質問主意書

第213回国会(常会)

質問主意書

質問第六四号

半導体政策の妥当性に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和六年三月六日

須藤 元気


       参議院議長 尾辻 秀久 殿



   半導体政策の妥当性に関する質問主意書

 半導体は、日本経済の盛衰を左右する重要な産業基盤であるとともに、経済安全保障上の戦略物資であるため、その供給を他国に依存してはならない。この観点から、既存の日本国内の半導体企業を育成、発展させることが、日本の製造業の競争力を取り戻し、日本の国力を再興させる上で最重要の課題である。

 しかしながら、特定半導体分野では日本政府は、外資系企業を対象として総額一兆六千六百四十四億円を補助し、それは特定半導体基金(総額一兆六千九百九十二億円)から拠出される。その内訳は、台湾TSMCに対し一兆二千八十億円(熊本第一工場設備投資(半導体製造)に四千七百六十億円、熊本第二工場設備投資(半導体製造)に七千三百二十億円)、米国マイクロン・テクノロジーに対し二千百三十五億円(工場設備投資(半導体製造))、キオクシアに対し二千四百二十九億円(四日市工場に九百二十九億円、四日市及び北上工場設備投資(半導体製造)に千五百億円)である。さらに、研究開発補助として、ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発基金から、台湾TSMCのつくば市の研究開発拠点新設に百九十億円、マイクロン・テクノロジーの次世代メモリ研究開発に二百五十億円が計上されている。

 このように、過去に政府が決定した一連の外資系企業優遇の半導体政策は、日本国内の半導体企業を育成、発展させる観点で、国家戦略として妥当なものであるかについて、以下質問する。

一 特定半導体分野でのTSMC等外資系企業への支援額の異常さ及び国家戦略としての妥当性について

1 5G促進法第一条に「特定半導体が我が国の技術の向上により国内で安定的に生産されることが我が国における産業基盤を整備する上で重要である」とあり、この法律の目的が「国内で安定的に生産される」ことであると示されている。この法律の目的に照らし合わせると、支援対象企業は、生産技術が保持でき、次世代技術開発が可能である国内企業でなければならないが、特定半導体に関する補助対象として決定された三社は全て外資系企業であり、生産技術を日本国内に移転するという保証はないので、上記の法律の目的を達成することは難しい。

 令和五年四月七日に参議院議員神谷宗幣君が提出した「日本政府の半導体政策に関する質問主意書」(第二百十一回国会質問第五一号。以下「第五一号質問主意書」という。)に対する答弁書(内閣参質二一一第五一号。以下「第五一号答弁書」という。)では、「法第十一条第一項に規定する特定半導体生産施設整備等計画の認定の申請」が行われ、所定の要件を満たしていれば、いずれの国の事業者であっても認定されると答弁されているが、答弁で言及されていない5G促進法第十一条第三項第一号の「計画の内容が指針に照らし適切なものであること」も要件とされており、同法第三条第二項の規定によれば「特定半導体生産施設整備等は、…国際的に特定半導体の生産能力が限られている状況においてもその需給の変動に対応できるよう我が国の技術の向上により特定半導体の国内における安定的な生産を確保すること、及び我が国における特定半導体の生産に関係する産業の発展に資すること」とされている。外資系企業は、当該企業の利益増進を目的として企業活動を行うことから、需給の変動に応じた特定半導体の国内における安定的な供給を保証するものではなく、また国内企業に技術を移転する可能性も低いことから、外資系企業が特定半導体の国内における安定的な生産を確保するための「我が国の技術の向上」の担い手となり得るかは極めて怪しい。

 この点について、令和五年五月十七日付神谷宗幣君提出の「日本政府の半導体政策に関する再質問主意書」(第二百十一回国会質問第七五号。以下「第七五号質問主意書」という。)に対する答弁書(内閣参質二一一第七五号。以下「第七五号答弁書」という。)では、「「外資系企業」であっても、我が国において特定半導体の生産施設等を整備し、生産を行うことは、半導体製造装置や半導体材料等の関連産業の集積、人材育成等を通じた我が国における半導体関連技術の向上や半導体関連産業の発展に資するものであり、法第三条第二項の考え方に沿ったものである」と答弁している。

