第213回国会(常会)
質問第七三号 我が国の「移民政策」と外国人労働者に関する質問主意書 右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。 令和六年三月十四日 神谷 宗幣
参議院議長 尾辻 秀久 殿 我が国の「移民政策」と外国人労働者に関する質問主意書 我が国の「移民政策」と外国人労働者に関する質問主意書(第二百十二回国会質問第四九号)に対して答弁(内閣参質二一二第四九号)(以下「本件答弁書一」という。)、及び、我が国の「移民政策」と外国人労働者に関する再質問主意書(同会期質問第八六号)(以下「本件再質問主意書」という。)に対して答弁(内閣参質二一二第八六号)(以下「本件答弁書二」という。)がなされた。 政府は、「特定技能二号」の対象者について「個々の在留状況に応じて、一定の期間ごとに慎重な審査を経て更新を認める」と答弁している。しかし、「在留期間の更新の通算期間に上限がない」のであれば、条件を満たし続ける限り、理論上は更新が可能であるから、実質的に無限の在留が可能となるのではないか。さらに、「特定技能二号」の在留資格での在留期間は、永住許可の要件である「原則として引き続き十年以上本邦に在留していること」の在留期間に算入され、同時に家族の帯同も認められるため、長期にわたり外国人とその家族を受け入れることになり、事実上の移民の受入れに繋がる可能性がある。 従って、本件答弁書二の「一について」は、実情を正しく説明した回答とは思われない。結局、政府がそれを「移民政策」と認めるか否かに関わらず、「特定技能二号」における在留資格の容認やその他の政策を推進することにより、事実上移民を受け入れる門を開くことは明白である。 他国の例をみると、初期段階では、外国人を事実上の移民として受け入れつつも、適切な移民政策を実施しない「無策」状態が続き、社会コストの増大を抑制できない上に、生起する問題が手に負えない状態になってしまう状況に陥っているように見える。次の段階では、社会コストを減らすために、政府が主導で、文化理解や言語習得などの施策を実施する「統合」段階に移行するが、統合政策にもかかわらず、外国人数の増加や文化的差異による不適応が累積し、「破綻」段階に至っているのが欧米諸国に見られる現状である。 結局、欧米諸国では社会コストの増大と不適応の累積といった問題の解決のために、移民流入を制限する方向に舵を切っている。例えば、EUは受入れ規制を強化する新制度に合意し、米国ニューヨーク市では不法移民の急増による受入れ能力の限界を理由に非常事態を宣言し、「私たちの思いやりは無限だが、資源は無限ではない」との声明を出した。カナダ・ケベック州でも、難民増加に伴う受入れ能力の「崩壊点」への接近を懸念し、連邦政府に対して流入抑制と費用の拠出を求めている。オーストラリアでも、家賃の高騰やホームレスの増加などの問題により、移民制度の崩壊を認め、首相が移民数を「持続可能なレベル」に戻す必要があると主張する事態となっている。これらの例は、積極的な移民受入れ政策下でも、外国人流入の増加には限界があることを示唆している。 一方、二月九日に行われた関係閣僚会議では、技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議最終報告書を踏まえ、現行の技能実習制度を廃止し、人手不足分野での人材確保及び育成を目的とする「育成就労制度」を創設することが明らかにされた。 この新制度は、日本で培われた技能、技術又は知識を開発途上地域に移転し、その地域の経済発展に貢献することを目的していた「技能実習制度」とは全く異なり、外国人労働者の積極的な受入れと日本の人手不足問題の解消を目指す方向に舵を切る政策転換である。 しかも、三月六日には、政府は、特定技能制度で二〇二四年度から五年間で受け入れる上限を八十万人超に設定する方向で検討に入ったことが報じられている。 結局、移民の労働力に依存する方向を目指すということに他ならないのではないか。 諸外国の例からみても、このような移民受入れは、非常に大きな社会変化と混乱を伴うものとなることが危惧される。先例に学び、無策の状態を避け、必要な施策を今から講じることが極めて重要である。 以上を踏まえ、質問する。 一 本件答弁書二の「一について」において、「「移民」という言葉は様々な文脈で用いられており」とのことであるが、政府として、「移民」「移民政策」をどう定義しているのか、示されたい。 二 本件答弁書二の「五について」において、具体的な内容が明らかでないとされた部分に関する具体的な内容は下記の通りである。 「我が国との二国間関係が極めて劣悪である」とは、日本と相手国との関係が様々な理由で良好でない場合を指し、相手国の国民を外国人労働者として我が国に受け入れることが不適切と考えられるケースである。