第213回国会(常会)
質問第一三八号 家庭連合への解散命令請求手続きに関して数多くの有識者が問題視していることに関する質問主意書 右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。 令和六年五月十七日 浜田 聡
参議院議長 尾辻 秀久 殿 家庭連合への解散命令請求手続きに関して数多くの有識者が問題視していることに関する質問主意書 政府は宗教法人世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に対する解散命令請求を東京地裁に申し立てたが、内容が重大であるにもかかわらず、旧統一教会及び信者らを激しく攻撃してきた全国霊感商法対策弁護士連絡会(以下「全国弁連」という。)の意見ばかりが重視され、広く様々な角度からの見解を検討する機会もなく極めて拙速に進められた印象が強い。 宗教法人への解散命令については、宗教法人法第八十一条第一項第一号において「法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をしたこと」と、非常に限定的に規定されており、実際に解散命令が適用されたのはオウム真理教(二十九人殺害、教祖ら十三名死刑)と明覚寺(教祖が懲役六年実刑)の二件のみである。 全国弁連の紀藤正樹弁護士等は、オウム真理教に対する解散命令にすら反対していたのである。 刑事事件を起こした宗教法人として神慈秀明会は暴行で七名の死亡事件を起こしている。紀元会は、多数の信者が共謀して集団で暴行・死亡事件を起こした。空海密教大金龍院は、集団で信者に暴行を加え死亡させた。顕正会は、少なくとも十二件の刑事事件を起こし、二〇〇三年に教団の地区部長が殺人罪で懲役十五年の有罪判決を受けた。法の華三法行は、教祖福永法源氏を含む十三名が詐欺容疑で有罪判決を受けた。 ところが、これらの刑事事件を起こした宗教法人に対して、解散命令請求はおろか質問権すら行使されていないのである。 旧統一教会において「法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為」が確認しうる状況ならば、安倍元首相暗殺事件が起きる前から社会問題として騒がれていたであろうし、誰よりも旧統一教会問題を熱心に追及してきた有田芳生氏が参議院議員であった期間(二〇一〇~二〇二二年)に当然ながら国会で重大問題として徹底的に追及していたはずであろう。そのような事件は起きていないのである。 そこで、家庭連合への解散を長年強く主張してきた全国弁連に所属せず、高度な専門的業務を行なう弁護士や有識者らが解散命令請求について主張している見解を示すことで、真に検討されるべき法的問題点を明らかにしたい。 以下順次、若狭勝弁護士、郷原信郎弁護士、高井康行弁護士、塚田成四郎弁護士、中山達樹弁護士の見解、さらに「月刊Hanada」、「月刊正論」、「中央公論」、「東洋経済オンライン」等から引用しつつ記述する。 元衆議院議員・元東京地検特捜部副部長である若狭勝弁護士は、「解散命令申し立てに至るまでの手続が適正であるとは言えない」と述べ、検察官を除外して申し立てた点に「非常に疑問がある」と指摘する。 また直前になされた宗教審議会において、誰一人反対せず「全会一致で賛同された」という点について、民主主義の多数決制度のもとでは「全員一致の決議は無効である」という標語があることに言及し、拙速な決議への違和感を示した(弁護士若狭勝のニュース塾「異議あり!旧統一教会への解散命令請求」)。 更に、若狭弁護士は、旧統一教会には刑事罰が存在しないため解散命令請求はできないという閣議決定が存在したにもかかわらず、岸田総理が請求要件に民法上の不法行為も含まれると法解釈を一日で変更する答弁をした件について、答弁の前に立憲民主党の小西洋之参議院議員が岸田総理に、「内閣法制局も法務省も呼んでみんなで議論した」、「政府全体で議論した」という嘘をつけばいい等とアドバイスし、岸田総理がその小西議員のアドバイスに従って「改めて関係省庁で集まり議論した」と虚偽答弁をしたことを問題視した。 