質問主意書

第213回国会(常会)

答弁書

内閣参質二一三第六四号
  令和六年三月十五日
内閣総理大臣 岸田 文雄


       参議院議長 尾辻 秀久 殿

参議院議員須藤元気君提出半導体政策の妥当性に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員須藤元気君提出半導体政策の妥当性に関する質問に対する答弁書

一の1及び6について

 御指摘の「技術の移転がなくても」及び「直ちに」の具体的に意味するところが必ずしも明らかではないが、参議院議員神谷宗幣君提出日本政府の半導体政策に関する再質問に対する答弁書(令和五年五月二十六日内閣参質二一一第七五号)一並びに二の1、3並びに4の(一)、(二)及び(四)についてで述べたとおり、御指摘のように「外資系企業」によるものであっても、我が国において特定半導体(特定高度情報通信技術活用システムの開発供給及び導入の促進に関する法律(令和二年法律第三十七号。以下「法」という。)第二条第四項に規定する特定半導体をいう。以下同じ。)の生産施設等が整備され、生産が行われることは、半導体製造装置や半導体材料等の関連産業の集積、人材育成等を通じて、我が国における半導体関連技術の向上や半導体関連産業の発展に資するものであると考えており、「効果は極めて限定的であり・・・費用対効果の観点からも、政策の妥当性は認められない」との御指摘は当たらないものと考えている。

 なお、経済波及効果等については、例えば、令和五年八月に株式会社日本政策投資銀行が公表した「二千二十三年度地域別設備投資計画調査」によれば、九州地方における令和五年度の製造業の設備投資額として、前年度実績の二倍を超える額が計画されていると承知しており、また、令和六年三月に財務省が公表した「四半期別法人企業統計調査(令和五年十~十二月期)」によれば、我が国全体の製造業における設備投資は対前年同期比で二十・六パーセント増加し、そのうち、半導体や電子部品などを含む情報通信機械は対前年同期比で六十五・八パーセント増加している。こうしたことなどから、Taiwan Semiconductor Manufacturing Company Limited(以下「TSMC」という。)の熊本への進出が、九州地方及び我が国における情報通信機械に関連する産業に大きな経済波及効果等をもたらしていると認識している。

一の2について

 御指摘の「制度上の欠陥」の意味するところが必ずしも明らかではないが、先の答弁書(令和六年三月五日内閣参質二一三第四六号。以下「前回答弁書」という。)五についてで述べたとおり、世界貿易機関を設立するマラケシュ協定(平成六年条約第十五号)附属書一Aの千九百九十四年の関税及び貿易に関する一般協定第十一条は、食糧その他輸出締約国にとって不可欠な産品の危機的な不足を防止するために一時的に課すものであること等の例外的な場合を除き、他の締約国への輸出について、関税その他の課徴金以外の制限を課すことを原則として禁止していることから、法は、国内向けに優先的に出荷する義務を課してはいないものの、法第十一条第三項の認定(以下「認定」という。)の要件として、同項第四号において、同項第二号に規定する特定半導体等(以下「特定半導体等」という。)の需給がひっ迫した場合において増産すること等や、同号及び経済産業省関係特定高度情報通信技術活用システムの開発供給及び導入の促進に関する法律施行規則(令和二年経済産業省令第六十八号)第十条において、法第十一条第一項に規定する特定半導体生産施設整備等計画(以下「特定半導体生産施設整備等計画」という。)に基づく特定半導体等の生産が十年以上継続的に行われると見込まれることを求めているところ、御指摘の「TSMCの熊本第二工場」に係るものを含め、TSMC及びJapan Advanced Semiconductor Manufacturing株式会社(以下「JASM」という。)から提出された特定半導体生産施設整備等計画については、経済産業大臣において、当該特定半導体生産施設整備等計画に、「十年以上の継続生産を予定」、「JASMは、需給がひっ迫した場合には、緊急時対応として稼働率を向上させ、増産に取り組む」、「製品の納入先」は「日本の顧客が中心」、「TSMCは、日本政府からの要請に応じ、日本の顧客向けの供給拡大について誠実に協議に応じる」等といった旨の記載がなされていることも踏まえ、同条第三項各号に掲げる要件を満たすものと判断し、令和四年六月及び令和六年二月に認定を行ったものである。

 このことから、「第五一号答弁書の答弁を事実上撤回している」、「特定半導体が逼迫した際に国内の半導体購入企業に優先的に供給する仕組みが組込まれていないことは、法律の趣旨に照らして、極めて重要な欠陥がある」及び「TSMCの熊本第二工場の認定においてもこの問題は解決されていない」との御指摘は当たらないものと考えている。

