第213回国会(常会)
質問第六〇号 運輸安全委員会に関する質問主意書 右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。 令和六年三月一日 齊藤 健一郎
参議院議長 尾辻 秀久 殿 運輸安全委員会に関する質問主意書 運輸安全委員会の航空事故の調査について、以下質問する。 一 ICAO(国際民間航空機関)は、国際民間航空条約(以下「シカゴ条約」という。)第十三付属書・第五章調査・記録の開示五・十二条において、航空事故調査において専門的で独立性のある調査を行う事を奨励しているが、各国の事情や法制度によって実際の体制は異なる。 国内の航空事故調査体制については、平成二十年八月のシカゴ条約第十三付属書五・十二条に対する相違通告などにあるように運輸安全委員会(以下「当委員会」という。)が航空事故の調査を担当する。一方で、警察が主導的な役割を果たすこともある。 令和六年一月二十三日の当委員会の委員長会見で、一月二日に羽田空港で日本航空と海上保安庁の機体衝突事故に関して、記者から警察の捜査と当委員会の関係性についての見解を問われた武田展雄運輸安全委員会委員長(以下「武田委員長」という。)は、「警察の捜査と当委員会の調査は別々に行われているが、警察の捜査が、調査に影響を及ぼしていることはない」、「警察と当委員会と協定を結んでいるので支障なく調査している」旨答えた。航空専門家ではない警察が事故調査委員会に優越し、すべての証拠などを押さえて捜査を開始することは、調査の影響に及ぼすことも考えられるが、政府の見解は如何。 二 平成十六年七月三十日、名古屋地方裁判所で開かれた、日本航空七〇六便が降下中に乱高下し、乗客・乗員十三人が死傷した事故の裁判で、裁判長は、検察側が当委員会の事故調査報告書を鑑定書として申請し、裁判所が採用したことについて、シカゴ条約第十三付属書五・十二条は、懲戒、民事、行政及び刑事上の処分に不適切に利用される可能性がある情報が流布されると、将来、調査官に対し包み隠さず明らかにされるということがなくなるかもしれず、将来の事故又はインシデントの防止を目的とする航空事故調査の過程に支障を来すという理由から設けられたものである。その趣旨からすれば、航空事故調査の過程で得られた同条に掲げられている情報を、原則として航空事故調査の目的以外に使用してはならないとすることに理由があることは弁護人の主張するとおりである旨判断した。 令和六年一月二十三日の当委員会の委員長会見で、記者から当委員会の調査は責任を追及するものではないが、過去に実際の調査報告書が刑事裁判で証拠として採用されたことは確定的な事実であることについてどう思われるか問われ、武田委員長も「コメントはできないが、引き続き検討課題である」と懸念を示した。 強い影響をもつ警察の捜査権限を用いて、過去に当委員会の事故調査報告書が目的外の刑事裁判で証拠として採用されたことは、調査と捜査を混同していないか危惧されるが、政府の見解は如何。 三 諸外国で設置される事故調査委員会等の機関は、航空専門家が主体的に関与し、専門性を持って重大事故の調査・原因分析を行い、事故の再発を防ぐことを主な使命としている。そのため、政府や行政機関・法執行機関・航空会社・被害者を含む事故の当事者から独立し、さらに裁判とも分離されている点が徹底される制度設計になっている。 しかし、本国においてはその限りではない。国際化及びハブ空港の競争環境の中で、国際標準と異なる運用を行っていることで、国土交通省と外国航空会社の間で過去に路線開設交渉において影響を及ぼしたことはあるのか伺う。 右質問する。 |