第213回国会(常会)
質問第一七八号 「自由権規約委員会第七回日本定期報告審査に係る総括所見」及び「ILO/ユネスコ教職員勧告適用合同専門家委員会第十三会期・第十四会期最終報告書」への日本政府の対応に関する質問主意書 右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。 令和六年六月十七日 大椿 ゆうこ
参議院議長 尾辻 秀久 殿 「自由権規約委員会第七回日本定期報告審査に係る総括所見」及び「ILO/ユネスコ教職員勧告適用合同専門家委員会第十三会期・第十四会期最終報告書」への日本政府の対応に関する質問主意書 自由権規約委員会は二〇二二年十月二十八日に開催された第三九四四回会合において、「第七回日本定期報告審査に係る総括所見」(以下「第七回総括所見」という。)を採択し、同年十一月三十日に公表した。 ILO/ユネスコ教職員勧告適用合同専門家委員会(以下「セアート」という。)は、二〇一八年十月に第十三会期最終報告書を採択し、同報告書は二〇一九年三月にILO理事会にて、同年四月にユネスコ執行委員会にて承認・公表された。さらに、セアートは二〇二一年十月に第十四会期最終報告書を採択し、同報告書は二〇二二年六月にILO総会にて、十月にはユネスコ総会にて承認・公表された。 右の総括所見及び最終報告書には、東京や大阪の公立学校における「日の丸・君が代」強制問題に対する是正勧告が含まれている。この是正勧告に関して、外務省及び文部科学省がこれまでとった対応について、以下質問する。 一 自由権規約委員会が「第七回総括所見」を公表してから一年六ヶ月が経過した二〇二四年五月三十日においても、外務省はその日本語仮訳をホームページ上に掲載しなかった。日本語仮訳を作成する予定の有無、また予定がある場合はその具体的な掲載予定日を明らかにされたい。 二 六月四日の参議院外交防衛委員会において、髙良鉄美委員が仮訳作成の遅延について質問したのに対し、上川陽子外務大臣は「自由権規約委員会によります総括所見は、その範囲も広く関係する府省庁も多岐にわたること、また様々な委員会によるこれまでの総括所見の仮訳との整合性、また多岐にわたる法令や専門用語、法令用語等を踏まえる必要があることから、可能な限り正確な仮訳を作成すべく現在作業が行われておりまして、一定の時間を要している」と答弁された。しかし、右のような事情は「第六回日本定期報告審査に係る総括所見」(以下「第六回総括所見」という。)の日本語仮訳作成にも当てはまることで、「第七回総括所見」特有の事情とは言えない。「第七回総括所見」の日本語仮訳の完成・公表が「第六回総括所見」の時に比べて著しく遅延している理由を具体的に説明されたい。 三 外務省人権人道課は二〇一五年九月七日、「福島みずほ議員事務所からの日の丸君が代に関する質問に対する回答」の中で、「第六回総括所見」の勧告内容について、「関係省庁、地方自治体等に対して同最終見解をその和訳仮訳も付して配布した上で、これらの機関が下部機関を含む関係者に同最終見解を広く周知するとともに、人権の一層の保護・促進に向けた施策を実施するに当たって参考として活用するよう要請」したと説明している。そこで、本年二月二十八日に市民団体が外務省・文部科学省と行った交渉において、市民団体が「第七回総括所見」についても同様の対応を求めたところ、外務省人権人道課の担当者は「現在の方針としては外務省のホームページの掲載を通じて幅広く周知を行っていく」と回答した。なぜ、「第七回総括所見」については「第六回総括所見」で行っていた和訳の配布や、その活用を促す要請を行わず、ホームページの掲載だけにとどめるのか、理由を明らかにされたい。また、第六回・第七回総括所見に対して異なった対応を取ることを決定するに際し、外務省内でどのような議論が行われたのか、その過程を詳らかにされたい。 四 「第七回総括所見」パラグラフ四六には「締約国は、司法、立法及び行政当局、国内で活動する市民社会及び非政府組織並びに一般市民の間で、規約において謳われている権利の認識を高める観点から、規約、第七回定期報告書及び本総括所見を広く普及させるべきである。締約国は、定期報告書及び本総括所見が締約国の公用語に翻訳されることを確保すべきである」(日本弁護士連合会仮訳参照)とある。外務省は、日本語仮訳をホームページに掲載することだけで、「市民社会及び非政府組織並びに一般市民の間で、…本総括所見を広く普及させる」という自由権規約委員会の求めを満たすことが出来ると考えているのか、見解を明らかにされたい。また、ホームページへの掲載の他に、総括所見を広く普及させるための措置を講じる予定があれば、具体的な内容を明らかにされたい。 五 文部科学省は、先述の交渉の場で市民団体側に提出した回答書において、セアートの「第十三会期・第十四会期最終報告書」の日本語仮訳を作成すると「政府としての主張を必ずしも受け入れていないセアートの認識や勧告の内容だけが広がっていくおそれがあることから、文部科学省において和訳を行わない」こととしたと説明している。しかし、最終報告書が採択されるまでの過程で、政府はセアートに対して自らの見解を主張し、申し立て団体の主張に反論する機会も保障されている。セアートは、政府・申し立て団体双方の主張や提出された証拠を慎重に検討した上で最終報告書を作成しており、最終報告書内にはセアートの見解のみならず、政府・申し立て団体双方の主張が記載されている。それにもかかわらず文部科学省は、セアート最終報告書について、政府の主張を軽視し、申し立て団体の主張を偏重しているものだと考えているのか。政府の見解を示されたい。 六 セアート最終報告書の日本語仮訳とともに、報告書に対する政府見解も公表すれば、文部科学省が言うところの「政府としての主張を必ずしも受け入れていないセアートの認識や勧告の内容だけが広がっていくおそれ」は解消し、文部科学省が和訳の作成・公表を拒む根拠はなくなるはずである。実際、自由権規約委員会の総括所見に関しては、外務省は日本政府コメントを日本語仮訳付きでホームページに公表し、政府と委員会との見解の違いが明らかになるような対応を行っている。文部科学省も同様の対応を取れば、セアート報告書の和訳の周知と政府の立場の周知を両立させることが出来ると考えるが、そのような対応を検討したことはあるか。また、今後検討する予定はあるか示されたい。 七 セアート第十四会期報告書は日本政府に対し、「教職員の団体と協働し、勧告の和訳を作ること」、「和訳を、勧告事項の実施の確保の仕方についての適切な手引きを添えて、地方公共団体と共有すること」を勧告している(パラグラフ百七十三(b)、(c))。また、国際機関から送付された公文書であるセアート最終報告書は国民共有の知的資源であり、国民の知る権利という観点からも、速やかに日本語仮訳を作成し公表すべきと考える。文部科学省として、和訳の提供に関するセアートの勧告にどう対応するつもりか。今後も和訳を提供しないとの立場を貫くのならば、当該勧告には従わなくてよいと考えているということか。政府の見解を明らかにされたい。 右質問する。 |