第213回国会(常会)
質問第一〇七号 半導体助成金に関する質問主意書 右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。 令和六年四月十日 須藤 元気
参議院議長 尾辻 秀久 殿 半導体助成金に関する質問主意書 令和三年十二月二十日に、日本政府は特定半導体生産施設整備等計画(以下「本計画」という。)に対して補正予算を計上した。 Taiwan Semiconductor Manufacturing Company, Ltd(以下「TSMC」という。)とその子会社であるJapan Advanced Semiconductor Manufacturing株式会社(以下「JASM」という。)が補助金の申請書を経産省に提出し、令和四年六月十七日、当時の経産大臣によってJASMに対する四千七百六十億円の助成が、国会承認も経ずに決定し、既に助成金の一部分がJASMへ支給された。 一方で、アメリカ合衆国(以下「アメリカ」という。)において、政府から企業に対して大きな額の助成金を拠出する場合においては、国庫から拠出される血税が権力者の一存で偏った企業に流れないように民主主義的な手続きが取られている。 アメリカでは、「CHIPS and Science Act」(以下「CHIPS法」という。)の下で、商務省が企業から助成金の申請を受け、三十億ドルを超える助成金事業計画の場合には、まずは企業が商務省と契約を結び、その事業がアメリカ社会に貢献するかどうか検討を重ねたのちに商務省の承認を経て議会で決議を取るという手続きを踏む。特に、国家安全保障及び経済競争力に関する半導体の国内供給に関する国内生産の増加については、商務長官、国防長官、国家情報長官と協議をしたうえで、当該プロジェクトが必要だということを大統領に提案する。 それをもって、当該プロジェクトが国家安全保障のニーズを満たすか否かを大統領が議会に対して報告・証明し、これが満たされた場合に企業への補助金が認められる。 日米間においての助成金拠出の違いをもとに以下質問する。 一 日本政府が助成金を拠出する事業計画において、今回、TSMC及びJASMに拠出する金額は四千七百六十億円と巨額である。それにもかかわらず、議会での決議も取らず、企業との契約もなし、首相が議会に対して報告・証明することもなく、国民に対する情報開示も十分でないままに裏金問題で名前の挙がった元経産大臣の一存で一外国の私企業に決定したのは手続き上おかしいのではないか。これは、大臣という立場で得られる公権力を濫用した横領に等しいのではないか。 二 米国では企業に助成金を申請する際には、商務省と企業の間で予備的覚書を締結する。その後、包括的なデューデリジェンスに移行し、申請書に記載された内容を精査するのに、外部アドバイザー、専門家、弁護士による検証を求めることもある。日本では、専門家によるJASM工場事業計画のデューデリジェンスは存在するのか。また、それが国民に公開されているのか。 三 前記二に関連して、米国の助成金は手続き上、申請企業のデューデリジェンスが完了したのちに、予備的覚書が締結される。商務省がCHIPS法の下で補助金額が一千万ドルを超える場合には、議会へ通知を行うことになっている。商務省の幹部で構成される取引審査委員会が最終申請を承認した場合、最終的な助成金支給条件を固める手続きを取っている。 助成金支給条件決定後、商務省が申請企業と条件概要書(long form term sheet)を締結する。日本政府は助成金を申請する企業に対して、助成金を支給する際の条件を決めた契約書を締結しているのか。政府見解を示されたい。 四 日本政府がこれまでTSMC及びJASMに対して認定した助成金の総額は、一兆二千八十億円である。5G促進法に基づいて企業が助成金申請を行い、経産大臣より認定をされれば、認定事業者は政府に事業計画を提出しているものの、政府は認定企業と契約も結ばず、国民には詳細を知らせず数ページの計画概要が公表されるのみである。 事業者から助成金申請の際に提出され経産省から承認された計画書の内容を国会議員や国民に公開しない理由は何故なのか。また開示請求に応じないのは国民の知る権利を侵害する行為ではないか。