第213回国会(常会)
質問第一八三号 ミャンマー国民和解担当日本政府代表に関する質問主意書 右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。 令和六年六月十八日 石橋 通宏
参議院議長 尾辻 秀久 殿 ミャンマー国民和解担当日本政府代表に関する質問主意書 ミャンマーでは、二〇二一年二月一日に軍による違法・不当な軍事クーデター(以下「二〇二一年クーデター」という。)が発生し、以後、軍及び軍が創設した国家統治評議会が暴力・武力による支配・統治を続けている。この間、軍による支配・統治に反対し、平和と民主体制の回復を求めて声を上げた多くの国民の命が、軍や警察によって奪われるとともに、数万人が不当に逮捕・拘禁され、さらに、国軍による空爆や村々への焼き討ちで故郷を追われ、避難を余儀なくされている国内避難民がすでに三百万人を超え、ヤンゴンなど都市部でも貧困や飢餓が拡がり、すでに国民の三分の一以上が貧困状態にあると伝えられている。 この二〇二一年クーデターは、二〇二〇年十一月総選挙で国民の圧倒的な支持を得て政権を維持したアウンサンスーチー国家最高顧問を中心とした国民民主連盟(NLD)政権を武力によって倒壊させ、二〇一一年以降、我が国国民からの巨額の政府開発援助(ODA)や官民投融資も得て進められていた民主化のプロセスとその大きな政治的・社会的・経済的成果を破壊し、ミャンマー国民、特にZ世代と呼ばれる若者世代から、自由と幸福、将来への夢と希望を奪い取った。 このような事態を受け、国会は、二〇二一年の第二百四回通常国会において、衆参両院で「ミャンマーにおける軍事クーデターを非難し、民主的な政治体制の早期回復を求める決議」を可決し、政府に対し、一日も早い軍による暴力・武力行使の停止と、拘束者の即時解放、民主体制の回復のために最大の努力を行うこと、及び避難民等に対する人道支援を行うことなどを強く要請した。日本政府も、クーデター発生後より、政府が持つと言われる外交チャンネル等を活用し、一定の努力を行ってきたことは内外で認められている。しかし残念ながら、多くのミャンマー国民、特に我が国に在住するミャンマー人コミュニティは、これまでのところ、日本政府はその国会決議に基づく積極的かつ具体的な行動・努力を行っていないばかりか、軍/軍系企業等に対する経済的制裁を行わず、既存のODAを止めず、軍の士官/士官候補生の育成事業をクーデター後も継続したことなど、むしろ軍による統治・支配を側面から支援しているのではないかとも受け止められ、大きな懸念と不信、失望を与えてしまっている。 ミャンマー国民に、日本政府の立場・立ち位置について不信や懸念を抱かせてしまっている原因・理由の一つが、日本政府から「ミャンマー国民和解担当日本政府代表」に任命されている笹川陽平氏(日本財団会長)の、二〇二一年クーデター発生以降の活動及び言動だと言われている。笹川氏の活動及び言動が、ミャンマー国民には日本政府を代表しての活動及び言動だと受け止められ、その結果、日本が軍・国家統治評議会を側面的に支持・支援していると見られているのだとすれば、それは日本国民とミャンマー国民との友好関係にとって極めて問題であり、日本政府としても看過すべきではないと考える。 以上のような情勢及び問題認識に基づき、笹川陽平氏のミャンマー国民和解担当日本政府代表としての役割や任務、これまでの活動、及びその影響等に関する日本政府の見解と、今後の対応方針について、以下、質問する。 一 日本政府が、笹川陽平氏を「ミャンマー国民和解担当日本政府代表」に任命し、辞令を交付したのは二〇一三年二月だったという理解でよいか。また、笹川陽平氏の「ミャンマー国民和解担当日本政府代表」としての任期はいつまでか。任命は期限付きか。その期限は更新されるのか。これまで更新されてきたのか。更新される場合、その更新に条件等はあるか。 二 「ミャンマー国民和解担当日本政府代表」として、笹川氏にはいかなる公的な任務/責務/担務が与えられているか。その任務/責務/担務を果たすために、日本政府(現地大使館含む)は笹川氏にいかなる便宜を供与しているか。 三 笹川氏には、「ミャンマー国民和解担当日本政府代表」として、何らかの報酬、手当、必要経費等が支払われているか。支払われているのであれば、これまでの任期中、笹川氏に支払われた報酬・費用等の内訳を会計年度別に報告されたい。 四 笹川氏は、二〇二一年クーデター以降のこの三年間にも、複数回にわたってミャンマーを訪問し、クーデターの首謀者であるミンアウンライン国軍総司令官(国家統治評議会議長)や軍/国家統治評議会幹部、和平問題関係者らとの会談を行っていると理解するが、これらの訪問や会談は、「ミャンマー国民和解担当日本政府代表」の立場・任務で行ったものか、明らかにされたい。公的な立場であった場合、政府は事前にこれらの訪問・会談について、相談なり通告なりを受けていたか。また、事後に、報告を受けたか、明らかにされたい。 五 二〇二一年クーデター以降の笹川氏のミャンマー訪問や軍総司令官等との会談は、例えそれが個人もしくは日本財団会長としての行動であっても、ミャンマー軍側は、笹川氏を日本政府の代表(ミャンマー国民和解担当日本政府代表)として迎え、遇し、宣伝(プロパガンダ)したと推察される。事実、ミャンマー国内の一部メディア(軍系)は、この間、笹川氏が「日本の特使」として訪緬し、国軍司令官と会談したことを報道し、プロパガンダに利用している。そのことが、ミャンマー国民に対し、日本政府はまるで国軍の支配・統治を支持し、支援しているかのような印象を与える原因になっていると考えるが、政府の認識と見解を示されたい。また、笹川氏の行動が公務ではない場合、それが日本政府を代表するものでは一切ないことをミャンマー国民に周知するべきではないかと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。 六 笹川氏が「ミャンマー国民和解担当日本政府代表」という極めて公的な立場に就いているにもかかわらず、個人(又は日本財団会長)として軍司令官や軍関係者、少数民族武装組織などと面会し、その結果等を日本政府に相談も報告もしていないとすれば、また、軍による総選挙の実施を公言し続けるとすれば、それはかえって日本の国益を損ねることにもなりかねず、もはや「ミャンマー国民和解担当日本政府代表」の任を解くべきではないかと考えるが、政府の見解を示されたい。 右質問する。 |