質問主意書

第213回国会(常会)

質問主意書

質問第八四号

半導体政策の妥当性に関する再質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和六年三月二十六日

須藤 元気


       参議院議長 尾辻 秀久 殿



   半導体政策の妥当性に関する再質問主意書

 令和六年三月六日に提出した「半導体政策の妥当性に関する質問主意書」(第二百十三回国会質問第六四号)(以下「質問主意書」という。)に対し三月十五日付けで送付された政府の答弁書(内閣参質二一三第六四号)(以下「答弁書」という。)は、質問に対して必ずしも的確かつ簡潔に回答するという真摯な対応が行われておらず、また、用語の定義について、「具体的に意味するところが明らかではない」という常套句を使用することで論点をすり替えている答弁が散見される。これは、質問主意書に対する政府の答弁方法として極めて不誠実であり、今後このようなことがないように求めるものである。

 特定半導体事業に国民の血税約一・六六兆円を外資企業に巨額投資をしたことの妥当性を検証することは、国民からの負託に応えるために、必要不可欠であることを十分に認識した上で、国民を裏切ることのないよう、政府においては再質問に真摯に回答されたい。

一 特定半導体分野でのTSMC等外資系企業への支援額の異常さ及び国家戦略としての妥当性について

1 答弁書の一の1及び6についてでは、質問主意書で問うた「政府は、外資系企業から我が国企業への技術の移転がなくても、我が国において特定半導体の生産施設等を整備し、生産を行うことをもって、直ちに「我が国の技術の向上」が図れると判断していると読み取れるが、その理解で間違いないか。」という質問に対し、回答がなされていない。この点について、はいかいいえで簡潔に回答されたい。

2 答弁書の一の2についてで答弁されたように、製品の納入先は日本の顧客が中心であるとすれば、需給が逼迫した場合の緊急時対応として稼働率を向上させ、増産に取り組むことで特定半導体の安定的な供給に資するとの説明は一定の説得力を持つ。しかしながら、質問主意書の一の5で指摘している通り、TSMCは半導体の生産受託企業(半導体ファウンドリ)である。半導体ファウンドリは、上位十社が世界の売上の九十五%以上を占め、二十八ナノメートル以下の半導体を生産できるファウンドリは、上位六社(TSMC(台湾)、Samsung(韓国)、UMC(台湾)、GF(米国)、SMIC(中国)、HHGrace(中国))である。TSMCは世界一位で、世界の半導体売上の約六割を占め、二十八ナノメートル以下を製造できるファウンドリに占めるシェアは六割を超える。したがって、ファブレスのかなりの割合が、TSMC社製の半導体を使用する可能性があると言われている。一方、日本国内のファブレス企業はほとんどなく、米国、台湾、中国に集中しており、これに加えて、Apple、Google、Microsoft、Amazonなどの外国企業が半導体ファウンドリの顧客になる。こうした情報を踏まえると、TSMC熊本工場(JASM)に発注される半導体は、相当の割合が外国企業向けとなる。また、令和四年二月三日付ビジネスジャーナルの湯之上隆氏の記事「TSMC熊本工場よりマイクロン広島工場への補助金投入のほうが、よほど日本の国益」によると、「TSMCの地域別売上高比率では、日本はたかだか四~五%しかビジネスがなく、日本に工場をつくる合理的な根拠は何もない。」と指摘されており、TSMC熊本工場(JASM)への需要の大多数が海外向けと推測される。

 一方、答弁書で指摘された特定半導体生産施設整備等計画では、「「製品の納入先」は「日本の顧客が中心」」と書かれており、政府はその計画を妥当と判断したと理解されるが、「日本の顧客が中心」であると判断した根拠を明確に示されたい。

3 答弁書の一の3についてで回答している「特定半導体等の需給が逼迫した場合において、国内において特定半導体の安定的な供給が実現されるような対応」は、①「特定半導体等の増産」や②「特定半導体等の生産能力を強化するための投資及び研究開発」などを想定しているとのことであるが、この質問は政府の対応について質問しているものであるため、①については「政府が特定半導体等の増産に責任を持つ」と理解して良いか、はいかいいえで簡潔に回答されたい。

