質問主意書

第213回国会(常会)

質問主意書

質問第七一号

日本が実施すべき半導体支援策に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和六年三月十三日

須藤 元気


       参議院議長 尾辻 秀久 殿



   日本が実施すべき半導体支援策に関する質問主意書

 半導体は、日本経済の盛衰を左右する重要な産業基盤であるとともに、経済安全保障上の戦略物資であるため、その供給を他国に依存してはならない。この観点から、既存の日本国内の半導体企業を育成、発展させることが、日本の製造業の競争力を取り戻し、日本の国力を再興させる上で最重要の課題である。

 長年にわたり政府が実施してきた一連の半導体政策が、日本国内の半導体企業を育成、発展させる観点で、国家戦略として妥当なものであったかについて、また、今後我が国が行うべき日本の国内半導体産業への支援策のあるべき政策について、以下質問する。

一 経済安全保障推進法による従来型半導体支援について

1 経済安全保障推進法によるパワー半導体支援では原則として事業規模二千億円以上しか対象としていないが、このことについて、令和五年二月九日の日経クロステックの報道によると、当該支援策の狙いはパワー半導体業界の再編とされている。Sicパワー半導体に強気な投資を続けるロームの設備投資額も最大千七百億円(令和三年度から五年間)であることから、一社では対応できる金額ではないため、このような報道が出ていると考えられる。この報道は正しいか、政府の見解を示されたい。

2 前記1に関連し、業界再編を目的とした政策であるとすれば、過去に経済産業省が実行した業界再編政策は、破綻したエルピーダメモリ等、悉く失敗しており、そのような業界再編政策を前提とした支援策は間違いではないか。一方で、業界再編を目的としないならば、二千億円の基準により、パワー半導体企業が全体的に恩恵を受けることができる制度になっておらず、不適切ではないか、政府の見解を示されたい。

3 経済安全保障推進法に基づく支援では、マイコン・アナログでも事業規模が三百億円以上に限定されており、対象企業が特定されてしまうことは問題である。「設備投資規模が著しく大きく、民間独自の取組だけでは実現が困難である」との基準が設けられているが、投資額は個別企業の事情によって異なり、一律に対象となる事業規模を定めるのは、中小の半導体企業を切り捨てる政策となり不適切ではないか、政府の見解を示されたい。

二 WTO協定等の国際ルールとの整合性について

1 前記一の1~3に関連し、経済安全保障推進法に基づく従来型半導体への補助制度は、支援する事業規模を限定している為、マラケシュ協定附属書―Aの補助金及び相殺措置に関する協定の第二条の特定性に抵触し、相殺可能な補助金とみなされる。一方、経済安全保障推進法の第八条第一項に規定する「半導体に係る安定供給確保を図るための取組方針」の第六章第一節では、「WTO協定等の国際ルールとの整合性に十分留意するものとする」と定められている。したがって、WTO協定との整合性の観点で問題があるのではないか、政府の見解を示されたい。

2 令和四年四月二十六日の参議院内閣委員会、経済産業委員会連合審査会において萩生田元大臣は過去の反省として、「諸外国が国を挙げて積極的な投資支援を行う一方、我が国は国策として半導体産業基盤整備を十分に進めてこなかった」と答弁しているが、日本の半導体基盤整備だけでなく、外国の差別的な産業支援策に対しても、適切な対抗措置を取る必要があったのではないか。

 例えば、米国ホワイトハウスが令和三年六月に発表したサプライチェーンレポート「BUILDING RESILIENT SUPPLY CHAINS, REVITALIZING AMERICAN MANUFACTURING, AND FOSTERING BROAD-BASED GROWTH」によると、「台湾政府は、土地代の五十%、建物及び設備費の四十五%、半導体製造装置の二十五%を補助金として半導体企業への支援を行っている。台湾政府により提供された工業団地では、半導体企業へ土地、電気、水道への利用権、及び安価な操業費を提供している。結論として、ある情報筋によると、これらの補助金と便益によって、全体のコストを約二十五~三十%低減させている」旨指摘している。

 このことは台湾政府が長年にわたり、半導体企業に輸出補助金を提供していると解釈できる。台湾政府の半導体企業への巨額な輸出補助金について、日本政府はなぜWTO提訴を行わなかったのか、政府の見解を示されたい。

3 令和四年八月に成立した米国のCHIPS・科学法に基づく半導体支援は、五年間で五百二十七億ドルが半導体産業に支給され、また半導体製造施設の建設・製造装置等に対する投資減税は、四年間にわたって二十五%の税額控除が行われる予定であり、かなり手厚い支援策となっている。米国のような大規模な支援を予定していない日本の半導体政策の下では、日本の半導体産業の競争力が相対的に低下する可能性がある。米国の半導体支援策はマラケシュ協定に規定される相殺可能な補助金に該当するとの見方もある。平成十八年に日米欧が韓国のDRAMに対する補助金に相殺関税を課したように、日本の半導体企業を守るために、米国の当該補助制度に対してWTO提訴をするつもりはないか、政府の見解を示されたい。

三 私が提案する半導体産業支援案について

 令和五年六月十六日に決定された「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」では、推進対象が先端半導体、次世代半導体、省電力性能に優れた半導体に限定されており、政府が発表している一連の半導体政策でも、上記の半導体を製造する企業への支援にほぼ限定している。他方、車載半導体を含め日本の製造業で生産されている製品に組み込まれる半導体は、大半が従来型半導体であり、防衛装備品などに組み込まれる半導体も大半は従来型半導体である。国防上及び経済安全保障の観点からは、研究開発は別として、喫緊、政府が守り支援すべき対象は従来型半導体の製造企業である。政府が決定した上記半導体戦略では、従来型半導体の製造企業に対する支援が欠落しており、致命的に間違っている。

 そこで、従来型半導体の製造企業をも含めた日本国内の半導体産業全体を対象に、高い技術を持ち意欲ある半導体企業の積極的な設備投資を支援する政策として以下を提案したい。

 支援策の基本的な考え方としては、①従来型半導体を含む全ての半導体製造企業に対し公平に支援していくこと、②特定の企業への選別的・恣意的な助成は行わないこと、③予算的な制約で中途半端となるような支援は行わないこと、④支援対象の企業にとって予見性のある制度であること、⑤WTO協定等の国際ルールとの整合性に配慮した支援であることとしている。このため、予算的な制約で特定の企業を対象とせざるを得ず、内容も中途半端となり予見性が低く、WTO協定等との整合性にも疑問の余地のある補助金や税制控除による支援は行わない。

 具体的には、設備投資後三~四年程度で投資額の八割程度を減価償却できる大胆な特別償却制度を支援の中心とする。特別償却制度は納税の繰延であって、長期的に見れば企業の納税額が減るわけではなく、支援のための財源は不要である。税収確保の観点から見ても、特別償却制度の恩恵で企業が積極的に設備投資を行うことになり、経済全体が好況となって法人税収全体が増加するとともに、設備投資を行なった企業は生産性が向上し、競争力が増すことから企業収益も向上する可能性が高まり、また、当該企業の長期的な納税額も増加する可能性が高まり、メリットのみでデメリットはない。また、支援額の規模は対象企業側で選択でき、一定期間制度が維持されるので政策の予見性も高い。

 また、万全な支援策とするため、金融支援策としては公的金融機関からの低利での融資斡旋と、投資が失敗した場合の信用保証制度を充実による支援も行うこととする。

 このような支援策について、政府の見解を示されたい。

  右質問する。