若狭弁護士は、もしも小西議員のアドバイスに従って岸田総理が閣議決定の内容を無視して国会で嘘をついたことが事実であれば、「検討プロセスの適正性についてはかなりの疑義が生じる」と指摘した(弁護士若狭勝のニュース塾「旧統一教会問題 答弁で岸田首相が嘘発言?」)。 郷原信郎弁護士は統一教会に反対してきた弁護士としても知られるが、岸田首相が解散命令請求を出すことを検討していた時、宗教法人法第八十一条第一項第一号による旧統一教会への解散命令請求は「法的要件としては極めて厳しい」との見解を述べ、これを政治判断で請求するようなことは「絶対やめてほしい」、「政治的な意図で利用するのはとんでもない話だ」と憤り、岸田首相について「法的な素養を微塵も感じられない」と厳しく非難した(郷原信郎の「日本の権力を斬る!第二百七十六回」、鈴木哲夫氏との対談)。 元東京地検特捜部検事の高井康行弁護士は、民事裁判で旧統一教会が負うべき被害総額が二十二件合計約十四億円も存在することを根拠にして解散命令請求をすることが可能だとの見方に対し、「旧統一教会はそれらの民事判決を受けてその約十四億円を支払っているのであるから、むしろ、民法の規定に従っているといえる」と述べ、旧統一教会は民法上の不法行為責任をすでに果たし終えているとの見解を示した(「月刊正論」二〇二三年一月号)。 元日弁連常務理事・元第一東京弁護士会副会長の塚田成四郎弁護士は、第一東京弁護士会の会報(二〇二四年二月号)の巻頭言「宗教法人の解散命令について」において、「民法上の不法行為はいくら多数存在しても反社会性を帯びることはないと考える」「不法行為がいくら多数あっても、解散命令の根拠になりえないと考える」と明言している。 中山達樹弁護士によると、家庭連合の献金をめぐる民事裁判が多数存在するといっても「裁判全体で約半分の四十八パーセントは勝訴」しており「半分の献金については、裁判所は家庭連合の不法行為責任(使用者責任)を認めなかった」のであるから、「負けた部分のみを取り上げて悪質性を認定するのは、公平性に欠けます」と述べている。 また、霊感商法の被害件数が多いとも言われるが「消費者庁データによれば、霊感商法の二〇二一年の被害相談のうち、家庭連合に関するものはわずか一・九パーセントでした。残りの九十八・一パーセントは他の団体に関する霊感商法です。しかし、全国弁連は、他の九十八パーセントの団体には目もくれず、ホームページでは家庭連合のことばかりを攻撃しています。」と述べ、全国弁連の不当性を指摘している(中山達樹著「拝啓岸田文雄首相 家庭連合に解散請求の要件なし」光言社二〇二三年発行)。 「月刊Hanada」では福田ますみ氏や杉原誠四郎氏による論説で拉致監禁問題や全国弁連の左翼的な正体、解散命令請求の不当性等について複数回にわたって掲載し、政府決定を批判している。 「月刊正論」(二〇二三年十二月号)では「解散命令請求への疑義」という特集を組み、政府決定の違法性を指摘すると同時に、家庭連合信者・後藤徹氏に対する拉致監禁事件の壮絶な記録を掲載している。特に北朝鮮の拉致問題で著名な西岡力教授は、解散命令請求に至る過程において「「何が起きたから解散となったのか」がさっぱり分からない。これでは「人民裁判」です」と述べ、「私は恐怖すら覚えました」と述べている。 「中央公論」(二〇二四年四月号)では世界・正論・中央公論という三誌の編集長による鼎談記事で、「月刊正論」編集長の田北真樹子氏が政府決定について「憲法違反の恐れがある」、「安倍元総理の暗殺で政権が見解を一日で変え、旧統一教会を解散命令請求の対象にするのはありえないでしょう」と述べている。 では、そもそも旧統一教会の解散を強く主張してきた全国弁連が、何ゆえに政府の意思決定に強い影響を与えるようになったのか。 