質問主意書

第213回国会(常会)

質問主意書

質問第八〇号

公職選挙法、特に個人演説会場用看板の類等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和六年三月二十五日

ながえ 孝子


       参議院議長 尾辻 秀久 殿



   公職選挙法、特に個人演説会場用看板の類等に関する質問主意書

一 個人演説会場用等看板の類を路上でポールスタンドにのぼりを立てて使用する際に、ここ数年違反の指摘を受けることがあると聞く。昭和四十四年の公職選挙法の改正において、公職選挙法第百六十四条の二で、個人演説会等の会場の掲示の特例が定められたが、第五項において、「第二項に規定する立札及び看板の類は、個人演説会、政党演説会又は政党等演説会の会場外のいずれの場所…においても選挙運動のために使用することができる。」と使用を許可し、「ただし、当該立札及び看板の類の掲示箇所については、第百四十五条第一項及び第二項の規定を準用する。」と掲示をする場合はその掲示箇所は限定されている。

 更にこの第百六十四条の二において、個人演説会場用看板等はすべて掲示という表現がなされているが、第五項においては使用と掲示を分けて表記している。本件について問い合わせたところ、内閣法制局は「一般論で申し上げますと、同じ意味を表現する際には、同じ文言を用い、異なる意味を表現する際には、その文脈において適切な文言を用いることとなります。」と回答しており、使用と掲示を分けて考えることが法律においては当然であるにも関わらず、総務省選挙課は、「なぜ使用と掲示が別の言葉で表現されているかわからないが、当時の自治大臣の答弁でも使用を掲示と発言しているので、使用と掲示を同一に考える」と答えている。

 しかしこの議論をするにあたり、選挙課の担当の三名と話したが、選挙実態をほとんど把握していなく、いわゆる「選挙の七つ道具」のような法律に定められているものですら、どのように使われているかも把握していなかった。そこから推察するに、当時の自治省も選挙実態を把握していない者が、使用と掲示を分ける法律の意図するところを理解せず、大臣の趣旨説明文章を作ったということも推測される。

 第百六十四条の二第五項のみ掲示と使用が分けて表記されている点について、掲示と使用という文言がどのような目的をもって法律で制定されたか、政府の見解を示されたい。

二 選挙課がこの個人演説会場用看板の類を公道で使用できないとの説明の際に、昭和五十一年十二月二十四日の最高裁判決を理由として挙げたが、この判決において示されているものは、公道にポスターを貼り付ける行為及び歩道上の緑地帯にプラカードを打ち付けて固定しポスターを掲示することを違反としている。これらは公道を毀損して固定し、かつ放置していることを掲示という文言を使い違法としていると解釈でき、公選法における他の規定を見ても掲示とは何かに固定されているものと解される。

 一般の募金や署名などを街頭で行われている方たちも他のビラ等配布している人達との違いを明確にするために、のぼり等で署名や募金を表示することは一般的であり、かつ、昭和四十四年の公職選挙法改正時の電車の駅はまだ小さく、街頭演説用標旗で充分だったかもしれず、また駅前整備も充分でなかったため、車道に選挙運動用自動車を置けば比較的分かりやすかったかもしれないが、現在では、駅も大型化し、駅前も整備され自動車が入っていけないところも増えており、前記の選挙課の解釈は五十年前の駅前を想定しているに過ぎない。現代において駅前でのぼりを立てて選挙運動をすることまで否定されているとは考えづらく、まずは自治体が管理する駅前広場や歩道等に歩行者等の通行を邪魔しない範囲で、のぼりを設置して政治活動、選挙運動のビラを配布することまで否定されるのではないと考えるが、政府の見解を示されたい。

三 前記一及び二に関連して、選挙実態を十分理解していない者が、法律の解釈を行うことで正しい解釈を行えると思えないが、例えば「駅前で自治体が管理していない場所で街頭演説を行えというがどこでやればいいのか」と選挙課の責任ある者に聞いたところ、「駅の構内でやればいい」と答えた。このような現状を分かっていない者が公選法の解釈を下すことが大問題だと考えるが、政府はこのような現場を知らない者が公選法を解釈している実態について、問題が無いと考えるか。政府の見解を示されたい。

四 公職選挙法の逐条解説書において、個人演説会場用等看板の類は「街頭その他適当な場所に掲示しておくことができる」とあるが、街頭とは街の路上、道端などの意味があり、私道が街頭と呼ばれることはあまりない。公道への掲示を禁止していながら、逐条解説においては街頭への掲示をできるとしているのは、支離滅裂すぎて何が正解なのかもわからない。また現実として街頭といわれるところは、公道上か、駅前広場など自治体が管理しているところであり、昭和五十一年判決を拡大解釈することで、街頭はほぼなくなっているが、政府が考える街頭の掲示の「街頭」とはどのような場所を指すのか。明確に示されたい。

