質問主意書

第213回国会(常会)

質問主意書

質問第二〇一号

有機フッ素化合物(PFAS)の農産物への影響に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和六年六月二十日

紙 智子


       参議院議長 尾辻 秀久 殿



   有機フッ素化合物(PFAS)の農産物への影響に関する質問主意書

 近年国内外で有機フッ素化合物(以下「PFAS」という。)による飲用水や土壌汚染が指摘されている。米軍基地や自衛隊基地、空港等で使用された泡消火剤を原因とした汚染、工場や産業廃棄物等による汚染等を疑う事例が各地で報告されている。わが党の山下よしき参議院議員の調査では、国内のPFAS製造拠点が半導体関連企業も含め四十三都道府県、二百以上の自治体に上ることが明らかになった。

 PFASは現在一万種以上に上り、フライパンや衣料品、半導体製造など幅広い製品に使用されている。しかし、自然界で分解されにくく「永遠の化学物質」と呼ばれ、人体や環境への影響が懸念されている。二〇二三年十一月三十日に世界保健機関(WHO)の一機関である国際がん研究機関(IARC)は、ペルフルオロオクタン酸(以下「PFOA」という。)は四段階の分類のうち最も高い「発がん性がある」、ペルフルオロオクタンスルホン酸(以下「PFOS」という。)は上から三段階目の「発がん性がある可能性がある」と評価を公表した。この二項目に加えてペルフルオロヘキサンスルホン酸(以下「PFHxS」という。)は、残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(以下「POPs条約」という。)で既に製造や使用が禁止されているが、国内における化学物質による環境の汚染を防止することを目的とする化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法)では、PFOSとPFOAの二物質のみが規制対象である。PFASに対する総合戦略検討専門家会議は、物質群に大きく分類し、POPs条約で廃絶対象となっているPFHxS及び検討中の長鎖PFCA(PFNA等十三物質)の優先的な取組の検討とそれ以外の物質としての対応を取りまとめた。

 汚染物質が検出された地域周辺を民間が調査したところ、住民の血液検査ではすでに高濃度のPFOS、PFOAが検出されている。国は住民の健康実態を早期に調査し、地下水や河川、土壌を含めた汚染状況の把握と対策は急務である。

 そこで農地、農産物について以下質問する。

一 WHOの専門機関国際がん研究機関(IRAC)は、PFOAの動物実験に基づいた証拠により、人が曝露した際に遺伝子の発現が影響を受けたり、免疫力が低下したりする発がん性のメカニズムが確認できたと説明している。また腎細胞がんや精巣がんとの直接的な関連を示す証拠もあったと述べている。

 農林水産省では既に大阪府摂津市のダイキン工業淀川製作所周辺の根菜類のPFAS調査を実施している。さらに、PFOS、PFOA、PFNA、PFHxSと四種類のPFASについて、農作物・酪農畜産物・水産物等の実態調査を行うとして予算を計上している。対象とする農作物・酪農畜産物・水産物はなにか。どのように調査し、調査結果はいつ公表するのか示されたい。

二 テキサス工科大学研究チームが農務省の実験圃場を調べたところ、トウモロコシから三千二百三十ppt、さや豆から四千二百六十ppt、落花生から四百七pptのPFOSが検出された。これは環境保護庁(EPA)が定めた二〇二二年の水道水の安全性の目安〇・〇二pptの数万倍から数十万倍にあたる。圃場内に保管されていた希釈前の農薬十種類のうち六種類から検出限界を上回る濃度のPFOSが検出され、濃度は三百九十二万~千九百二十万pptと大変高濃度である。そのうち一種類が日本でも使用されているネオニコチノイド系殺虫剤であり、検出濃度は千三百三十万pptと高値を示した。研究チームは過去に散布された農薬が残留し植物が吸い上げた可能性が高いとみる、という報道がされている。日本国内でも名古屋工業大学の研究チームが、フッ素系農薬を含む除草剤や殺虫剤などの開発需要が顕在化していると指摘している。農作物のPFAS蓄積状況の実態調査を実施すべきと考えるが見解如何。

三 飼料自給率は二十五%を推移し、依然低い状況にある。また化学肥料原料の尿素は、国産は二〇二三年度で五%、リン酸アンモニウムや塩化加里はほぼ輸入に依存している。化学肥料にもPFASが含まれていると思うが見解如何。また含有調査を行うべきではないか。

四 有機農産物は、周辺から使用禁止資材が飛来し又は流入しないように必要な措置を講じている、は種又は植え付け前二年以上化学肥料や化学合成農薬を使用しない、組み換えDNA技術や放射線照射を行わない等厳しい基準で生産されている。PFASが有機農業に与える影響をどのように認識しているか。土壌や農業用水からPFASが検出された場合の対策を示されたい。

五 アメリカのメーン州などのオーガニック・ファームでは数年前より農作物からPFASが検出されたことをきっかけに休業・廃業に追い込まれており、州議会では農家支援に乗り出していると報道されている。我が国で取り組まれている有機農業やアグロエコロジーでは、安心安全な食料生産を継続するため、生産者は懸命な努力を行ってきた。農家や畜産酪農家で、土壌汚染、農業用水汚染、あるいは輸入飼料や肥料が汚染されていたことが原因で有機農産物からPFASが検出され、有機農産物として取引停止・出荷・販売ができなくなった場合補償や救済制度はあるか。

六 株式会社ラピダスによる北海道千歳市で建設がすすむ半導体工場の排水からPFASが排出されるのではないかと懸念の声が広がっている。しかし六月十三日の農林水産委員会において、農地や農作物の影響調査の実施について農林水産省は「PFOS、PFOAについては、化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律に基づいて、現在その製造及び使用が禁止されているところでございます。…新たな工場については、こうした規制がございますので、PFOSやPFOAなどを漏出する可能性は低く、周辺の農地、農作物への影響も低いものと考えております。」「現時点で調査などが必要だとは考えておりません。」と調査をしない旨答弁した。しかし半導体メーカー「TCMC」の子会社「JASM」の熊本工場周辺の井戸から国のPFOSとPFOAの合算で五十ng/L以下の暫定目標を上回る濃度でPFOSとPFOAが検出された。新規建設であるから安全であるとは言えないのではないか。また健康影響が不明とされ規制及び規制対象検討物質以外のPFASは一万種以上あるといわれる。半導体工場では、エッチング剤や洗浄剤としてPFASの使用は不可欠である。PFASへの不安がある以上規制される前から工場排水の調査をすべきではないか。

  右質問する。