第213回国会(常会)
質問第一〇八号 政治資金収支報告書の適切な記載に向けた総務省及び選挙管理委員会の監督権限行使のあり方等に関する質問主意書 右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。 令和六年四月十日 舟山 康江
参議院議長 尾辻 秀久 殿 政治資金収支報告書の適切な記載に向けた総務省及び選挙管理委員会の監督権限行使のあり方等に関する質問主意書 政治資金規正法(以下「規正法」という。)第一条では、「政治団体に係る政治資金の収支の公開(略)その他の措置を講ずることにより、政治活動の公明と公正を確保し、もつて民主政治の健全な発達に寄与する」との立法目的が示され、第二条第二項では、「政治団体は、その責任を自覚し、その政治資金の収受に当たつては、いやしくも国民の疑惑を招くことのないように、この法律に基づいて公明正大に行わなければならない。」との基本理念が示されていることから明らかなように、政治団体には事実に即した正確かつ明確な内容を政治資金収支報告書(以下「収支報告書」という。)に記載する責務が課せられている。 政治団体がそうした責務を果たし、事実に即した正確かつ明確な収支報告書の記載を行うためには、総務省及び各都道府県選挙管理委員会(以下「総務省等」という。)による適切な監督権限の行使が不可欠であると考える。また、公平公正な課税を実現するためには、政治団体以外に本来帰属し課税すべき収入が、収支報告書に記載されているという外形上の理由だけで課税を免れることがないよう、総務省等が税務当局ともしっかりと連携していく必要がある。 こうした中、収支報告書の記載内容や修正の要否に関する照会に対して、本年四月三日に総務省選挙部政治資金課より文書で以下の通りの回答があった。 ○総務省としては、個別の事案について、実質的調査権を有しておらず、具体的な事実関係を承知する立場にはないので、お答えは差し控えさせていただきます。 ○一般論として申し上げると、政治資金規正法において、政治団体の会計責任者は、毎年十二月三十一日現在で、政治団体に係るその年のすべての収入、支出等を記載した収支報告書を作成し、都道府県の選挙管理委員会又は総務大臣に提出しなければならないと規定されています。 ○また、故意又は重大な過失により、収支報告書に記載すべき事項を記載しなかった者又は虚偽の記入をした者については、五年以下の禁錮又は百万円以下の罰金に処する旨の定めがあります。 ○なお、同法上、収支報告書の訂正については、特段の定めは明記されていませんが、収支報告書の内容は事実に即して記載されるべきものであることから、事実に基づいての訂正であるとの申し出があった場合には、訂正していただく取扱いとしています。 ○いずれにしても、個別の事案が、法の規定に抵触するか否かについては、具体の事実に即して判断されるべきものと考えます。 あわせて、担当者からの口頭説明においては、「内容の誤りによる訂正については、申し出があれば受動的に受け付けるものであり、訂正を能動的に働きかける、または命ずるものではない」旨の補足説明があった。 以上の事実関係を前提に、収支報告書の適切な記載に向けた総務省等の監督権限行使のあり方等に関して、以下質問する。 一 規正法では、監督上の措置について定める第三十一条において、「記載すべき事項の記載が不十分であると認めるとき」は、「説明を求め、又は当該報告書等の訂正を命ずることができる。」とされている。 1 収支報告書の適切な記載の実現には、政治活動への不当な介入に当たらない適切な監督権限の行使に基づく妥当な指摘を、進んで受け入れる政治文化の醸成が不可欠である。そのためには、総務省等が有する監督権限について政治関係者に積極的に周知を図ることが極めて重要と考えるが、前記の政治資金課の回答において、第三十一条において定められる総務省等の監督上の措置には何故言及をしなかったのか、理由を示されたい。 2 「記載すべき事項の記載が不十分である」との要件について、どのような態様・内容の記載が「不十分」に該当するのか、具体的な定義や判断基準、事例を明らかにされたい。 3 前記2の具体的な定義や判断基準、事例について、各都道府県選挙管理委員会(以下「都道府県選管」という。)に対して、どのように伝達・周知を行っているか、具体的に明らかにされたい。 4 総務省は平成十七年七月十五日の衆議院政治倫理の確立及び公職選挙法改正に関する特別委員会において、「記載すべき事項の記載が不十分である」場合について、「どのように訂正すれば正確性が回復されるのかといった事実関係が客観的に明らかになっている場合には、訂正を命ずることができる」と答弁している。現在も、この答弁で示された見解を維持しているか、また、それに従って実際の運用を行うよう、都道府県選管に対して、どのように伝達・周知を行っているか、具体的に明らかにされたい。 5 一般論として、収支報告書の形式審査の過程において、規正法や公職選挙法等各種法令に違反する事実の存在を示す記載内容を知り得た場合、知り得た担当者は各種法令上、どのような対応を行う権限・義務が与えられているか。また、そうした権限・義務について、都道府県選管に対して、どのように伝達・周知を行っているか、具体的に明らかにされたい。 