質問主意書

第213回国会(常会)

質問主意書

質問第二三九号

地方自治法第二百五十二条の二十六の五に定める各大臣の「生命等の保護の措置に関する指示」と地方自治の本旨等との関係に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和六年六月二十一日

小西 洋之


       参議院議長 尾辻 秀久 殿



   地方自治法第二百五十二条の二十六の五に定める各大臣の「生命等の保護の措置に関する指示」と地方自治の本旨等との関係に関する質問主意書

 政府は、参議院予算委員会(平成三十一年三月十五日)において、憲法の定める地方自治の本旨及び地方自治法第一条の二に定める地方公共団体の自主性及び自立性の関係について、「憲法における地方自治の本旨とは、地方自治体が地方の行政を自主的に処理するという団体自治と、地方自治体の運営は住民の意思と責任に基づいて行うという住民自治とを意味するものであると解されているところであります。地方自治法第一条の二第二項におきましては、国は、国際社会における国家としての存立に関わる事務の実施など国が本来果たすべき役割を重点的に担うことを基本として、地方公共団体との間で適切に役割分担をすることとし、地方公共団体に関する制度の制定及び施策の実施に当たって、地方公共団体の自主性及び自立性が十分に発揮するようにしなければならないこととされており、これは憲法の定める地方自治の本旨を具現化するものであります。ここに言う自主性及び自立性とは、地方公共団体が地方自治に係る事項について自主的に解決し、自ら決定していくべきことを規定したものであります。また、国際社会における国家としての存立に関わる事務の具体例としては、外交、防衛、通貨、司法等が考えられるところであります。」と答弁している。

 これを踏まえ、以下質問する。

一 地方自治法第二百五十二条の二十六の五に定める各大臣による普通地方公共団体に対する「生命等の保護の措置に関する指示」が、憲法の定める地方自治の本旨たる団体自治及び住民自治並びに地方自治法第一条の二に定める地方公共団体の自主性及び自立性の趣旨に反しない理由について具体的に説明されたい。

二 政府は、地方自治法第二百五十二条の二十六の五に定める「国民の安全に重大な影響を及ぼす事態が発生し、又は発生するおそれがある場合」について、具体的にどのような事態等を想定しているのかについて国会で説明を行っていないのではないか、すなわち、同条の各大臣による普通地方公共団体に対する「生命等の保護の措置に関する指示」の権限について政府としてその政策的な必要性及び合理性に係るいわゆる立法事実は何であるかについて、政府の見解を示されたい。加えて、同条に定める「生命等の保護の措置の的確かつ迅速な実施を確保するため特に必要があると認めるとき」の趣旨について具体的に説明されたい。

 また、こうした立法事実を欠く以上は、当該指示権限は、地方自治の本旨たる団体自治及び住民自治の趣旨に反し、かつ、「地方公共団体に関する制度の制定及び施策の実施に当たつて、地方公共団体の自主性及び自立性が十分に発揮されるようにしなければならない」と地方自治の本旨を具現化した同法第一条の二第二項の趣旨に反し、更には、同条項の「自主性及び自立性とは、地方公共団体が地方自治に係る事項について自主的に解決し、自ら決定していくべきことを規定したもの」との趣旨に反するのではないか。

 さらには、各大臣が指示を行うに際し、地方自治法第二百五十二条の二十六の五第二項において、意見の提出を求める等の適切な措置を講じる努力義務しか各大臣に課していないことは、これらの地方自治の本旨等の趣旨に反し、法的に許されないものではないか。

三 地方自治の本旨並びに地方自治法第一条の二に定める地方公共団体の自主性及び自立性と、同法第二百四十五条の二に定める関与の法定主義の「普通地方公共団体は、その事務の処理に関し、法律又はこれに基づく政令によらなければ、普通地方公共団体に対する国又は都道府県の関与を受け、又は要することとされることはない。」の規定及び同法第二百四十五条の三に定める関与の基本原則のうち「国は、普通地方公共団体が、その事務の処理に関し、普通地方公共団体に対する国又は都道府県の関与を受け、又は要することとする場合には、その目的を達成するために必要な最小限度のものとするとともに、普通地方公共団体の自主性及び自立性に配慮しなければならない。」との規定の関係について可能な限り具体的に説明されたい。

四 この度の改正において「生命等の保護の措置に関する指示」を定める地方自治法第二百五十二条の二十六の五は、同法第二百四十五条の二「普通地方公共団体は、その事務の処理に関し、法律又はこれに基づく政令によらなければ、普通地方公共団体に対する国又は都道府県の関与を受け、又は要することとされることはない。」の「法律」に当たるものなのか。関与の法定主義を定める同法第二百四十五条の「法律」とは、当然に、地方自治法以外の法律を意味するのであって、地方自治法の改正によって国による普通地方公共団体への指示権限を定めるのは、地方自治の本旨及び同法第二百四十五条の二との関係で法的に許されないのではないか。