 半導体製造装置や半導体材料等の関連産業の集積は、必ずしも我が国の特定半導体の製造技術の向上に資するものではなく、また、当該外資系企業による日本人労働者の雇用によって、特定半導体の製造技術の中核的技術者が育成される可能性は高くない。しかしながら、第七五号答弁書からは、政府は、外資系企業から我が国企業への技術の移転がなくても、我が国において特定半導体の生産施設等を整備し、生産を行うことをもって、直ちに「我が国の技術の向上」が図れると判断していると読み取れるが、その理解で間違いないか。

2 5G促進法の目的が、特定半導体が国内で安定的に生産されることであるとすれば、5G促進法に基づき日本政府から支援された外資系企業は、将来的な特定半導体の逼迫の際にも、国内の半導体購入企業に優先的に供給される仕組みが必要である。

 令和四年六月十七日付二〇二二半経第〇〇一号―一の特定半導体生産施設整備等計画の概要によると、需給逼迫時の取組内容としては、「TSMCは、日本政府からの要請に応じ、日本の顧客向けの供給拡大について誠実に協議に応じる。」とあるが、誠実に協議に応じることのみが求められ、日本の国内産業向けの優先的な供給を義務付けているものではない。

 このことについて、第五一号質問主意書では、「日本企業への優先的な供給に対し拘束力を持ったスキームにしなければ、日本の国内産業を救済し、経済安全保障に寄与することを保証するものではない」と法律の仕組みが立法の趣旨に沿っていないことを指摘しているが、第五一号答弁書では、「世界貿易機関を設立するマラケシュ協定(平成六年条約第十五号)附属書一Aの千九百九十四年の関税及び貿易に関する一般協定第十一条」を根拠に、「法では、認定を受けた事業者に対して国内向けに優先的に出荷する義務を課していない」と答弁している。

 また、第七五号質問主意書で、「特定半導体が逼迫し国内の半導体購入企業に優先的に供給することが求められる事態とは、半導体の供給逼迫により日本国内の製造業が危機的な状況に追い込まれている事態にほかならず、まさに同協定第十一条第二項(a)に規定する「食糧その他輸出締約国にとって不可欠の産品の危機的な不足を防止し、又は緩和するために一時的に課する」必要がある状況である」として、第五一号答弁書の回答に疑問を呈しているが、第七五号答弁書では、「…関税及び貿易に関する一般協定第十一条の例外的な場合に該当するかどうかについては、個別の事案における具体的な事情を踏まえて判断されるべきものであり、一概にお答えすることは困難である」として、明確な答弁を行っていないが、第五一号答弁書の答弁を事実上撤回しているものと理解でき、国内向けに優先的に出荷する義務を課すことができない根拠が不明確となってしまった。

 神谷宗幣君の質問主意書での当該事項に関する質問は、国民目線から見て極めて妥当な疑問であり、特定半導体が逼迫した際に国内の半導体購入企業に優先的に供給する仕組みが組込まれていないことは、法律の趣旨に照らして、極めて重要な欠陥があると指摘せざるを得ないが、TSMCの熊本第二工場の認定においてもこの問題は解決されていない。この制度上の欠陥を是正する方策について政府の見解を示されたい。

3 前記二に関連して、第五一号答弁書で「特定半導体等の需給がひっ迫した場合における増産を含む国内における安定的な生産に資する取組が行われると見込まれること等を認定の要件としている」と答弁しているが、第七五号質問主意書で「仮に政府からの要請を受け、日本の顧客向けの供給拡大について誠実に協議に応じたとしても、一般的に株主利益を優先する傾向が強い外資系企業である当該事業体が、利益確保よりも国内向けに優先的に出荷することを選択する可能性は低いと考えられる」として、「増産を含む国内における安定的な生産に資する取組が行われると見込まれること等」の要件認定に疑問を呈しているが、第七五号答弁書では「認定を受けた者が認定に係る計画に従って特定半導体生産施設整備等…を実施していないと認められるときは、当該認定を取り消すことができ」、「「利益確保よりも国内向けに優先的に出荷することを選択する可能性は低い」とは考えていないが、政府としては、国内において特定半導体の安定的な供給が実現されるよう適切に対応してまいりたい」と答弁している。増産を含む国内における安定的な生産に資する取組は、特定半導体生産施設整備等の実施後に行われる企業活動であって、認定要件とは基本的に無関係である。国内における安定的な生産に資する取組が行われていないことをもって、当該認定を取り消すことができないのは明らかであり、論理的に矛盾している。このことについて政府の見解を示されたい。