二 平成十七年七月十二日の信濃毎日新聞の記事によれば、①「自民党旧橋本派が二○○四年政治資金収支報告書で十五億円余りを使途不明金扱いにした問題をめぐり、総務省がこの収支報告書の正式受理を事実上、保留した上で、過去の支出を明確にするよう同派に求めている」、②「総務省は「いいかげんな報告を受け取り、官報で公表することはできない」と政治資金規正法に基づく審査を実施した。」、③「旧橋本派の対応によっては「訂正命令」を出す可能性もある。」とされている。 1 一般論として、支出を使途不明金として記載することは、規正法第三十一条の「記載すべき事項の記載が不十分であるとき」に該当するか否かを、その理由とともに示されたい。また、該当する場合は総務省等は通常どのような対応を行うか、具体的に示されたい。 2 ①で指摘されている収支報告書の受理の保留が事実であったか否かを明らかにされたい。事実であった場合、いかなる根拠法令・条文に基づく権限、判断理由によるものか、具体的に示されたい。 3 ②で指摘されている規正法に基づく審査の実施が事実であったか否かを明らかにされたい。事実であった場合、いずれの条文に基づく権限、判断理由によるものか、具体的に示されたい。 4 ③で指摘されている訂正命令を実際に行ったか否かを明らかにされたい。訂正命令を行っていた場合、いかなる根拠法令・条文に基づく権限、判断理由によるものか、具体的に示されたい。 5 清和政策研究会の政治資金パーティーを巡る最近の政治団体の収支報告書の修正だけを見ても、上杉謙太郎衆議院議員が代表者の自由民主党福島県衆議院比例区第一支部、髙木毅衆議院議員が代表者の21世紀政策研究会、中根一幸衆議院議員が代表者の一幸会、萩生田光一衆議院議員が代表者の自由民主党東京都第二十四選挙区支部、堀井学衆議院議員が代表者のともに歩き学ぶ会、世耕弘成参議院議員が代表者の紀成会等、使途や内訳を「不明」と記載する事例が多数見られた。規正法第九条で規定される会計帳簿の備付け及び記載の義務や、第十一条で規定される領収書の徴収義務を果たしていなかったことも疑われる状況にあるが、事実に即した正確かつ明確な収支報告書の記載の実現に向け、会計帳簿や領収書の提出を求める等、総務省等には法令上どのような権限の行使が認められているか、また、前記の事例において実際にそうした権限を行使してきたのかを、権限行使の根拠となる法令・条文とともに具体的に示されたい。また、一般論として、会計帳簿の備付けや記載、領収書の徴収が行われていなかったことを確認した場合、捜査当局に情報提供を行っているのか否かを明らかにされたい。 三 大塚拓衆議院議員(以下「大塚議員」という。)が自身のホームページ(https://otsukataku.jp/)において、「当事務所においては、清和研入会から令和二年分まで、清和研パーティーに関わる収支を全額収支報告に計上して参りました。計上方法については、選挙管理委員会にも資金の流れを説明しながら指導を受け、毎年の収支報告を作成してきたところです。しかしながら、令和二年の収支報告提出後に、選挙管理委員会から、清和研パーティーに関わる収支は、事業主体でない個別の政治団体の収支には計上すべきでない、との従来と異なる見解が示されました。」、「当事務所では対応に苦慮しましたが、清和研からも記載は不要である旨説明を受けたこともあり、令和三年分から会計処理を変更することとなりました。」との見解を明らかにしている。 当該政治団体の代表者でもある大塚議員自身が、積極的に説明責任を果たす目的から明らかにしている事実関係であることから、個別の事案であっても、答弁を差し控える特段の理由もないと考えられる。選挙管理委員会の監督権限のあり方について重要な示唆を含む事案でもあり、当該選挙管理委員会(以下「当該選管」という。)にも確認の上、以下1から10について明らかにされたい。 1 大塚議員の見解で示されている一連の経緯が事実であったか否かを示されたい。仮に、事実と異なる点がある場合は、いかなる相違があるのかを具体的に指摘されたい。 2 大塚議員の資金管理団体「世界システム研究所」は、本年二月一日に、令和二年分の収支報告書の修正を行い、収入四百十二万円(「機関紙誌の発行その他の事業による収入」において、「その他の事業による収入」との記載)及び清和政策研究会への支出六十六万円(「清和政策研究会との懇親の集い売上金」との記載)を削除し、清和政策研究会からの寄附三百四十六万円を追加した。仮に「事実に基づいての訂正」が行われたのであれば、当初の収支報告において、事実と異なる記載をしていたことになるが、当初の収支報告での記載が規正法第二十五条第一項第三号の「虚偽の記入」に該当するか否かを、そう判断する理由とともに示されたい。 3 「選挙管理委員会にも資金の流れを説明しながら指導を受け」ていたとされているが、当該選管が資金の流れについて説明を受けていたのが事実か否かを示されたい。事実であった場合、どのような資金の流れであったと説明を受けていたのか、具体的な内容を明らかにされたい。また、一般論として、当該選管が収支報告書の記載内容について指導する権限があるのか否かを、法令上の根拠とともに示されたい。 