質問主意書

第213回国会(常会)

質問主意書

質問第六九号

日本が子の連れ去り国との非難を受けていることに関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和六年三月十二日

浜田 聡


       参議院議長 尾辻 秀久 殿



   日本が子の連れ去り国との非難を受けていることに関する質問主意書

 二〇二二年十一月三十日に、国連自由権規約委員会から、日本に対して示された総括所見(CCPR/C/JPN/CO/7)には、次のように、日本が子の連れ去り国である旨の懸念が示されている。

○児童の権利

四十四.…委員会は、国内及び国際的な子の連れ去り(parental child abduction)の頻発と、締約国による適切な対応の欠如に関する報告を受け、懸念を抱いている。

四十五.締約国は以下をすべきである。

(b)法律を改正し、子を家族から離す明確な基準を確立し、それが正当かどうかを判断するために、全ケースに強制的な司法審査を導入し、子及び親の意見を聞いた上で、子の保護と子の最善の利益のために必要な場合にのみ、最後の手段として子を親から離すことを確実にする。

(c)子の連れ去り(parental child abduction)の事例に適切に対応するために必要な措置を導入し、子の監護に関する決定が、国内であれ国際であれ、子の最善の利益を考慮し、実際に完全に実施されることを確保すること。

訳注:括弧内の英文は、原文の対応箇所を意味する。

原文:https://tbinternet.ohchr.org/_layouts/15/treatybodyexternal/Download.aspx?symbolno=CCPR%2FC%2FJPN%2FCO%2F7

 また、二〇二二年七月八日に、欧州議会において、賛成六百八十六、反対一、棄権八票で採択された、日本における国際的・国内的な子の連れ去りに対する決議(International and domestic parental abduction of EU children in Japan、以下「EU決議」という。)には、次のように、日本が子の連れ去り国である旨の非難が示されている。

一.日本における子の連れ去り(parental child abduction)と、関連する法律や司法決定が全国的に施行されていないという事実による結果として苦しんでいる子どもたちの状況について、懸念を表明する。日本にいる欧州連合市民の子どもたちが、自分たちの権利を守る国際協定の規定による保護を享受できなければならないと勧告する。

二.欧州連合の戦略的パートナーたる日本が、子どもの連れ去り(child abduction)の件において国際法規を遵守する気がない様子である事に遺憾を表明し注目する。たとえば、一九八〇年のハーグ条約に基づく子の返還に関する手続など、日本および関連国のその他の裁判所から言い渡された決定が日本で効果的に執行されるように、国の法的枠組みを改善する必要があると勧告する。

三.子供達のための人権原則は日本政府による国家的行動に依存しているという事実を強調する。多くの立法および非立法措置が、両方の親に対する子供の権利を保護するために、ことさら必要であることを強調する。日本の当局に対し、残された親に裁判所が認めたふれあいと訪問権、およびそのような親が日本に居住する子供たちとの有意義な接触を維持する権利について、効果的に執行するよう要請する。これらの決定は常に子どもの最善の利益を念頭に置いて行われるべきであることを強調する。

四.時間の経過が子どもにとって、また子どもと残された親の間の将来の関係に長期的な悪影響を及ぼす可能性があるため、子どもの連れ去り事件(child abduction cases)は、迅速な対応が必要であることを強調する。

五.子の連れ去り(parental child abduction)は、子どものウェルビーイングに害を及ぼすことがあるとともに、長期的に有害な影響を与えることがあるという事実を指摘する。子どもの連れ去りは、子どもと残された親の両方にとって精神障害の問題をひき起こすことがあることを強調する。

六.一九八〇年ハーグ条約の主たる目的の一つは、子ども達の連れ去り(their abduction)の直前の常居所たる国への迅速な返還を確実なものにするための手順を確立することにより、以って子の連れ去り(parental child abduction)の有害な影響から子ども達を保護することであることを強調する。

訳注:括弧内の英文は、原文の対応箇所を意味する。

原文:https://www.europarl.europa.eu/doceo/document/TA-9-2020-0182_EN.html

 上記総括所見(CCPR/C/JPN/CO/7)に指摘された懸念、二〇二〇年七月八日「日本における国際的・国内的な子の連れ去りに対する決議」を受ける原因は、次に示す最高裁判所判例が、子の連れ去りを「特段の事情がない限り、適法」とする点にある。

