質問主意書

第213回国会(常会)

質問主意書

質問第一七一号

改正民法の運用におけるDV・虐待ケースの取り扱いに関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和六年六月十二日

福島 みずほ


       参議院議長 尾辻 秀久 殿



   改正民法の運用におけるDV・虐待ケースの取り扱いに関する質問主意書

 去る五月十七日に成立した民法等の一部を改正する法律の運用についてはDV・虐待ケースの取り扱いについて依然として懸念や曖昧な点が多く残っており、政府としての認識及び方針を明らかにすべきであると考える。

 よって、以下質問する。

一 DV被害者の保護、支援について本年五月十四日の参議院厚生労働委員会において厚生労働大臣は「相談内容から支援が必要と判断した場合には、ためらうことなくこの一時保護等の必要な支援を提供していく必要があると考えます」と答弁した。

1 この場合、一時保護の期間中はもちろん、危害のおそれがなくなったと認められるまでは改正民法第八百二十四条の二第一項第三号に言う「急迫の事情」が存在するということでよろしいか。又、一時保護先への子連れ入居にも、一時保護先からの転居及びそれ以降の転居にも配偶者の同意は要しないということでよろしいか。転居以外の子に係る重要事項についても同様でよろしいか。以上につき明確に答弁されたい。

2 この場合の「急迫の事情」及び危害のおそれの継続の判断は、支援に当たる行政機関や民間団体の専門性に基づくものと考えてよろしいか。そうであっても、行政や民間団体が別居親から訴えられる等のリスクがあると考えられるが、そのような事態にどう備える計画であるか、併せて明らかにされたい。

3 「急迫の事情」が認められる場合、同居親の親権単独行使の権利濫用性が否定されるため、もし別居親が同居親や行政、支援団体などを提訴したときは濫訴に該当すると考えられるが、政府の認識を示されたい。

二 改正民法第八百二十四条の二第一項第三号における「急迫の事情」の基準となる「子の利益」を判断するに当たっては、監護実績、家事・育児能力、面前DVの有無、これらも反映した母子分離のリスクなどが十分に勘案されるものと理解しているが、政府の認識を示されたい。

三 民法等改正案の審議においては家庭裁判所の体制や意識に焦点が当たったが、親権行使などを巡り同居親や行政、支援者、学校、その他事業者が訴えられることが強く懸念されており、現状でも離婚前後を問わず様々な形で訴訟が起こされている。そうすると、家庭裁判所だけでなく地方裁判所のDVに対する意識、認識を高めていかないと不合理で過酷な結果を招きかねないと懸念される。このことはDV防止法(配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律)の保護命令制度の効果を高めるためにも必須である。政府として具体的にどのように取り組むのか明らかにされたい。

四 離婚後共同親権ではなく父母いずれかの単独親権となると考えられるケースにおいて、父母いずれの側も相手からの暴力を訴えており、実際、互いに殴るとか暴言を吐く等したことが認められるとき、親権者はどのような基準で定められるのか。例えば、一回の暴力は強度のものであったが、実は相手から長期にわたって精神的DVを受けていたというようなケースも考えられる。このようなケースで証拠が残りやすいところのみで判断されると、子にとって危険な側が親権者となり、虐待加害者になるということがあり得る。目に見える証拠だけでなく丁寧に、慎重に経緯、事情を聞き取る等して判断すべきであると考えるが政府の認識を示されたい。

五 DV被害者が例えばアルコール依存症等の精神疾患で、加害者側には精神疾患がないようなケースでは、DVが当該疾患の原因や誘因であったり増悪させたりすることは十分に考えられるところ、家庭裁判所がDVの本質である支配関係を見過ごして、加害者の単独親権としてしまうことや、民法等改正案審議における答弁でも示されたような、同居親たるDV被害者の「養育に不安がある」として加害者との共同親権となってしまうことも想定できる。

1 このようなことになれば子の利益が害されるおそれが高まるが、これを防ぐべく政府としてはどのように取り組むのか明らかにされたい。

2 さらに、父母ともに加害性が認められ、子に危害が及ぶおそれが否定できない場合、家裁はどのような判断をすることになると考えられるか示されたい。

六 民法等改正案審議においては、濫訴及びポスト・セパレーション・アビューズへの対策については、家事事件手続法に基づく事件の終了等の形式的な手続きに係る答弁に終始し、具体的な防止策や被害者・同居親への具体的な援助策についての答弁は乏しかった。まずは濫訴及びポスト・セパレーション・アビューズの実態の把握並びに今後起こりうる事態の想定が急務であると考えるが、DV被害者、弁護士及び支援者からの聞き取りを含め具体的にどのように取り組む予定であるのか明らかにされたい。

  右質問する。