五 昭和五十一年判決以前は、自治省も無許可でのポスターの掲示を認めていたが、最高裁判決を受けて、判決にはそこまで書かれていないにも関わらず、掲示を全面禁止としてまったく使えないものとなった。同様のことは最近でも起こり、車上運動員のビラの頒布について、警察が頒布していた者に聞き取りを行ったことで、ボランティアで協力をしていた選挙運動員が二度と選挙に関わりたくないと語り、政治に関わることを拒否した事例があった。その後車上運動員のビラの頒布は法改正もなく解釈を変え、今は警察ももっぱら車上運動を行っている者についてのビラの頒布で事情聴取を行わなくなった。選挙課の法解釈は、選挙を行う者においても、警察においても、そもそも自治体選管においても選挙活動の在り方を判断する指針を示す立場であり、解釈の変更が行われた場合、少なくとも事前説明会等で明確に示すべきと考えるが、そのような説明を受けたことは無い。法の解釈の変更は何らかの形で明示し、広報すべきであり、この法の解釈は国会答弁で変わったと理解するが、その答弁を知らない候補者は未だ一定程度存在する。法の解釈を変えた場合、公職選挙法においてはどのように周知をしているのか示されたい。

 また、今でもビラを配る際に、自動車・船舶乗車船用腕章と街頭演説用腕章両方をつけている車上運動員もいるが、車上運動員がビラを配る際に両方の腕章をつける必要があるのか示されたい。

六 道路交通法施行令においては、シートベルトの着用を選挙運動における自動車の運転についてはやむをえない場合なされなくていい旨定められているが、それ以上に都道府県公安委員会は、道路使用においても、選挙運動用自動車の交通規制を一部対象外としていると理解する。後者においてはなぜ国の法律等で明記されていないのか示されたい。

七 いずれにしても、道路使用において選挙運動はそれだけ重要なものであると認識されていることから、規制の対象外とされていると解するが、もっとも公正かつ選挙の啓発活動を行っている選挙管理委員会が、妥当と思われない法解釈で限定された選挙運動をより実施しづらいものとしている現状において、充分に有権者にその候補者や政党の考えが理解されず、投票率が上がりづらいものになっていると考える。そもそも問合せに対して、二週間かけて出してきた総務省の最終的な回答では、使用と掲示を混同した自治大臣の趣旨説明を挙げ、そこの発言でも、個人演説会場以外のいずれの場所でも掲示することができると説明しているように、法律の目的は衆議院なら五枚と制限されている立札、看板等を最大限利用できるようにすることであり、現在の選挙課の解釈では、誰かの私有地以外に使用することができず、目的に大きく反している。

 ここに書かれた使用とは、頒布でも掲示でもない選挙運動での使用を想定して、法案が作られたと理解するが、それを理解しない者が趣旨説明文章を作り、そこでうやむやなまま現代まで至っている可能性がある。

 これらを踏まえ、少なくとも個人演説会場用看板等の類については、それを管理する者が近くにいるという前提で選挙運動用ビラや政治活動としての政党機関紙の頒布の際にポールスタンド等でのぼりを設置することは公選法における使用として許可すべきであり、また自治体においても、公安委員会が選挙運動に対し規制を緩和しているように、歩道や駅前広場等における選挙期間中の選挙運動や政治活動においては、通行の大きな妨げとならない限りにおいて、撤去命令を控えるよう、自治体に検討するよう依頼していただきたいが、政府の見解を示されたい。

八 前記七に関連して、同様に文書図画の掲示においても公道に直接添付あるいは公道を毀損しての掲示以外は、移動可能かつ、その周辺で政治活動、選挙運動がなされている場合、国や自治体の施設の敷地内を除いて、国や自治体においては、通行の危険を及ぼすような場合を除いて、政治活動の重要性を鑑み軽々に排除命令を発し政治活動を制限することは、各公安委員会が道路規制を選挙時に一部解除しているように、一定の配慮を求める。国は地方自治体に対して、前記七の個人演説会場用看板の類同様、検討を促していただきたいが、政府の見解を示されたい。

九 駅前等自治体が管理する場において、選挙時の街頭演説や政治活動においても予約及び使用料が求められるケースがある。個人演説会場においては公共の施設であれば使用料を免除されるところ、同様に選挙運動及び政治活動におけるビラの頒布等も免除されるべきだと考えるが、最近の傾向として、市民が選挙はうるさいから自治体に規制を促しているようにも感じられる。自治体が選挙運動や政治活動に規制を加えることは、より選挙への関心を下げる結果につながっている可能性があり、インターネットの解禁は関心がある人には選挙情報等にアクセスをしやすくしたが、関心のない人に関心を寄せさせることは難しく、未だ街頭演説等に依拠するところは大きい。駅前広場等で選挙期間中に街頭演説や政治活動を行う場合、他の利用者の妨げにならない範囲において、使用料の徴収は免除されて然るべきだと考えるが、個々の自治体の判断と考えるか、政府の見解を示されたい。

十 最後に、自治体をまたぐ参議院比例区選挙や衆議院の比例ブロック選挙において、自治体選管でそれぞれルールが違うということ自体、それらを把握し対応することにおいて立候補者への負担は大きい。地方自治体選挙においては、それぞれの自治体で判断されるところもあると思うが、国会議員を選ぶ国政選挙においては、ルールが各選挙管理委員会で違うということは、公平性の観点から問題がある。このような背景を考えると国政選挙のルールは全国どこでも統一した判断が求められ、中央選挙管理会で明確に定められるべきだが、そうなっていない実態を是とする合理的根拠を示されたい。また合理的根拠がない場合、全国どこでも統一した規制に則り国政選挙は行われるべきと考えるが、政府の見解を示されたい。

  右質問する。