五 前記三について、仮に、「生命等の保護の措置に関する指示」を定める地方自治法第二百五十二条の二十六の五が同法第二百四十五条の二に定める「法律」に当たるものであったとしても、憲法が定める地方自治の本旨及び地方自治法が定める関与の法定主義の趣旨に照らせば、各大臣が普通地方公共団体に「生命等の保護の措置に関する指示」を行うことができる場合は、法的に、各大臣に指示権限を付与する個別法を制定する又は改正するいとまがない場合であって、かつ、当該指示以外の措置では目的を達成することができないと認められる場合に限定されるのではないか、政府の見解を示されたい。これに関し、地方自治の本旨及び関与の法定主義の趣旨から「生命等の保護の措置に関する指示」の運用についてどのような法的制限がかかるものであるのかについて政府の見解を示されたい。

 また、政府は同法第二百五十二条の二十六の五の各大臣の指示について「補充的な指示」と説明しているが、同条において一般的な指示権を各大臣に付与しているのであるからこの「補充的な指示」という呼称は事実に反する虚偽に当たるものではないか。仮に、虚偽に当たらないとするのであれば、上記で質問する当該法的制限の内容が具体的に説明されなければならないと考えるが、政府の見解を示されたい。

六 地方自治法第二百五十二条の二十六の五に定める各大臣による普通地方公共団体に対する「生命等の保護の措置に関する指示」は、同法第二百四十五条の三に定める関与の基本原則「国は、普通地方公共団体が、その事務の処理に関し、普通地方公共団体に対する国又は都道府県の関与を受け、又は要することとする場合には、その目的を達成するために必要な最小限度のものとするとともに、普通地方公共団体の自主性及び自立性に配慮しなければならない。」の適用を受けるのか、すなわち、その法的な規律に服するものなのか。

七 憲法の定める地方自治の本旨及び地方自治法第二百四十五条の三に定める関与の基本原則「国は、普通地方公共団体が、その事務の処理に関し、普通地方公共団体に対する国又は都道府県の関与を受け、又は要することとする場合には、その目的を達成するために必要な最小限度のものとするとともに、普通地方公共団体の自主性及び自立性に配慮しなければならない。」の趣旨を踏まえれば、同法第二百五十二条の二十六の五に定める各大臣による普通地方公共団体に対する「生命等の保護の措置に関する指示」の内容は、その目的を達成するために必要最小限のものとするとともに、普通地方公共団体の意見や地域の実情を適切に踏まえたものとすることが法的に求められているのではないか、すなわち、このような指示の内容であることとすることが各大臣の法的責務であると考えてよいか。あるいは、各大臣においてどのような内容の指示であれば、地方自治の本旨並びに地方公共団体の自主性及び自立性の趣旨に基づき法的に合法なものとなると考えているのか、政府の見解を示されたい。

八 前記六について、憲法の定める地方自治の本旨及び地方自治法第二百四十五条の三に定める関与の基本原則を踏まえれば、各大臣が普通地方公共団体に対して「生命等の保護の措置に関する指示」を行うに当たっては、状況に応じて、あらかじめ当該普通地方公共団体との協議を行うなど、事前に当該普通地方公共団体と十分に必要な調整を行うことが法的に求められていると解してよいか。あるいは、各大臣が指示を行うに際し、どのような手続き措置を講じれば、地方自治の本旨並びに地方公共団体の自主性及び自立性の趣旨に基づき法的に合法なものとなると考えているのか、政府の見解を示されたい。

九 参議院総務委員会における「地方自治法の一部を改正する法律案に対する附帯決議」の「三、生命等の保護の措置に関する指示を行うに当たっては、状況に応じて、あらかじめ関係地方公共団体等との協議を行うなど、事前に関係地方公共団体等と十分に必要な調整を行うこと。」、「四、生命等の保護の措置に関する指示については、地方公共団体の自主性及び自立性に極力配慮し、個別法を制定又は改正するいとまがない場合であって、かつ、当該指示以外の措置では目的を達成することができないと認められる場合に限定してこれを行うようにすること。また、当該指示の内容は、目的を達成するために必要最小限のものとするとともに、地方公共団体の意見や地域の実情を適切に踏まえたものとすること。」の事項についての政府の受け止め、特に、これらは「生命等の保護の措置に関する指示」の運用に当たっての解釈指針となるべき内容のものでないかについて政府の見解を示されたい。

十 地方自治法第二百五十二条の二十六の五の各大臣の指示が、戦前の戦争のように政府の国策遂行に絶対に濫用することがないようにすることについての政府の決意と誓いを示されたい。また、当該指示制度が濫用されないようにするためには、本質問主意書の問一から問九までの質問に政府が真摯に答弁し、当該指示制度の運用を規律する法的要件について具体的に明らかにする必要があると考えるが政府の見解を示されたい。

  右質問する。