 また、政府としては、特定半導体等の需給が逼迫した場合において、国内において特定半導体の安定的な供給が実現されるような対応とは、どのようなものであるか、具体的な例示により示されたい。

4 特定半導体分野への日本政府の支援は、前述のように全て外資系企業を対象とし、TSMCに一兆二千八十億円、マイクロン・テクノロジーに二千百三十五億円、キオクシアに二千四百二十九億円という巨額の補助が計上されている。これは、半導体分野ではもちろん、産業分野全体で見ても、外資系企業向けの補助金として日本史上最大である。

 ちなみに、gBizINFOという平成二十八年一月以降に国内で登記されている法人情報を政府がまとめたウェブサイトによれば、他産業を含め、過去に行われた外資系企業への補助金額ベスト三社は、トップが、マッキンゼー・アンド・カンパニー(米国)の「令和三年度補正水素、燃料アンモニア導入及びCCUS適地確保体制構築事業(アジア・トランジション・ファイナンスに関する調査事業)(認定時期:二〇二二年四月八日)」で約三億円、二位がジンエアー(韓国)の「平成二十九年度地方空港受入環境整備事業費補助金(認定時期:二〇一八年三月十九日)」で約二千五百万円、三位がキャセイパシフィックエアウェイズリミテッド(香港)の「平成二十九~三十年度地方空港受入環境整備事業費補助金(認定時期:二〇一八年三月十四日、三月十六日、八月二十四日)」の約一千万円となっており、これらと比べると、四桁以上の開きがある。

 特定半導体分野に、国民の血税を使ってこのような突出した異常な金額の補助金を外資系企業に投下するには、それ相当の国益上の理由が必要であるが、その妥当性と理由は何か、政府の見解を明確に示されたい。

5 中でも、TSMCは半導体の生産受託企業(半導体ファウンドリ)であるが、外資系半導体メーカーであるマイクロン・テクノロジーやキオクシアのような日本企業由来の半導体企業と比較して、TSMCへの補助金額は他の二社の五倍程度の巨額に上る。半導体ファウンドリは、上位十社が世界の売上の九十五%以上を占め、二十八ナノメートル以下の半導体を生産できるファウンドリは、上位六社(TSMC(台湾)、Samsung(韓国)、UMC(台湾)、GF(米国)、SMIC(中国)、HHGrace(中国))である。TSMCは世界一位で、世界の半導体売上の約六割を占め、二十八ナノメートル以下を製造できるファウンドリに占めるシェアは六割を超える。したがって、ファブレスのかなりの割合が、TSMC社製の半導体を使用する可能性があると言われている。一方、日本国内のファブレス企業はほとんどなく、米国、台湾、中国に集中しており、これに加えて、Apple、Google、Microsoft、Amazonなどの外国企業が半導体ファウンドリの顧客になる。こうした情報を踏まえると、TSMC熊本工場(JASM)に発注される半導体は、相当の割合が外国企業向けとなる。また、令和四年二月三日付ビジネスジャーナルの湯之上隆氏の記事「TSMC熊本工場よりマイクロン広島工場への補助金投入のほうが、よほど日本の国益」によると、「TSMCの地域別売上高比率では、日本はたかだか四~五%しかビジネスがなく、日本に工場をつくる合理的な根拠は何もない。」と指摘されている。

 TSMCへの需要の大多数が海外向けであるとすれば、特定半導体が国内で安定的に生産されることであるとの5G促進法の趣旨に照らすと、総額一兆二千八十億円の日本人の血税を使い、外国企業向けの半導体需要を充足させるためにTSMCを誘致する合理性、妥当性は認められない。このことについて、政府の見解を明確に示されたい。

6 前記一で述べたように、TSMCへの巨額の補助金については、半導体製造装置や半導体材料等の関連産業の集積、人材育成等について一定の効果が認められるとしても、その効果は極めて限定的であり、当該外資系企業への巨額の補助金に見合っているとは考えにくく、5G促進法の趣旨に照らしても、費用対効果の観点からも、政策の妥当性は認められない。

