質問主意書

第213回国会(常会)

質問主意書

質問第二三〇号

犯罪被害者等の経済的被害回復の現状及び現行の損害賠償命令制度に関する政府の評価等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和六年六月二十一日

牧山 ひろえ


       参議院議長 尾辻 秀久 殿



   犯罪被害者等の経済的被害回復の現状及び現行の損害賠償命令制度に関する政府の評価等に関する質問主意書

 犯罪被害者やその御家族の方々にとって、日々の生活を営むために、経済的被害の回復は非常に重要である。また、加害者に損害賠償を求めることはその罪を認識させる上でも重要であると考える。

 殺人等の犯罪の被害者は、加害者側の資力が乏しいこと等から十分な損害賠償金を受け取れない場合が多いとされており、法務省の二〇〇〇年の調査では、賠償金が全額支払われたケースは六・六%に過ぎない。

 また、日本弁護士連合会が二〇一八年に実施した「損害賠償請求に係る債務名義の実効性に関するアンケート調査」によると、死亡・傷害等の身体犯罪及び性犯罪で債務名義や示談書を取得した事案において、加害者から、定められた全額の支払を受けたものが約三十九%、一部の支払にとどまったものが約十二%、全く支払われなかったものが約四十八%だった。もっとも、全額の支払を受けた約三十九%には、被害者等が金額を譲歩して合意する訴訟上の和解や示談で解決した事案を含むことから、合意した「全額」が実損害の全額を下回る事案も多く、全額の支払を受けたからといって、この約三十九%の事案全てにおいて十分な被害回復が果たされたとは言えない。殺人等の被害者死亡事案に限ると、賠償額全額を受け取ることができたものは僅か約四・四%である一方、全く支払われなかったものは約七十三・六%だった。このように、第一義的に責任を負うべき加害者に対する債務名義を取得してもなお損害賠償金の支払を十分に受けることができないという実態が明らかになっている。

 犯罪被害者の方々が加害者から損害賠償を得るためには、民事上の損害賠償請求訴訟を提起する必要があるが、この訴訟提起を支援する制度として、「損害賠償命令制度」がある。本制度は、刑事手続の成果を利用することにより、簡易かつ迅速に、犯罪被害者の方々の損害賠償請求訴訟の裁判を進める制度であり、二〇〇八年十二月以降に起訴された事件から適用されているが、制度の利用を示す刑事損害賠償命令事件の新受件数の推移は、ここ五年間は三百件前後であり、横ばいで推移している。

 本制度は、被害者にとって大変有益な制度であり、改善して、より使い勝手の良い制度にしていくべきである。

 以前に、本制度が利用された事案における損害賠償金の支払の統計的、全体的な調査を行っていないとの政府の答弁があったため、その理由について尋ねたところ、加害者が任意に支払いをする場合等もあり、把握が困難なので行っていないとの回答を得て、大変残念に思う。以上を踏まえ、以下質問する。

一 本制度に限らず、制度というものは作って終わりではない。当該制度が有効に機能しているかの評価は問題が起こってからするのではなく、制度の運用実績の分析から始めるのが基本であり、普段から当然行うべきである。

 そこで、まず、この損害賠償命令制度の運用実績についての政府の評価及び現時点での本制度の課題についてどのように認識しているか示されたい。

二 本制度については、対象犯罪が限られている、被告人以外の者、たとえば、少年事件における保護者に対する請求等に対しては利用できない、起訴事実に不満がある被害者には制度の実効性が乏しい、控訴審が行われている高等裁判所に損害賠償命令の申立てをすることができないといった点等が指摘されているため、こういった点について、議論し検討すべきと考えるが、政府の方針を示されたい。

三 犯罪被害者支援は、現在取り組むべき課題として様々な検討がなされている重要なトピックスであり、既存の制度である損害賠償命令制度もきっちり検証する必要がある。その検証に当たっての制度の評価、改善の議論の大前提として、制度の利用状況の把握は基本となるため、損害賠償命令制度の運用実績の統計的、全体的な調査にも今後取り組むべきと考えるが政府の方針を示されたい。

  右質問する。