について一概にお答えすることは困難である。

 「現在の我が国では共稼ぎしたとしても結婚に支障を来す水準と考えるが、政府はどう見るか」とのお尋ねについては、御指摘の「結婚に支障を来す水準」の意味するところが明らかではないため、お答えすることは困難である。

 「高卒者を含む若年労働者の所得引き上げについて、政府はいかなる計画を持っているのか」とのお尋ねについては、令和六年三月十五日の参議院予算委員会において、加藤国務大臣が「こども未来戦略は、若い世代が希望どおり結婚し、子供を持ち、安心して子育てできる社会を目指し、若い世代の所得を増やす、社会全体の構造や意識を変える、全ての子ども・子育て世帯を切れ目なく支援するという三つの理念の実現を図るものでございます。」と答弁したとおりである。

二について

 「この落差は何から生じていると考えるか」とのお尋ねについては、国立大学の授業料等の額は、国立大学等の授業料その他の費用に関する省令(平成十六年文部科学省令第十六号)において、授業料等の標準額及び上限額を定めている一方、私立大学の授業料等の額は、各大学の運営に必要な費用等を踏まえ、各大学の設置者において判断されていることによるものであると考えられる。

 「適切な学費額の基準設定を含め、政府として学費高騰を抑えるための仕組みが必要なのではないか」とのお尋ねについては、御指摘の「学費高騰を抑えるための仕組み」の具体的に意味するところが必ずしも明らかではないが、文部科学省としては、各大学の設置者に対し、学生の経済的負担の軽減を図る観点から、授業料等の額の抑制、減免、分割納入等の措置を積極的に講ずるよう要請してきているところである。

三について

 「我が国における奨学金返還免除制度が、「教育又は研究の職に係る」ものについて廃止され」「た理由は何か」とのお尋ねについては、令和三年三月十七日の衆議院文部科学委員会において、伯井文部科学省高等教育局長(当時)が「旧日本育英会におきましては、昭和二十八年度から、教職や研究職に一定期間以上従事した場合に、奨学金の返還を全額又は一部免除する教育・研究職免除制度というのを実施しておりました。これは、特定の職種に対してのみ優遇することへの不公平感等の観点から、学部等については平成十年度、大学院については平成十六年度に廃止し、新たに、大学院進学のインセンティブ付与の観点から、優れた業績を上げた大学院生を対象とした返還免除制度を導入した」と答弁したとおりである。

 「教育大学院卒の教員に限定して適用されるようになった理由は何か」とのお尋ねについては、御指摘の「教育大学院卒の教員に限定して」の意味するところが必ずしも明らかではないが、教職大学院を修了し教師となった者を中心として行う奨学金の返還に係る支援(以下「教師になった者に対する奨学金返還支援」という。)は、中央教育審議会初等中等教育分科会教員養成部会が令和六年三月十九日に取りまとめた「優れた教師人材の確保に向けた奨学金返還支援の在り方について 議論のまとめ」において「現行制度の活用による速やかな実行という観点から、大学院段階を対象とした奨学金の返還免除が考えられるが、教師という職に求められる高度の専門性及び教師という職へ就くことへの連続性の見地から、まずは、学校現場への実習等を必修のカリキュラムとしており、総じて高い教員就職率を維持し続けている教職大学院を修了し教師となった者を中心に返還免除を実施すべき」とされていることを踏まえ、実施するものである。

 「現在の教員不足の具体的な数字」に関するお尋ねについては、文部科学省が令和四年一月三十一日に公表した「「教師不足」に関する実態調査」において、「教師不足」とは、「臨時的任用教員等の講師の確保ができず、実際に学校に配置されている教師の数が、各都道府県・指定都市等の教育委員会において学校に配置することとしている教師の数(配当数)を満たしておらず欠員が生じる状態」と定義しているところ、この「欠員」の人数は、令和三年五月一日時点において二千六十五人となっている。

 「この制度導入による教員不足の解消見込みをどのように見積もっているか」とのお尋ねについては、教師になった者に対する奨学金返還支援は教師不足の解消のみを目的として実施するものではないため、お答えすることは困難である。

 「教員の働き方の見直しや処遇改善、育成支援に先立って奨学金返還支援が優先されている理由は何か」とのお尋ねについては、教師不足の解消に向けては、「経済財政運営と改革の基本方針二〇二三」(令和五年六月十六日閣議決定)において、「働き方改革の更なる加速化、処遇改善、指導・運営体制の充実、育成支援を一体的に進める」とされていることも踏まえてこれらの取組を順次進めているところであり、「教員の働き方の見直しや処遇改善、育成支援に先立って奨学金返還支援が優先されている」との御指摘は当たらないと考えている。