 また、②については、特定半導体等の生産能力を強化するための投資及び研究開発は長期的な施策であり、特定半導体等の需給が逼迫した場合における短期的な政策としては対応が間に合わず、ほぼ意味を持たないと考えられるが、政府としては有効な政策として考えていると理解して良いか、はいかいいえで簡潔に回答されたい。

4 質問主意書の一の4で述べた外資系企業を対象とした過去最大額の数億円程度の事業であれば、答弁書で述べられている理由は、著しく妥当性に欠けるとまでは言えないと考えられるが、TSMCに一兆二千百億円弱、マイクロン・テクノロジーに二千百億円余、キオクシアに二千四百億円余という総額約一・六六兆円に及ぶ補助金は、国の令和五年度一般会計予算額と比較しても約一・五%に及ぶ巨額であり、答弁書で述べられている理由では妥当性を説明できていない。再度明確に回答されたい。

5 答弁書の一の6及び7についてに関し、令和五年度基金シートによれば、当該特定半導体等補助事業の成果目標を「二〇三〇年に、国内で半導体を生産する企業の合計売上高(半導体関連)として、十五兆円超を実現」及び「先端ロジック半導体については、二〇三〇年に、…合計売上高として、一・五兆円超を実現」と定めているが、令和三年度六千百七十億円、令和四年度四千五百億円及び令和五年度六千三百二十二億円の総計一兆六千九百九十二億円の投資額に対する費用対効果(B/C)は一を超えている根拠を示されたい。

 また、TSMCへの巨額の補助金について、半導体製造装置や半導体材料等の関連産業の集積、人材育成等についての効果と、当該外資系企業への巨額の補助金とを比較したB/Cも明確に示されたい。

 答弁書では行政事業レビューが行われていることで「厳格な点検に取り組んでいる」と回答しており、また、令和五年度行政事業レビュー公開プロセスでも行政事業レビューを通じてEBPMに基づいた改善を行うと標榜しているが、過去の行政改革推進会議等でも行政事業レビューではB/Cの算出が十分に機能していないことが指摘されており、仮に、行政事業レビューを実施するにあたり、B/Cの計算が考慮されていない場合、経済産業省では、そのようなB/Cを計算した厳格かつ定量的な検証に基づいて合理的な政策決定を行うプロセスは不要と考えていると理解せざるを得ず、答弁書で回答したような「厳格な点検に取り組んでいる」というのは実態を表していないと考える。この点について、政府としての見解を明確に示されたい。

6 答弁書の一の8についてでは、「「六/七ナノメートルの半導体」についても、引き続き一定の需要があるものと認識して」いると回答しているが、どのような分野でどの程度の金額の需要があると試算しているのか、根拠を明確に回答されたい。

 また、特定半導体に関する外資系企業に対する補助金総額は約一・六六兆円に上り、その政策には失敗は許されない。仮に「六/七ナノメートルの半導体」に十分な需要が発生せず、二〇三〇年に、国内で半導体を生産する企業の合計売上高十五兆円超、先端ロジック半導体で一・五兆円の売上目標が達成できなかった場合は、政府はどのような責任をとるつもりか、回答されたい。

二 貧弱な日本の半導体産業への支援策の妥当性について

 答弁書の三についてでは、「サプライチェーン上不可欠性の高い半導体の生産設備の脱炭素化・刷新事業」の予算措置が四百六十五億円は、TSMCへの一兆二千八十億円の巨額の支援額に対して日本の半導体企業に対する一社平均約十五億円で、約八百倍の隔たりがあることの妥当性について、合理的な説明が全くなされていないため、再度真摯に答弁されたい。

 また、令和五年六月に経済産業省が公表している「半導体・デジタル産業戦略」に、「サプライチェーン上不可欠性の高い半導体」についての戦略が欠落しているが、これに対する政府の見解を示されたい。

  右質問する。