第213回国会(常会)
質問第八六号 我が国における航空事故の事故調査と刑事捜査に関する質問主意書 右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。 令和六年三月二十八日 浜田 聡
参議院議長 尾辻 秀久 殿 我が国における航空事故の事故調査と刑事捜査に関する質問主意書 令和六年一月二日に東京国際空港で発生した、日本航空A350型機と海上保安庁DHC8型機の衝突事故という非常に痛ましい事故が発生した。これを受けて、日本乗員組合連絡会議や航空安全推進連絡会議等から緊急声明等が出されている。令和六年一月三日に航空安全推進連絡会議が発出した緊急声明には、事故原因を調査し再発防止に努めるという国際民間航空条約(以下「ICAO」という。)第十三附属書の原則について、日本は遵守することが求められる等の記載があり、令和六年一月五日に日本乗員組合連絡会議が発出した緊急声明には事故調査と刑事捜査等は分離されなければならない等の記載があり、令和六年一月二十九日に一般社団法人全国医師連盟理事会が発出した緊急声明には、事故調査を優先すべきとして刑法や刑事訴訟法の改正を求める記載がある。このような多数の人命が関わる事故が起きた際には、再発防止のために事故調査が極めて重要である事は言うまでもない。他方、刑法及び刑事訴訟法等で定めている刑罰においては、その独自の目的である犯罪の抑止という公益の観点から科されるものであり、公共の安全と秩序を守るために刑事捜査が極めて重要である事は言うまでもない。つまり、事故調査と刑事捜査はいずれか一方を優先して行うべきではなく、それぞれが適正に行われるべきものである。これらを踏まえて、以下質問する。 一 国土交通省が平成二十三年四月十五日に公表している、JR西日本福知山線事故調査に関わる不祥事問題の検証と事故調査システムの改革に関する提言には、ICAOの事故調査マニュアルにおける事故原因のとらえ方について、特に重要な視点として「スイスチーズ・モデルで示される組織の事業・業務の流れにおける各段階(組織の事業計画やシステム設計の意思決定/その製造、運用計画/運用、管理/現場の作業)の防護壁にはどのような穴(リスク要因)があいていたのかをきめ細かくとらえるには、まず防護壁ごとにみられたエラーについてSHEL分析法によって分析し、それぞれの関連要因を洗い出して、各段階ごとの防護壁にあてはめるという取り組みをするのがよいと提示している点」「事故の原因を幅広くとらえて、事故調査報告書ではそれらすべてを明記すべきであると論じている点」「原因は責任の所在を示すものではないことを、できる限りはっきりと示すべきだと論じている点」「事故の背景要因として、企業が設定している経営の理念や目標(Mission)が、安全性の確立を積極的に推進するものになっているか否か、また、財務状況や安全投資(Money)が健全であったか否かなど問題を視野に入れている点」の四点が挙げられている。これらは運輸安全委員会設置法第十八条第一項に基づき日本における航空事故調査においても特に重要な視点として採用し、準拠しているか、政府の見解を示されたい。 二 前記一について、準拠している場合、運輸安全委員会において公表される事故調査報告書が、刑事捜査や裁判所などの司法機関の判断により必要に応じて活用されることは何ら問題なく、このことのみを以てICAO第十三附属書を遵守していないとの指摘は当たらないものと考えるが、政府の見解を示されたい。 三 航空安全推進連絡会議が発出した緊急声明には、「航空機事故を警察が調査したことにより、事故の原因究明に大きな支障をきたしたという事例はいくつもありました。」とあるが、刑事捜査によって航空事故調査による関係者の口述聴取が取れなかった事例はあるか。ある場合は全て示されたい。また、それ以外にこれまで刑事捜査によって航空事故調査に大きな支障をきたしたと認められた事実はあるか。ある場合はどのような事実があったか、政府が承知している事実全てと、それに対してこれまで政府が行った措置等を全て示されたい。 四 これまで、政府が公表した航空事故調査報告が刑事捜査又は司法判断に用いられた事例、用いられなかった事例はそれぞれいくつあるか。また、刑事捜査又は司法判断に用いられた事例においては、どのように用いられたか、用いられた内容と併せて詳細を示されたい。 五 一般的に、運輸安全委員会が行う航空事故調査の過程において、関係者の口述聴取の目的と公表の判断について、関係者の口述拒否を防ぐためや、事故に関して幅広く情報収集するため等に、政府が行っている取組等があれば可能な範囲で全て示されたい。 六 前記五について、関係者の口述聴取のうち運輸安全委員会が公表した事故調査報告書に記載されたものがある場合、それらは当然に刑事捜査や司法判断に使用される可能性があるが、その場合において当該口述聴取は刑事訴訟法第三百二十条第一項に定められた、供述証拠のうち、法廷で反対尋問を受けていない証拠(伝聞証拠)は事実認定の為の証拠から排除される原則を指す「伝聞証拠禁止の原則」に基づき取り扱われるか、政府の見解を示されたい。 七 一般に航空事故とは、多数の人命に影響を及ぼす本来起きてはならない事故である。他方、航空や船舶事故、鉄道事故等の運輸安全委員会が所管する事故のみならず、医療事故、原発事故等、人命に係る事故は挙げればきりがないほど様々に存在し、人命を担う職務は航空業界の各職種以外にも幅広く存在し、専門性の高いものも少なくない。航空事故の刑事捜査においてはその専門性等から慎重な捜査が求められるところ、運輸安全委員会が公表する報告書のほか、適正な刑事捜査を行う上で専門性を補完するために用いられる資料にはどのようなものが想定されうるか、過去に用いられた主だったもの、あるいは可能性のある主要なものを示されたい。 質問主意書については、答弁書作成にかかる官僚の負担に鑑み、国会法第七十五条第二項の規定に従い答弁を延期した上で、転送から二十一日以内の答弁となっても私としては差し支えない。 右質問する。 |