4 前記2の修正前の令和二年分の収支報告書において、事業の種類の欄には「その他の事業による収入」と記載され、しかも備考欄は空白であったため、事業内容や支払者は一切不明であった。一般論として、こうした記載内容であった場合は、規正法第三十一条の「記載すべき事項の記載が不十分であるとき」に該当するか否かを、そう判断する理由とともに示されたい。 5 「選挙管理委員会にも資金の流れを説明しながら指導を受け」ていたことを勘案すると、前記4で示した記載内容は、「どのように訂正すれば正確性が回復されるのかといった事実関係が客観的に明らかになっている場合」に該当していたものと考えるが、該当すべきと判断するべきだったか否かを、そう判断する理由とともに示されたい。 6 一般論として、前記4のような記載内容は、規正法第三十一条による訂正命令の対象とすべきであるか否かを、そう判断する理由とともに示されたい。 7 前記4のような記載内容に対して、正確性を回復するための修正・追記を、当該選管が長年にわたって要請して来なかった理由を具体的に明らかにされたい。 8 当該選管が「清和研パーティーに関わる収支は、事業主体でない個別の政治団体の収支には計上すべきでない」と判断した根拠を具体的に示されたい。 9 当該選管が令和二年の収支報告書提出時に初めて、従来と異なる見解を示すに至った背景・時期や、それまで長年にわたって、訂正を求めることなく、事実とは異なる記載を容認してきた理由を具体的に明らかにされたい。また、従来と異なる見解を示しながら、それに応じた記載内容への変更を求めることなく、従来通りの記載のままで収支報告書を受理した理由を具体的に示されたい。 10 「令和三年分から会計処理を変更」したとされているが、大塚議員が関係する政治団体の令和三年分以降の収支報告書において、清和研パーティーに関わる収支がどのように記載されていたか、具体的に示されたい。また、そうした記載内容とすることについて、当該選管はどのような指導や助言を行ったのかを具体的に明らかにされたい。 四 本年二月十三日に自由民主党が明らかにした「派閥による政治資金パーティーに関する全議員調査結果」において、調査対象者となった国会議員側の支部・関係政治団体の収入の記載漏れ金額(不記載額)が、平成三十年、令和元年、令和二年、令和三年、令和四年の各年別に一覧で示されている。 また、岸田総理は、本年三月六日の参議院予算委員会の答弁でも、派閥から支出した資金を議員個人が受領した例は今まで党として把握していないことや、検察の捜査等を経た上で、事実を確認した上で、政治団体への寄附であったと判断して収支報告書を訂正していること等を理由に挙げて、収入の記載漏れの原因となった派閥(清和政策研究会)が所属議員側に渡した政治資金パーティーを巡る還付金は全て、当該議員個人に帰属する収入ではなく、当該議員が代表者を務める政党支部又は資金管理団体等の政治団体(以下「議員関係政治団体」という。)に帰属する収入であった旨の見解を述べている。 なお、本年一月三十一日に清和政策研究会が令和二年から四年までの三年分の収支報告書の修正を行ったのに続き、各「議員関係政治団体」の収支報告書の修正が行われているが、社会的に大きく注目され、説明責任を果たすことが強く期待されている事案であり、当該議員自身の指示あるいは了承のもとに、会計責任者が修正を行っていることが強く推認される。 以上の事実関係を前提に、以下1から4について明らかにされたい。 1 令和元年以前(調査対象外の平成二十九年以前も含む)に収入の記載漏れ金額(不記載額)があり、なおかつ、その合計額が、同期間の支出の記載漏れ金額の合計額と一致しない場合、令和二年分の「議員関係政治団体」の収支報告書における「前年からの繰越額」を、前者の合計額から後者の合計額を差し引いた金額(以下「残額」という。)を加えた額(以下「修正額」という。)に修正を行うべきか。 2 仮に前記1で示した修正が行われていなかった場合、以下の各ケースでは、規正法やその他の法令のどの条文に、誰が抵触しうるか。 ①「残額」の帰属が、「議員関係政治団体」のままのケース ②「残額」の帰属が、当該議員に移されていたケース ③「残額」の帰属が、秘書等当該議員以外の個人に移されていたケース ④「残額」の帰属が、「議員関係政治団体」以外の政治団体に移されていたケース 3 仮に「修正額」と異なる金額への修正が行われていた場合、以下の各ケースでは、規正法やその他の法令のどの条文に、誰が抵触しうるか。 ①「残額」の帰属が、「議員関係政治団体」のままのケース ②「残額」の帰属が、当該議員に移されていたケース ③「残額」の帰属が、秘書等当該議員以外の個人に移されていたケース ④「残額」の帰属が、「議員関係政治団体」以外の政治団体に移されていたケース 4 前記2及び3の各ケースにおいて、収支報告書の記載内容や関係者の発言等から、課税すべき所得が存在する可能性が推認される場合は、一般論として、国税庁や所管税務署はどのような対応を行うか。また、収支報告書の形式審査の過程や第三者からの情報提供等により、課税すべき所得が存在する可能性について、都道府県選管が知った場合は、どのような対応を行うべきか。 右質問する。 |