(平成五(オ)六〇九、平成五年十月十九日最高裁判所第三小法廷判決)

「夫婦の一方(請求者)が他方(拘束者)に対し、人身保護法に基づき、共同親権に服する幼児の引渡しを請求した場合には、…いいかえれば、拘束者が右幼児を監護することが子の幸福に反することが明白であることを要するものというべきである…。けだし、夫婦がその間の子である幼児に対して共同で親権を行使している場合には、夫婦の一方による右幼児に対する監護は、親権に基づくものとして、特段の事情がない限り、適法というべきであるから、右監護・拘束が人身保護規則四条にいう顕著な違法性があるというためには、右監護が子の幸福に反することが明白であることを要するものといわなければならないからである。」

 また、第百八十三回国会衆議院法務委員会(平成二十五年四月十九日)において渡辺泰之参考人は、次のような指摘をしている。

「その審判が行われている中、民法七百六十六条が改正されまして、妻らが行ったような子供の連れ去り、引き離し行為というのは、裁判所の親権者、監護権者指定において不利な推定が働く、そういった立法趣旨も国会で当時の法務大臣より明確に答弁されました。

若林裁判官には、その議事録等を見せまして、法に従った運用をしていただきたいと私が要請したところ、その裁判官は、法務大臣が何を言おうが関係ない、国会の議事録など参考にしたことはないとおっしゃられ、あなたと法律の議論をするつもりはないと言って、その場で法廷を退出してしまいました。

その後、この発言が不適切であるとメディアで報道されたことに反発しまして、この若林氏は、公文書である審判書において、私が妻に対しはさみを突きつけたなど、何ら根拠なくDVを事実認定。一方で、私が提出した、妻に年百日近くの面会交流を認めるという共同養育計画などにつきましては、私の主張は一言も記載がありませんでした。

さらに、民法七百六十六条の規定は、従前から認められていた裁判所の運用に明文が一部追いついただけ、今回の法改正を取り上げて、これまでと違うと強調することは相当ではないなどと、立法趣旨と全く異なることを書いた上で、娘の連れ去りや引き離しについては何ら問題ないと、妻を監護者としました。

裁判官は、言うまでもなく、法と事実に基づき判断することが仕事であるはずです。その二つとも堂々と無視したこの文書は、公文書に値するものでないことは明らかです。高裁、最高裁は、当然、この事実認定や法解釈を含め、覆すと思っておりましたが、その期待は裏切られ、監護者を妻とする決定が昨年の十月になされました。」

 渡辺泰之氏によれば、同氏の監護者指定審判を担当した裁判官は、退官後、渡辺泰之氏の元妻の代理人の弁護士事務所に天下ったそうである。

 以上の様に、「裁判官の独立」を奇禍とした、家庭裁判所の恣意的運用、裁判官による条約、法律の趣旨の恣意的解釈が、我が国の国民の幸福を奪い、我が国の国益を損なっているものと思われる。

 そこで、以下質問する。

一 前記総括所見(CCPR/C/JPN/CO/7)に指摘された懸念、二〇二〇年七月八日「日本における国際的・国内的な子の連れ去りに対する決議」は、主としてハーグ条約適用の無い国内連れ去りに対するものであると理解しているが、政府の見解は如何。

二 前記総括所見(CCPR/C/JPN/CO/7)に指摘された懸念、二〇二〇年七月八日「日本における国際的・国内的な子の連れ去りに対する決議」に対する、政府の対応は如何。

三 今回取り上げたいわゆる子の連れ去りに関して私に寄せられた多くの意見として、別居夫婦において子を連れて無断で出ていく、つまり連れ去った側に対して有利な判決が圧倒的に多いということが挙げられる。しかしこれを実証するための統計データがなく、そのことが大きな問題であると考える。

 そこで、家庭裁判所の判断の正当性を担保するため、統計データを取得することが必要と考えるが、政府の見解は如何。

四 裁判官の天下り規制は存在するか。規制が存在しないならば、退官後の天下り先を有利にする裁判官の恣意を担保する制度は存在するか。また、制度が存在しないとしたら、何故か。裁判官の天下り規制を定める必要があるのではないか、政府の見解は如何。

 質問主意書については、答弁書作成にかかる官僚の負担に鑑み、国会法第七十五条第二項の規定に従い答弁を延期した上で、転送から二十一日以内の答弁となっても私としては差し支えない。

  右質問する。