「我が国の安全保障にとり重大な脅威を与える」とは、例えば、相手国が日本の領土を不法に奪取する意図を持ち自国領であると不法に主張している、あるいは船舶や航空機を日本の領土に侵入させて日本の領有権を侵害する、あるいは侵害しかねない行動など、日本の安全保障にとって脅威を与えることをいう。「経済安全保障の観点から我が国の国益を害する恐れのある」とは、日本の商業上の権利を搾取するなどして、日本の経済的利益に損害を与える恐れのあることをいう。「国内において重大な人権侵害が行われている」とは、国際社会から非難されるほどの人権侵害が行われていることをいう。 1 右を踏まえ、本件再質問主意書の質問五に再度答弁されたい。 2 「育成就労制度」においては、二国間取決め(MOC)を新たに作成し、悪質な送出機関の排除と、取決めを作成した国の送出機関からの受入れを原則とすることとされている。この取決めを作成する相手国及びその送出機関の選定方法は、どのように行われるのか。 三 本件答弁書二の「六について」によれば、「特定技能の在留資格に係る制度の施行状況等を踏まえつつ、今後とも、必要に応じて国民に丁寧に説明するなどして、制度の適切な運用に努め」るとのことである。特定技能二号評価試験が実施されており、この施策が日本社会全体に大きな影響を与えることを考慮すれば、国民への説明は緊急の課題である。 1 政府は、「必要に応じて国民に丁寧に説明する」と答弁したが、現状で、国民への丁寧な説明が必要であると考えているか。また、これまでどのような形で国民に説明してきたか。また、今後、「国民に丁寧に説明する」具体的な方法と実施時期について示されたい。 2 「育成就労制度」の導入によって外国人施策が大きく変わることに伴い、政府は、特定技能の在留資格や「育成就労制度」の変更点について、国民にどう説明していくか。政府が計画している「国民に丁寧に説明する」ための方法と、その説明を行う予定の時期などについて詳細に示されたい。 四 特定技能受入れの経済効果や社会コストに関し、本件答弁書一の「七について」によれば、「具体的な数値を試算するような取組は行っていない」とのことである。この点、今後は、社会コストについて具体的な数値を試算し、経済に与える効果と比較することが必要ではないかを質した本件再質問主意書の質問七に対しては、「御指摘の点を含め、どのような対応が可能か検討してまいりたい。」との答弁であった。 「特定技能二号」の施策が実施段階にあり、さらに「育成就労制度」の創設に向けて関係閣僚会議の決定も行われたことを踏まえ、早急に検討が必要であると思われるが、右検討の方法と時期、結論を出す時期の目処、可能な範囲で考えられる本件対応内容につき、政府の見解を示されたい。 五 本件答弁書二の「九について」によれば、外国人労働者の受入れについては、令和五年四月十八日の参議院法務委員会において、齋藤法務大臣(当時)が「専門的、技術的分野の外国人については、我が国の経済社会の活性化に資する、そういう観点から積極的に受け入れていく、それ以外の分野につきましては、日本人の雇用、産業構造への影響、教育、社会保障等の社会的コスト、治安など、幅広い観点から、国民的コンセンサスを踏まえつつ政府全体で検討していく」と答弁したとのことである。この点、人材確保のために創設される「育成就労制度」でも、受入れ対象分野ごとに受入れ見込数を設定し、それを受入れ上限数として運用する方針とのことであり、受入れ全体の数についての考慮がなされていないようである。 以上を踏まえ、外国人労働者の受入れにあたっては、各分野の個別事情で受入れ見込みを別々に算定するだけではなく、受入れ合計数についても、上記の幅広い観点から慎重に検討を行い、根拠を示して全体の上限設定などを示すべきだと思われるが、政府の見解を示されたい。 六 本件答弁書二の「十について」によれば、「外国人の受入れに係る課題への対応や制度設計を行うに当たっては、我が国の実態を踏まえ、諸外国の制度も参考にしつつ、幅広い観点から検討を行ってきたところ」とのことである。具体的にどの国のどのような例を参考にしたのかを示されたい。 七 「育成就労制度」は、「外国人を三年間の育成期間内に特定技能一号の技能水準の人材に育成する」方針とのことである。この新制度において、従来の技能実習制度で設定されていた五年間の育成期間を三年へと短縮する理由を説明されたい。また、技能実習制度の「我が国で培われた技能、技術又は知識を開発途上地域等へ移転することによって、当該地域等の経済発展を担う「人づくり」に寄与する」との目的は、新制度においてどのような位置づけとなるのか、明らかにされたい。 八 当該関係閣僚会議の決定によると、「特定技能制度については、適正化を図った上で存続する」とされている。政府としては、現状の問題点はいかなるもので、これをどのようにしたら適正化となると考えるのか。具体的に示されたい。 右質問する。 |