質問主意書

第213回国会(常会)

質問主意書

質問第一二一号

画像生成AIの適正使用及びそれに伴う著作権制度の整備等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和六年四月二十三日

塩村 あやか


       参議院議長 尾辻 秀久 殿



   画像生成AIの適正使用及びそれに伴う著作権制度の整備等に関する質問主意書

 いくつかの単語や文章を入力するだけで、人間が作成したような高精度な画像を生成する強力なAI(以下「画像生成AI」という。)が相次いで公表され、急速に普及している。画像生成AIは、膨大な数の著作物を含む既存の画像を学習することで成り立っているが、この学習行為について、我が国においては、平成三十年の著作権法改正により、著作権者の許諾なく自由に行うことができるとする権利制限規定である第三十条の四(以下「本条」という。)が新たに設けられた。本条ただし書には、著作権者の利益を不当に害しない限りと規定されているものの、その具体的な適用範囲が明らかにされていないため、多くのクリエイターから自身の作品が無断で学習され、類似する画像が大量に生成されるのではないかとの懸念の声が挙がっている。

 こうした中、文化審議会著作権分科会法制度小委員会(以下「小委員会」という。)は、令和六年三月に「AIと著作権に関する考え方について」(以下「本考え方」という。)を取りまとめ、画像生成AIを含む生成AIに関わる著作権法上の論点を整理し、小委員会としての一定の考え方を示した。しかしながら、本考え方に対し、クリエイターの懸念の声には十分に応えていないとの批判が根強くあるほか、諸外国と比べ規制のための検討が遅れているとの指摘もある。

 刻一刻と変わるAIを巡る状況やクリエイターに対する影響の大きさを踏まえれば、政府は本考え方の取りまとめ後も、逐一状況を分析し、必要に応じて法改正を含む抜本的な見直しを進めるべきであると考える。

 以上を踏まえて、以下質問する。

一 本考え方においては、今後の著作権侵害等に関する具体的な事例の蓄積のほか、AI技術の発展、諸外国における検討状況の進展等を踏まえ、AIと著作権の関係について引き続き検討することが必要とされているが、政府における今後の検討に関する具体的な見通しを示されたい。

二 本考え方において、いわゆる「過学習」(overfitting)を意図的に行う場合は、享受目的が併存すると評価され、本条は適用されないと指摘されている。本考え方を踏まえれば、特定のクリエイターの著作物を無断で画像生成AIに追加学習させ、その著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得し得る画像を生成して公開すること、また、そのような画像を生成する事を目的とした画像生成AI、及びそのような画像のみを生成する事は目的とはしていないが、様々な画像を生成する事を目的として機械学習を行った事によって、そのような画像も生成可能であると当然想定される画像生成AIの学習済モデルを公開することは、著作権侵害となり得ると考えるが、政府の見解を示されたい。

三 本考え方において、画像生成AIに対する入力に用いた既存の著作物と類似する生成物を出力する目的で当該著作物を入力する行為について、本条は適用されないと指摘されている。本考え方を踏まえれば、特定のクリエイターの著作物を無断で画像生成AIに直接的に取り込み、改変し、異なる著作物であるかのように公開することは、著作権侵害となり得ると考えるが、政府の見解を示されたい。

四 前記二及び三で述べたような事例が多発していることがクリエイターから指摘されており、仮にいずれの行為も著作権侵害に該当し得るとしても、その理解が十分に広まっておらず、事実上野放しとなっているとされる。また、著作権侵害を指摘し、法的な是正手段を講ずることの時間的及び金銭的負担が大きいことや、著作権侵害を指摘することで不当に批判されるケースも散見されることなどから、現実に現行法の枠組みの中でこれを是正することは困難であると指摘されている。このような状況に対処するためには、画像生成AIの学習行為における著作物の利用に際し、画像生成AIの利用目的や利用態様に応じて享受目的の有無を厳格に切り分け、本条の適用の対象外となる範囲を明確化することや、本条の適用について、著作権者による同意を要するオプトイン方式を採ることも検討すべきであると考えるが、政府の見解を示されたい。

五 本考え方において、AI開発に向けた情報解析の用に供するために著作物を利用することは、著作権法で保護される著作権者等の利益が通常害されるものではないため、対価還元の手段として補償金制度を導入することは理論的な説明が困難とされている。しかしながら、画像生成AIにより既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得し得る生成物が出力される場合には、著作権者等の利益は明確に害される。その場合には、クリエイターへの適切な対価還元が必要であり、学習行為における利用態様に応じた使用料を受け取ることができる補償金制度を導入することも検討すべきであると考えるが、政府の見解を示されたい。

六 画像生成AIによる生成物がまん延する中でも、クリエイターによる創作努力が適切に評価されるよう、画像生成AIによる生成物については、AI生成物である旨を明示することを法的に義務付けるべきではないかと考えるが、政府の見解を示されたい。

七 前記で述べた課題を一刻も早く改善するには、前記四から六で挙げた具体的な方策を検討し、本条の改正を含む抜本的な見直しに向けた速やかな検討が必要と考えるが、政府の見解を示されたい。

八 画像生成AIに関しては、著作権法にとどまらず、人権侵害や安全保障を含む幅広い観点からのリスクが指摘されている。国際的な枠組みに沿って適切に規制することが求められると考えるが、政府の見解を示されたい。

  右質問する。