政府見解を示されたい。 五 前記四に関連して、政府は、本政策の目的が安定供給のための助成金だとしているが、マラケシュ協定を理由に「国内優先供給を原則禁止」する立場を取っているため、国内企業に対する優先供給する義務を課していないとしている。国際約束を果たす義務があるなかで、一兆二千八十億円もの巨額の金を国内優先供給できない事業に流すのは不適切ではないか。政府見解を示されたい。 六 二〇二一年五月に、NEDOのハイパワーコンピュータ向け半導体技術の公募について、最大助成額百八十九億円でTSMCが採択された。委託先企業がある場合は委託元と委託先の契約の締結を求め、契約書について、執行機関であるNEDOが検査の際に確認を行っている。 支援のなかで、TSMCの再委託先の公表はイビデンと産総研の二社のみに留まり、その他の再委託企業や再々委託企業を公表しない理由は何か。また、委託元と委託先の契約内容について対外的に公表されていない理由は何か。 七 台湾においてTSMCは、二〇二〇年時点で年間七千万トンの水を汲み上げているため、それが台湾の深刻な水不足の原因だと指摘されている。TSMCの工場拡張計画がそのまま進むことによって二〇二七年までに年間約一・五億トンの水を消費すると指摘されている。世帯にしておおよそ百四十万世帯分の水を消費することになる。 また、台湾でのTSMCの電力消費量は百九十二億キロワットアワーと台湾の総電力需要の六%、工場拡張計画が進めば二〇二八年までに年間四百五十億キロワットアワーと台湾の総電力需要の十三%を消費すると指摘されたことがある。 ところが、台湾の水不足、電力不足の関係からTSMCの当初予定していた台湾国内の工場建設計画が変更され、予定していた工場が日本で建設される流れとなっている。 日本政府は、JASM第一工場及び第二工場の水の汲み上げ量、工場排水の排出量、電力使用量を把握しているのか。TSMCの莫大な水の汲み上げ量、電力消費量は地元住民の生活に深刻な影響を及ぼす可能性があるにもかかわらず、その情報を公開しない理由は何か。 八 前記七に関連して、今後、TSMCあるいはJASMが日本国内で工場建設計画を政府へ提出する際に、水の汲み上げ量、工業廃水の排出量、電力使用量の開示を義務付けるべきだと考えられるが政府見解を示されたい。 九 前記七に関連して、日本の地下水は有限の国民資産である。大企業の水の乱用による水の枯渇や工業廃水による環境破壊を防ぐためには、地下水の汲み上げ量に応じて課税、また、工業廃水排出量に応じて課税するのが望ましい。増税を含む国民負担を引き上げ続ける政府が、大企業を優遇して、取水と排水に対する課税を行わないのは何故か。将来的に課税を検討しているのか。政府見解を示されたい。 十 TSMC及びJASMが工場計画を申請する際、環境に対する影響についての検査、調査を受けて詳細を県に報告しているのか。 また、JASM工場を訪問した人物によると、工場内は迷路のように設計されており、通常の半導体工場とは異なるとの指摘がある。TSMC及びJASMは、工場内部設計の詳細情報を熊本県、あるいは日本政府に届出を行っているのか。情報を公開しない理由は何か。 十一 日本政府はTSMC及びJASMに対して莫大な血税を注いでいるが、日本にどのような社会貢献をするのか条件が契約されているのか。十年間の継続生産義務が課せられているが、供給義務は課せられていないのは政策として不完全ではないか。 また、サプライチェーンを含む間接材料についても国内企業から五十%以上調達することが条件として挙がっているが、「日本に所在する外資企業を含む」とされている。そのため、日経新聞によると、TSMCの台湾サプライヤーが五百社以上日本に来ると報道されている。TSMC及びJASMが日本で巨大な工場を建設したとしても、日本の地元企業の事業を奪い、倒産させる結果となれば、日本における半導体サプライチェーンは壊滅的な打撃を受ける。 日本政府は、そこまで想定をしているのか。政府見解を示されたい。 十二 政府は、一兆二千八十億円に上る血税をTSMCとその子会社にのみ贈与することをなぜ決定したのか。優遇した理由を示されたい。 右質問する。 |