第213回国会(常会)
質問第五八号 辺野古新基地建設に係る埋立てに用いる土砂等の採取に関する質問主意書 右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。 令和六年二月二十九日 大椿 ゆうこ
参議院議長 尾辻 秀久 殿 辺野古新基地建設に係る埋立てに用いる土砂等の採取に関する質問主意書 沖縄県名護市辺野古における新基地建設について、二〇二〇年に沖縄防衛局が県に提出した設計変更承認申請書に添付された「埋立てに用いる土砂等の採取場所及び採取量を記載した図書」によれば、沖縄島南部地区(糸満市・八重瀬町)から約三千百六十万立方メートルの岩ズリを調達することが可能とされている。 沖縄戦の激戦地とされた当該地域は沖縄戦跡国定公園に指定され、沖縄戦遺族にとっては霊域である。そのような場所が新たな軍事基地の建設に用いる材料の採取地にされる可能性があることについては、沖縄県内外で強い反発が広がっており、全国二百以上の地方公共団体の議会において、沖縄戦戦没者の遺骨等を含む土砂を埋立てに使用しないよう求める意見書が採択された。 「戦没者の遺骨で基地を作らせてはならない」という人道上の問題に加え、沖縄島南部から採取した岩ズリは強度が不足しており、土木技術的な観点からも埋立てや護岸新設工事に用いるべきではないとの指摘もされている。 二〇二三年十二月二十八日、国は新たな区域の埋立てに必要な設計変更を県に代わって承認する「代執行」を行った。それを受け、本年一月十日から大浦湾側埋立てに係る工事が始まった。埋立て材の調達場所がどこになるのかは、沖縄の戦跡・自然・景観の保護に大きな影響を及ぼす問題である。 辺野古新基地建設に係る埋立て材調達について、以下質問する。 一 政府は沖縄島南部からの埋立て材の調達について、設計変更承認申請書の添付図書では調達の候補地を挙げただけであり、「埋立てに使用する土砂の調達先は、工事の実施段階で決まるものであり、現時点では確定していない」旨繰り返している。しかしながら、公有水面埋立法施行規則第三条は、「埋立てに用いる土砂等の採取場所及び採取量を記載した図書」を添付することを定めており、「公有水面埋立実務便覧(全訂二版)」は同図書について、「「設計の概要」で特定した土砂等ごとに採取場所及び採取量…搬入経路が記載されていること」「土砂等を出願人が自ら採取する場合に限らず、購入する場合であっても、出願人が当該埋立ての内容を決定するにあたって想定した購入土砂等の採取場所、採取量及び埋立地への搬入経路が必要に応じて明示されていること」と書いている(二百五十七頁)。さらに同書の中では、同図書の記載例として「○○市○○町○○地区」と指定したものを掲載し(三百八十頁)、公有水面埋立の審査事項の中に「土砂等の採取場所として…すべての場所が表示されているか」を含めている(三百九十六頁)。実際、那覇空港第二滑走路増設埋立事業や岩国基地拡張埋立事業の承認申請願書では、公共残土・購入土共に採取場所が特定されていた。辺野古新基地建設に係る埋立て承認申請について、政府は具体的な採取地・採取量を確定しないまま、採取候補地と採取可能量を示すだけで足りるとの認識か。判断の根拠となる明文があれば、合わせて示されたい。 二 前記一について、採取候補地と採取可能量を示すだけで足りるとの認識であれば、政府は公有水面埋立法施行規則第三条における「採取場所」「採取量」を、それぞれ「採取候補地」「採取可能量」を指すと考えているということか。辺野古以外のあらゆる公有水面埋立事業について、「採取候補地」「採取可能量」を示せば、「埋立てに用いる土砂等の採取場所及び採取量を記載した図書」の必要事項を記載したことになると受け止めて良いか。 三 沖縄島南部の石灰岩は「白石」であり、沖縄島北部の「黒石」に比べれば吸水率が大きく、強度が劣る。これまで辺野古新基地建設に係る埋立てに「白石」が使用されたことはなく、沖縄防衛局自ら、辺野古側の埋立て工事で使用する埋立て材の条件について、最大粒径・細粒分含有率の条件を満たすことに加え、「黒石岩ズリ」であることと特記仕様書で指定してきた。「白石岩ズリ」は埋立て材として使用できないのではないか。 四 沖縄島南部地区には、沖縄戦没者の遺骨が未収容のまま残されている。そのような場所を、辺野古新基地建設の埋立て材採取候補地に含めておくことは、遺骨収容が出来る場所を破壊することになる。超党派の議員立法として国会に提出された戦没者遺骨収集推進法が二〇一六年に全会一致で可決・成立し、二〇二三年には国の集中実施期間を二〇二九年まで五年間延長する法改正がなされた。また、防衛省も意見交換会で、「御遺骨の問題は真摯に受け止める必要があると認識しており、こうしたことも踏まえながら、事業を進めてまいります」と回答している。遺骨収容が未完了の場所を、採石工事の候補地に含めておくことは、戦没者遺骨収集を国の責務とする戦没者遺骨収集推進法の精神とも、「御遺骨の問題は真摯に受け止める必要がある」との防衛省の認識とも矛盾しているのではないか。 五 防衛省は「御遺骨の問題は真摯に受け止める必要がある」との認識を踏まえて辺野古新基地建設を行うというが、同省がそのような認識を踏まえていることは、具体的にどのような判断・選択によって示されるのか。防衛省が遺骨の問題を真摯に受け止めるというのなら、業者に埋立て材採取地選定の責任を負わせるのでなく、自ら沖縄島南部の戦没者遺骨が残る状況を視察した上で南部を採取地とすることの是非を判断すべきだと考えるが、そのような予定はあるか。 六 埋立て材採取地を選定し、採取作業を行うのが業者であったとしても、当該作業中に採取地から戦没者遺骨が見つかった場合、防衛省として当該地域での採取を中止すると確約出来るか。もし出来ない場合、「遺骨が見つかったとしても、採取工事を続ける」ということになるが、それは「御遺骨の問題は真摯に受け止める」という防衛省の姿勢と矛盾しないのか。 七 沖縄北部地区の鉱山(採石場)は山を削り取っているが、南部地区はほぼ平坦な地形が続いているため、採掘跡は巨大な穴となってそのまま放置されており、沖縄戦跡国定公園の自然景観を毀損している。防衛局が提出した設計変更申請によれば、南部地区から三千百六十万立方メートルの土砂調達が可能としているが、それによりさらに多くの採掘跡の穴が生じ、ますます国定公園内の自然環境が損なわれる。既に南部地区にある採掘跡の穴、そしてこの先の土砂採取で生じる採掘跡の穴の埋め戻しの必要性について、沖縄戦跡国定公園を指定し、同時に辺野古埋立ての土砂等を採取しようとしている政府の見解を明らかにされたい。埋め戻しが必要と考えるのであれば、政府は埋め戻し用の土砂を調達し、埋め戻し工事を行うための計画を立てているか。 八 二〇一三年、当時の仲井真知事が埋立てを承認した際、県は「実施設計に基づき環境保全対策などについて詳細を検討し、県と協議を行うこと」との留意事項を付けていた。埋立て材の採取を行う主体が業者であるとしても、埋立て工事を計画・発注する防衛省として、埋立て工事に付随して発生する環境破壊に一定の責任があるはずである。沖縄戦跡国定公園の管理主体が沖縄県であることを鑑みても、政府は埋立て材採取が引き起こす環境破壊への対策について、沖縄県と事前に協議する必要があると考えるが、協議の予定はあるか。 右質問する。 |