元日本テレビ政治部次長の政治ジャーナリスト・青山和弘氏によると、河野太郎衆議院議員が消費者担当大臣に就任した二日後に突然、「岸田首相からの指示もないままの電光石火の動き」で検討会(霊感商法等の悪質商法への対策検討会)を立ち上げ、そこに全国弁連の紀藤正樹弁護士を河野氏の独断で引き入れたのだという。 そのような河野氏の独断専行の行動に対し、岸田首相は「大丈夫か」と周辺に漏らし、消費者庁内にも「紀藤氏は消費者庁を訴えている原告団の顧問弁護士だ。検討会に入れるのはどうか」との反対意見があった(「東洋経済オンライン」二〇二二年十月十七日、青山和弘「旧統一教会に質問権行使で「河野氏」存在感増す訳」)。 全国弁連の紀藤正樹弁護士の引き入れは、その是非を議論することもなく岸田総理や消費者庁関係者ですら不安を抱えたまま唐突になされたものであり、これによって始めから旧統一教会を解散させる「結論ありき」の政府見解が確立していったといえる。 以上、解散命令請求は全国弁連という左翼過激派思想に偏った弁護士グループが政府の意思決定に強い影響を与える状況下で決定されたものであり、他方、全国弁連とは関係なく高度な専門的業務をこなす弁護士や一般の有識者においては、家庭連合に対する政府の解散命令請求に対して明確に反対意見を表明しているばかりか、政府の法律的な不見識を厳しく非難する状況が見受けられる。 以上を踏まえ、以下質問する。 一 若狭勝弁護士の指摘にもあるが、解散命令請求の要件について、刑事罰の存在にとどまらず民法上の不法行為も含まれるという解釈変更がなされた過程において、岸田首相が閣議決定を無視して虚偽答弁をしたとすれば、その決定プロセスには重大な手続上の瑕疵が明らかに認められると言わねばならない。 したがって、国会で虚偽答弁をして国民に嘘をつくとともに、厳密な審理がなされるべき裁判所をも欺いて申し立てられた解散命令請求は、その申し立て自体が無効であると言わざるを得ないが、政府の見解を示されたい。 二 本来、宗教法人への解散命令請求の要件として、刑事罰が存在する等の強い「悪質性」が認められる必要があるが、旧統一教会においては宗教法人に対する刑事罰は存在しない。 他方、刑事事件を起こした宗教法人(神慈秀明会、紀元会、空海密教大金龍院、顕正会、法の華三法行等)には解散命令請求はおろか質問権すら行使されていないにもかかわらず、旧統一教会に対しては民法上の不法行為を理由に解散命令請求が申し立てられた。 これは、宗教法人を公平公正な立場で管轄すべき文部科学省において、法の下の平等に著しく反すると思われるが、政府の見解を示されたい。 三 西岡力教授が、「何が起きたから解散となったのか」がさっぱり分からないと述べている通り、家庭連合には刑事罰がなく、献金等の民事裁判件数も最近数年はゼロであり、しかも民事裁判の約半分は家庭連合が勝訴している。霊感商法の被害相談も全体の約二%程度にすぎず、信者による壺等の販売も三十年以上前からなされていない。 それでは政府決定における解散命令請求の要件、すなわち宗教法人法第八十一条第一項第一号の「法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為」とは何なのか、具体的に示されたい。 四 塚田成四郎弁護士が所属弁護士会の会報で「民法上の不法行為はいくら多数存在しても反社会性を帯びることはない」と述べているが、旧統一教会が反社会的な団体かどうかについては一九九四年に村山富市内閣総理大臣が「特定の宗教団体が反社会的な団体であるかどうかについて判断する立場にない」と答弁した(平成六年七月十二日、内閣参質一二九第九号)。この政府の見解は現在も継承しているか、政府の見解を示されたい。 五 最高裁(二〇〇四年十月、梶谷玄裁判長)は、統一教会の献金について合法であると認めた高裁判決を支持し、上告を棄却しているが、政府は本件を承知しているか示されたい。 質問主意書については、答弁書作成にかかる官僚の負担に鑑み、国会法第七十五条第二項の規定に従い答弁を延期した上で、転送から二十一日以内の答弁となっても私としては差し支えない。 右質問する。 |