第213回国会(常会)
質問第二〇五号 共同親権とドメスティック・バイオレンス等に関する質問主意書 右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。 令和六年六月二十一日 石川 大我
参議院議長 尾辻 秀久 殿 共同親権とドメスティック・バイオレンス等に関する質問主意書 去る五月十七日に成立した民法等の一部を改正する法律についてはDVに係る懸念が多く表明され、法案審議において必ずしもそれらが払拭されたとは言えない他、改正民法の趣旨・内容や政府答弁の誤解に基づく発信や行動も目立っているところである。 よって、以下質問する。 一 特に五月十六日の参議院法務委員会での法務大臣及び法務省民事局長の答弁を踏まえれば、離婚後共同親権への父母双方の合意がなく、一方からDV又は虐待の主張がなされている場合には、家庭裁判所においては先ずその当否、及び「父又は母が子の心身に害悪を及ぼすおそれがあると認められる」(改正民法八百十九条第七項第一号)か否か又は「父母の一方が他の一方から身体に対する暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動…を受けるおそれの有無」(同第二号)が検討されることとなると考えられるが、それでよろしいか。又、このような解釈、理解が家庭裁判所関係者に周知徹底されることが不可欠であるが政府としてはどのように取り組むか併せて示されたい。 二 五月十四日の参議院法務委員会においては、DV被害者、虐待被害者の特徴と面接の仕方、話の聞き方といったことについて、内閣府男女共同参画局とこども家庭庁が知見と取組を答弁した。これらが家庭裁判所において実践されることが不可欠であるところ、裁判官、調停委員、調査官などの内、トラウマインフォームドケア(相手にトラウマがあることを理解した関わり、トラウマがあるかもしれないと想定した関わり)に習熟している者はどの程度おり、向こう二年間でどう増やしていく計画となっているのか、政府の承知していることを明らかにされたい。 三 五月九日の参議院法務委員会において、最高裁判所事務総局家庭局長は二〇一二年の細谷郁他の論文「面会交流が争点となる調停事件の実情及び審理の在り方」に端を発する「面会交流原則実施論」と呼ばれる運用がなされた期間への批判を含む質問に対して「現状の面会交流の話もいろいろ御批判があると認識しておりまして、これについては真摯に受け止める必要があるというふうに考えております」と答弁した。DV・虐待被害者であっても、その被害の訴えや反対の意思表明等が無視又は軽視され面会交流が強制されたとの批判が多いこの期間の運用について、同居親及び子の評価や意見等の収集、面会交流中又は面会交流を巡って起きた事件及びトラブルの検証などを含め丁寧に検証することが不可欠である。既に二〇二〇年の東京家庭裁判所面会交流プロジェクトチームの論文「東京家庭裁判所における面会交流調停事件の運営方針の確認及び新たな運営モデルについて」を受けて現状の運用は「ニュートラル・フラット」であるとされているが、以上の意味での検証を経たものとみなすことは困難である。裁判所においてどのように検証を行うものと承知しているか、又、政府の立場からの検証、評価等の作業をどう進めるのか、明確に示されたい。 四 民法等改正案の審議及び成立を受けて、DVからの避難等正当な理由のある子連れ別居をも「実子連れ去り・誘拐」とする主張が強まっており、法務大臣及び法務省民事局長の答弁を悪用又は誤用して、これを「精神的DV」とし、又、改正民法における人格尊重・協力義務違反に該当し親権喪失事由となり得るといった主張がなされている。さらに、このような認識を前提として地方公共団体に「実子誘拐相談窓口」の設置を求める、DV相談証明書の発行実績について照会する、男女共同参画センター等における「離婚講座」について照会し、開示請求又は住民監査請求を行うといった動きが見られる。地方公共団体からの回答等も独自の解釈を付されてインターネット上で公開されている。これらは地方公共団体に無用な負担を課し、DV被害者支援施策に関して萎縮や後退を招きかねないものである。関係府省庁から地方公共団体に注意喚起、技術的助言等の通知を発する等速やかに適切な措置を講じる必要があると考えるが如何か。 五 同様に、DVからの避難等正当な理由のある子連れ別居を「実子連れ去り・誘拐」として未成年者略取・誘拐罪での刑事告訴を促す言説が現職国会議員の発信を含め引き続き目立っている。この点、二〇二三年三月二十九日付警察庁刑事局捜査第一課長「配偶者間における子の養育等を巡る事案に対する適切な対応について(通達)」並びに同通達が参照する最決二〇〇三年三月十八日及び最決二〇〇五年十二月六日が誤った理解の下に流布している状況がある。以上はDV被害者の適切な保護及び支援の妨げになるものであるが政府の認識及び対応策を具体的に示されたい。 六 支援措置をめぐる状況について 1 DV被害者に係る支援措置に対する行政不服審査請求が全国で何件出されているか。又、政府はそうした加害者の追跡行動を被害者に対するリーガル・アビューズと捉えているか、示されたい。 2 支援措置に関して、行政不服審査請求だけでなく訴訟を含め地方公共団体職員を威嚇する元配偶者等の行動が報告されている。速やかに実態を把握し分析すべきであると考えるが、政府として実態把握をしているか示されたい。 3 民法改正を受けてこのような行動が激化することが懸念されるが、政府は地方公共団体職員の安全確保策を含めどのような対応策を検討、実施するのか具体的に明らかにされたい。 右質問する。 |