 このことについて政府の見解を明確に示されたい。

7 冒頭の前文で示した通り、特定半導体分野への補助金は、令和四年三月二十四日に造成された特定半導体基金(総額一兆六千九百九十二億円)から拠出されることとなっている。基金への拠出金の予算については国会で審議されるものの、予算の具体的な支出については、政府が特定半導体設備等計画の認定によって決定することが可能であり、国会での審査対象となっていない。基金制度を使用して特定企業に補助を行うことは、国民への説明義務を十分に果たさないまま、巨額の支出が行われることにほかならず、予算執行の透明性という観点から極めて問題であると言わざるを得ない。このことについて、政府の見解を明確に示されたい。

8 令和六年一月二十二日付JBpressでの湯之上隆氏の記事「TSMC熊本工場で製造するものがあるのか?巨額の補助金投入が無駄に終わる理由」では、二十八ナノメートルは二〇二三年Q1でピークアウトして減少しており、十六/二十ナノメートルも、二〇二二年Q2以降減少に転じているため、TSMC熊本工場の第一工場で作るものがあるのだろうかと疑問を呈している。また、「稼ぎ頭だったはずの七ナノメートル(六ナノメートル含む)はもっと悲惨だ。(中略)複数の情報筋から、TSMCの七ナノメートル(六ナノメートル含む)のラインの稼働率は五十%以下(もしかしたら三十%?)まで落ち込んでいると聞いた。つまり、世界的に七ナノメートル(六ナノメートル含む)の需要がなくなってきていると言える。そのような七ナノメートル(六ナノメートル含む)の第二工場を熊本に、七千五百~九千億円もの補助金を投入して建設するというのは、もはや、自殺行為だろう。即刻、中止すべきである。」と指摘している。このように、第一工場での需給見通しでさえ不透明にも関わらず、六/七ナノメートルの半導体は需要が減少している状態で、TSMCの第二工場に七千三百二十億円という巨額の補助金を認定した意図及び目的は何か、政府の見解を明確に示されたい。

二 最先端半導体分野への支援に関する国家戦略について

 令和五年十一月二十一日付Bloombergの記事「TSMCが熊本県に3つ目の半導体工場、3ナノ品生産も検討―関係者」によると、TSMCは、さらに第三工場を建設し、そこでは三ナノメートルを生産する計画を検討しているとされている。その場合、TSMCの第三工場は、二ナノメートルの半導体生産を目指しているラピダスとは競合関係となり、政府の半導体政策の整合性が崩れてしまうと思われるが、それでも政府がTSMCの第三工場への支援を行う可能性はあるか。政府の見解を明確に示されたい。

三 貧弱な日本の半導体産業への支援策の妥当性について

 令和三年度補正予算において、「サプライチェーン上不可欠性の高い半導体の生産設備の脱炭素化・刷新事業」に四百六十五億円の予算措置が付けられた。これは「需給の逼迫が国民生活や経済活動にもたらす影響が大きく、安定供給を確保する必要性が高い半導体(マイコン、パワー、アナログ等)を製造する設備の入替・増設等を補助する」目的で支援がなされた。対象となったのは、ルネサスエレクトロニクスやデンソー、ソニーセミコンダクタマニュファクチャリング等の企業に対し、全部で三十件、支援総額は四百六十五億円であり、一社平均約十五億円という少額である。

 令和二年末から昨年まで吹き荒れた製造業の半導体不足は、現状ではある程度沈静化してきてはいるものの、当該支援制度の目的である我が国の製造業を支える半導体の安定供給を確保するための支援策としては、この金額は甚だ貧弱で不十分である。

 前述したTSMCへの一兆二千八十億円の巨額の支援額は、日本の半導体企業に対する一社平均約十五億円の約八百倍に当たり、売国政策との誹りを免れない。

 本来であれば、日本の基幹産業である製造業を支える半導体を安定的に供給するためには、日本の半導体企業への補助金を手厚くすることが必要不可欠である。この観点を踏まえれば、現状の支援制度は、国家戦略として全く整合していないと思われる。このことについて、政府の見解を明確に示されたい。

  右質問する。