 「公務員などの公共サービスに従事する卒業生に対する奨学金返済免除や猶予制度等を導入する計画はあるか」とのお尋ねについて、教師以外の特定の職に就いたことをもって独立行政法人日本学生支援機構(以下「機構」という。)の奨学金の返還を猶予又は免除することは、現時点において検討していない。

四について

 「留学生が卒業後または在学中に自国に帰国してしまう場合、支給された分にあたる奨学金への対応策をどのように考えているか」とのお尋ねについては、御指摘の「一人当たり約百六十八万円の奨学金に充てる補助金」の「拡充」の意味するところが必ずしも明らかではないが、外国人留学生が介護福祉士養成施設を卒業した後に帰国したときは、令和六年度当初予算において措置された「外国人留学生への奨学金の給付等に係る支援事業」において介護福祉士養成施設の卒業年度に介護福祉士試験を受験する意思のある留学生に対して学費や生活費の給付等を行う介護施設等に対する費用の補助(以下「費用補助」という。)に係る補助金の返還は、不要としているが、留学生が介護福祉士養成施設を卒業する前に帰国したときは、都道府県が費用補助に係る補助金の概算払を行った介護施設等に対し、当該留学生が帰国した日以降の分の補助金の返還を求めることとしている。

 「日本人学生に対する同様の補助金の検討はされているか」とのお尋ねについては、御指摘の「日本人学生に対する同様の補助金」の創設は検討していないが、介護福祉士養成施設の学生等の学費等に関する支援としては、卒業後に介護福祉士として一定期間介護業務に従事した場合に返還の債務を免除する「介護福祉士修学資金等貸付事業」を実施しているところである。

五について

 御指摘の「奨学金の返済条件」及び「返済開始の所得基準」の意味するところが必ずしも明らかではないが、機構の奨学金の返還に係る負担軽減については、令和六年二月九日の衆議院予算委員会において、盛山文部科学大臣が「日本学生支援機構の奨学金の返還につきましては、これまでも、返還の猶予や毎月の返還額を減額する制度等により負担軽減を図ってまいりました。さらに、昨年十二月に閣議決定されましたこども未来戦略に基づきまして、奨学金の返還が負担となって、・・・結婚、出産、子育てをためらうことがないよう、毎月の返還額を減額する制度について、令和六年度から、利用可能な年収上限を三百二十五万円から四百万円に引き上げるとともに、子育て時期の経済的負担に配慮する観点から、子供二人の世帯は五百万円、子供三人以上の世帯は六百万円まで更に引き上げるなど、返還負担の更なる軽減を進めていくこととしております。その上で、・・・奨学金の返還を免除にすることにつきましては、貸与型奨学金事業が貸与した学生等からの返還金が次の世代の学生等への奨学金の原資となっていることや、既に返還を完了した方との公平性の観点などから、慎重な検討が必要と考えております。いずれにせよ、文部科学省としては、こども未来戦略に基づきまして、高等教育費の負担軽減を着実に進めてまいりたいと考えております。」と答弁したとおりである。

六について

 「海外の奨学金制度を我が国の同種制度と比較して優れたものがある事例を認識していれば、示されたい」及び「例えば主要先進国と日本の制度の優劣はいかなる状況にあるのか」とのお尋ねについては、諸外国における奨学金制度についてその詳細を網羅的に把握しているわけではなく、また、奨学金制度の実施形態は各国において様々であり、奨学金制度の「優劣」について一概に評価することは困難であるため、お答えすることは困難である。

 「日本の奨学金制度の将来像について、主要先進諸国の中でいかなる地位を我が国が占めていく見通しを持っているのか」とのお尋ねについては、御指摘の「主要先進諸国の中でいかなる地位を我が国が占めていく」の意味するところが明らかではないため、お答えすることは困難である。

 「認識と将来計画の在り方など、奨学金制度の長期的な展望や目標をどのように設定しているか」及び「次世代の学生に対する教育支援のビジョンについて、具体的に説明されたい」とのお尋ねについては、その趣旨が必ずしも明らかではないが、政府としては、「こども未来戦略」(令和五年十二月二十二日閣議決定)において、「「加速化プラン」の「ライフステージを通じた子育てに係る経済的支援の強化や若い世代の所得向上に向けた取組」に基づき実施する施策を着実に進め、その実施状況や効果等を検証しつつ、高等教育費の負担や奨学金の返済などが少子化の大きな要因の一つとなっているとの指摘があることに鑑み、奨学金制度の更なる充実や授業料負担の軽減など、高等教育費の負担軽減を中心に、ライフステージを通じた経済的支援の更なる強化や若い世代の所得向上に向けた取組について、適切な見直しを行う。」としており、引き続き、高等教育段階における教育費の負担軽減に取り組んでまいりたい。

七について

 自殺の動向のより的確な把握のため、警察庁において自殺統計原票を改正し、御指摘の「奨学金の返済苦」を「自殺の原因・動機」の一つとして新たに追加し、令和四年一月から運用を開始したものである。