質問主意書

第213回国会(常会)

質問主意書

質問第二二八号

共同親権に係る改正民法の解釈及びガイドライン等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和六年六月二十一日

牧山 ひろえ


       参議院議長 尾辻 秀久 殿



   共同親権に係る改正民法の解釈及びガイドライン等に関する質問主意書

 去る五月十七日、民法等の一部を改正する法律案が参議院本会議で可決、成立した。同法案に対しては様々な問題や懸念が指摘され、審議を通じてそれらが払拭されたとは言えず、多くの疑問や曖昧な点が残されたままである。

 よって、以下質問する。

一 改正民法第八百二十四条の二は親権を単独行使できる者を単に「その一方」(同条第一項)、「父母」(同条第二項)としているが、法務省の法案説明資料では「現に子を監護している親による親権の単独行使」と明記していた。

1 同条第一項及び第二項における親権単独行使者は「現に子を監護している親」と解してよいか。

2 同条第二項に基づき、現に子を監護する同居親が教育、医療、購買その他に係る日常の行為につき親権を単独行使した場合、現に子を監護しない別居親がこれと矛盾する親権行使をすることはできないものと解されるがよろしいか。

3 日常的に子を監護していない別居親が親子交流に際して同条第二項に基づき親権を単独した場合において、それが日常的に子を監護する同居親の単独親権行使と矛盾することが起こり得る。例えば、子の定期通院先とは異なる病院を受診させ、異なる薬の処方を求め、それが単に別居親の独自の思想に基づいていたり、同居親に対する嫌がらせであったりする等であって相当の理由が認められない場合である。このような場合において、同居親は別居親の行為を無効なものとし又は取消すことができるか明らかにされたい。

二 改正民法第八百二十四条の二第一項第三号の「急迫の事情」に係り、例えば、数年後に手術をすることを前提にそれに向かって治療を重ねていくという場合や手術を要しない慢性疾患で長期的、段階的に治療を進めるという場合がある。

1 こういった場合においては、その治療方針の決定や大きな変更が重要事項に当たり親権の共同行使が求められると考えられるがよろしいか。

2 その場合の「急迫の事情」とはどう考えられるのか。治療開始の遅れは即座には生命・健康に関わらないとしても、長期的には生命・健康や生活の質に関わり得る。例えば、医師が複数の選択肢を示し、いつまでに決定することが望ましいとした場合に、その時期を基準点として急迫性が判断されるのか。

三 民法改正案審議においては、加害的、敵対的な別居親の親権の濫用に関し、改正民法第八百十七条の十二に定められた人格尊重・協力義務の規定や親権停止、親権者変更等のペナルティが防止策として答弁された。しかしながら、同じく法案審議において確認された、DV加害者は加害を否認し、又自らの正しさを押し通す等の特性に鑑みれば、これらが防止策として機能するとは考え難い。同様に、衆参法務委員会附帯決議で政府に策定が求められたガイドライン等もその趣旨が適切に理解されないおそれがある。このような事態が生じないよう、家庭裁判所の審判において共同親権適用の可否が慎重に判断される旨の答弁もなされているが、改めて政府として懸念解消のためにいかなる取組を行う予定であるのか、具体的に示されたい。

四 衆参法務委員会附帯決議で政府にガイドライン等の策定が求められ、政府は関係府省庁の連絡会議を設置することを答弁している。一方、参議院法務委員会の附帯決議の三では「ガイドラインの策定等に当たり、DV・虐待などに係る知見等を踏まえることや、DV被害者等の意見を参考にすること」が求められているが、これを連絡会議の組織及び運営に当初から実質的に組み込むことが不可欠であり、検討が進んでから形式的に意見聴取をする等の対応は許されないものと解される。政府は附帯決議に表された立法者の意思をどう具体化する計画であるのか明らかにされたい。

五 民法等改正案の審議では監護の分掌や共同養育計画が良いものであるという前提でのやり取りが目立ったが一般的に議論するのは危険である。

1 父母間で養育費を含めた基本的な権利義務や役割分担を明確にすることは良いが、同居親と子を事細かに拘束し行動を制約するものは、過度な負担を課し心身に有害な影響をもたらし得る。つまり、ポスト・セパレーション・アビューズに該当する場合もあるが、政府の認識を示されたい。

2 共同養育計画が別居親の一方的な希望を叶えるもの、勝手な都合に合わせるもの、独善的な「正しい子育て」に沿ったものとならないこと、そして、子や同居親の体調や気持ち、予定の変更などに柔軟に対応できるものであることが不可欠である。特に、子どもは急に体調を崩すものであるし、成長に伴って交友関係や行動範囲が広がり、興味関心も変わっていく。予め両親が決めた計画に無理やり合わせさせることがあってはならない。政府は以上のことをどのように担保するつもりであるのか明らかにされたい。

六 民法等改正案の審議において政府は「親権」等の英語訳は未定であると答弁した。これまでも、国毎に法体系・制度も運用体制も異なる中で、個々の用語の翻訳はもとより日本の家族法に係る説明が海外において様々な誤解を招き、それを元に日本への非難や法改正要求がされてきたのではないかとの批判がある。今般の民法等改正に係る対外発信においてはその反省を踏まえ、訳語の選定や発信内容の整理が必要と考える。その前提として、これまでの家族法に係る対外発信について国際連合の諸会合等での発言、応答等も含めて評価し、海外においていかなる誤解が生じて来たのかの検証を行うことが不可欠であるが、政府の認識を示されたい。

  右質問する。