一の3について

 御指摘の「認定要件とは基本的に無関係である」の意味するところが必ずしも明らかではないが、認定の取消しについては、前回答弁書五についてで述べたとおりであり、「国内における安定的な生産に資する取組が行われていないことをもって、当該認定を取り消すことができないのは明らかであり、論理的に矛盾している」との御指摘は当たらないものと考えている。

 また、お尋ねの「特定半導体等の需給が逼迫した場合において、国内において特定半導体の安定的な供給が実現されるような対応」については、特定半導体等の増産や特定半導体等の生産能力を強化するための投資及び研究開発などを想定している。

一の4について

 御指摘の「国益上の理由」及び「その妥当性」の意味するところが必ずしも明らかではないが、半導体の重要性については、例えば、令和五年十一月二十日の衆議院本会議において、岸田内閣総理大臣が「半導体は、デジタル化や脱炭素化の実現に不可欠であり、さらに、経済安全保障の観点からも重要な戦略物資です。半導体の安定的な供給の確保は喫緊の課題です。半導体分野での国内投資を進めることで、経済成長の基盤をつくってまいります。大型プロジェクトが進むことにより、地域に良質な雇用を生み、賃上げと投資の好循環の実現が期待できます」と答弁しており、特定半導体については、法第三条第二項において、「特定半導体生産施設整備等は、特定半導体が特定高度情報通信技術活用システムに不可欠なものであり、かつ、我が国産業の国際競争力の強化をもたらす源泉であることに鑑み、国際的に特定半導体の生産能力が限られている状況においてもその需給の変動に対応できるよう我が国の技術の向上により特定半導体の国内における安定的な生産を確保すること、及び我が国における特定半導体の生産に関係する産業の発展に資することを旨とし、国及び事業者が相互に密接な連携を図りつつ行うものとする」とされていることから、御指摘のように「外資系企業」であるか否かにかかわらず、認定を受けた事業者に対して支援を行うこととしている。

一の5について

 TSMC及びJASMから提出された特定半導体生産施設整備等計画の認定については、一の2についてで述べたとおりであり、「外国企業向けの半導体需要を充足させるためにTSMCを誘致する合理性、妥当性は認められない」との御指摘は当たらないものと考えている。

一の7について

 法第十一条第一項に基づき提出された特定半導体施設整備等計画が同条第三項各号に掲げる要件を満たすものであると認められたときは、経済産業大臣において認定を行うものである。その上で、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構法(平成十四年法律第百四十五号)第十六条の四第一項に規定する特定半導体基金に係る事業については、行政事業レビューの枠組みの下で、基金シートの作成・公表等を通じ、経済産業省において執行状況等を継続的に把握し、厳格な点検に取り組んでいるところである。また、同大臣は、同法第十六条の五第二項の規定に基づき、毎事業年度、同基金の執行状況を始めとした国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構の事業内容を国会に報告しており、この他にも、同大臣が認定を行った特定半導体施設整備等計画の概要を同省のウェブサイトで公表していることから、「予算執行の透明性という観点から極めて問題である」との御指摘は当たらないものと考えている。

一の8について

 お尋ねについては、経済産業省において、半導体に係る政策の検討に際し、半導体の国際的な需給の動向等について、各種の統計等の公表資料のほか、事業者や調査会社等との情報交換を通じて、適切な把握に努めているところ、我が国における特定半導体の需要は今後も増加していき、御指摘の「六/七ナノメートルの半導体」についても、引き続き一定の需要があるものと認識しており、また、御指摘の「TSMCの第二工場」への支援についても、我が国における、特定半導体の安定的な生産の確保及び特定半導体の生産に関係する産業の発展に資するものと考えている。

二について

 お尋ねについては、個別の報道を前提としたものであり、また、民間企業であるTSMCにおいて検討中の事柄に関するものであることから、お答えすることは差し控えたい。

三について

 御指摘の「国家戦略」の具体的に意味するところが明らかではないため、お尋ねについてお答えすることは困難であるが、いずれにせよ、我が国における半導体の安定的な供給の確保に向けては、これまで、御指摘の「日本の半導体企業」に対し、半導体等については、経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律(令和四年法律第四十三号)等に基づく支援等を実施してきており、これに加え、特定半導体については、法に基づく支援を実施しているところである。

 なお、一の1及び6についてで述べたとおり、特定半導体の生産施設等が整備され、生産が行われることは、半導体製造装置や半導体材料等の関連産業の集積、人材育成等を通じて、我が国における半導体関連技術の向上や半導体関連産業の発展に資するものであると認識している。