第213回国会(常会)
質問第一二七号 自動車EV化を巡る我が国の政策に関する質問主意書 右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。 令和六年五月九日 神谷 宗幣
参議院議長 尾辻 秀久 殿 自動車EV化を巡る我が国の政策に関する質問主意書 政府は、二〇五〇年カーボンニュートラル実現の目標に向かって、自動車の電動化を図るとし、「二〇三五年に乗用車新車販売で電動車百%」という目標を設定している。 しかし、一方で電気自動車(以下「EV」という。)は、未だ多くの解決すべき課題を抱えている。車両価格(コスト)の高さ、航続距離の短さ、充電時間の長さ、低高温下でのバッテリー機能の低下、発火した場合の危険性等があり、既存自動車よりも実用性が匹敵しない面がまだまだある。そのためもあって、二〇二三年のEV(普通乗用車のみ)の新車販売台数は約四万四千台(約一・六六%)にとどまっている。 世界の趨勢を見ても、EVの需要、販売、生産のいずれも頭打ちまたは減少傾向にある。EVの需要が一巡し、更なる需要の掘り起こしができず、各自動車メーカーによる生産台数目標の引き下げ、生産の縮小、販売価格の値下げ、利益予想の下方修正、関連投資の縮小や中止が各国で生じている。 ドイツでは、EVの新車販売数が十三・二%減少し、ガソリン車の販売数は三・五%増加しており、VW社が四つのEV生産工場のうち二つを操業停止し、メルセデス社は「二〇三〇年完全EV化」目標を撤回し、新規エンジンの開発を進めている。 アメリカでは、テスラ社がメキシコEV工場計画を先送りにし、アップル社は、十年かけて数十億ドルを投資してきたEV開発を断念した。また、フォード社では、百二十億ドルのEV関連投資を中断・延期し、代わりにハイブリッド車両(以下「HEV」という。)の増産を決めている。これに伴い、中国で千三百人、米国とインドで三千人の人員整理に入る。ゼネラル・モーターズ社でも、EVシフトの方針を撤回し、内燃エンジン生産に三十二億ドル強の投資を発表。米レンタカー大手のハーツ社においては、テスラを含むEV二万台を売却し、代わりにガソリン車を追加購入している。 中国でも、大手BYD社が、EVからプラグインハイブリッド(以下「PHEV」という。)、HEVに事業をシフトしており、その他、新興EVメーカー各社も破綻や上場廃止、財政的な苦境に立たされている。 このような状況にもかかわらず、現在日本政府はCEV補助金を実施しているが、補助対象は、EV、PHEV、燃料電池自動車(以下「FCV」という。)のみに限定している。一方で、これまで補助対象であったクリーンディーゼル自動車については、二〇二三年以降の登録は対象外となっている。さらに、地方自治体でも同様の補助金を付与しているほか、政府の二〇二三年度補正予算には千二百九十一億円が充てられており、年々その額が増加している。 海外諸国の趨勢は、EVへの補助金が縮小傾向にある。欧州議会では、「二〇三五年EV化法案」が、二〇二三年三月にドイツ、イタリア、ポーランド他の反対により否決されている。またドイツ政府は、四万ユーロ未満のEVへの補助金を四千五百ユーロから削減し、さらに今後も支給対象を絞り込む予定となっている。 アメリカでは、バイデン政権下で最大七千五百ドルの税額控除を得られる販売支援策を採っているが、対象となるのは米三社十一車種のみ、日欧韓のEVは全て対象外となっている。 カーボンニュートラルを目指すことが目的であれば、自動車分野においては、電動化一辺倒である必要はない。効率の良い内燃機関車(以下「ICE」という。)、HEV、PHEV、FCV、EV、更にはバイオ燃料等の新燃料を含む幅広い選択肢(多様性)を持ち、それぞれの強みを生かしながら進めていくべきである。 日本は、これまで培った内燃機関技術において非常に高い国際競争力を持っている。自動車製造は我が国の基幹産業であり、貿易黒字額の約二十%を自動車輸出が担い、五百四十二万人の就労人口を抱えている。 EV優遇政策を進めることによる、バッテリーをはじめ、多くの基幹部品を中国に頼るEV車シフトは、中国依存の度合いを高めることとなり経済安全保障の観点から望ましくなく、併せて日本の自動車産業自体の競争優位性を失うものとなりかねない。 このように、現状で大規模なEV優遇の補助金政策を継続することは、情勢の推移からも内燃機関を中心とする日本の自動車産業の支援・育成の観点からも、極めて不適切な政策といえる。特に、日本製のみならず外国製のEV等に対しても補助金を付与することは、世界の趨勢に逆行するものである。 以上を踏まえて質問する。 一 EVの需要、販売、生産、投資などが多くの国で減少している世界の趨勢について、政府はどう受け止め評価しているか。この趨勢を踏まえ、我が国のEVに関する施策に関して、修正または抜本的に見直す検討を行っているか。 二 カーボンニュートラル実現の大きな柱として、自動車の電動化を据えていることについて、各国の趨勢を見るならば見直すべき時ではないのか。実際に自動車EV化を長期的コストパフォーマンスで見るなら、価格の高さ、航続距離の短さ、充電時間の長さ、低高温下でのバッテリー機能の低下、発火した場合の危険性等、対中依存度の高さ、製造から廃車に至るまでのライフサイクルCO2排出量で、決して環境に優しいと言えない。これらについて、政府の見解を示されたい。 三 政府が設定している「二〇三五年までに、乗用車新車販売で電動車百%」とする目標は、新車販売を電動車のみとして、ICEの新車販売を認めないことを前提にしている。ところが世界では、未だ八割程度がICEであり、中国政府においても自動車産業のグリーン・低炭素発展のためのロードマップ一・〇で「内燃機関は今後も相当な期間、自動車産業において重要な役割を果たす」という認識を持っている。ICE市場を軽視することが、我が国の自動車産業が生み出している雇用、GDP、貿易黒字等の経済効果を減ずる結果になるのではないか。 四 我が国のCEV補助金は、EV、PHEV、FCVのみを対象としている。HEVは、EVの欠点である航続距離、充電時間などの問題がなく、かつCO2の排出も少なく、経済効率性も高い等の利点がある。また、日本のHEV製造における国際競争力は高く、二〇三五年の目標としている電動車の範疇には含まれている。他国の大手自動車製造会社では、CO2削減における重点商品をEVから改めてHEVに転換する動きもある。こうした趨勢を踏まえて、CEV補助からHEVを除外するのは見直すべきではないか。 五 我が国において、日本車のみならず外国車にCEV補助金を供与することは、日本の産業振興の観点から不適切ではないか。特に、中国製EV等については政府が多額の補助金を供与しており、日本の自動車メーカーにとって不公平な価格競争環境におかれている。またアメリカでは、すでに日中韓のEVについては、税優遇の対象から外されている。欧州では、EUの政策執行機関である欧州委員会が二〇二三年十月四日から、EUに輸入された中国製EVに対する反補助金調査を進めている。これらを鑑みるなら、相互主義の観点からも我が国が外国車にCEV補助金を供与することはおかしい。外国製EVに対する補助金供与をとりやめ、むしろ国内でのHEV開発にこそ手厚い助成措置を行うべきではないのか。 右質問する。 |