第213回国会(常会)
質問第二一号 公の施設における表現の自由に関する質問主意書 右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。 令和六年二月六日 石垣 のりこ
参議院議長 尾辻 秀久 殿 公の施設における表現の自由に関する質問主意書 令和六年一月二十九日、群馬県立公園「群馬の森」に設置されていた朝鮮人追悼碑を群馬県は行政代執行により撤去を開始した。 この追悼碑は群馬県議会に提出された「戦時中における労務動員朝鮮人労働犠牲者の追悼碑建立に関する請願」が全会一致で趣旨採択されたことを受けて、市民団体が都市公園法第五条第一項に基づき、「群馬の森」に本件追悼碑を設置することの申請を行い、群馬県知事が「設置許可施設については、宗教的・政治的行事及び管理を行わないものとする」との条件を付した上で、本件追悼碑の設置を十年の期間を付して許可したものである。 追悼碑は平成十六年に完成し、群馬県や群馬県議会の関係者も出席し、除幕式が行われた。その後、平成二十四年まで毎年追悼碑の前で追悼式が円満に行われてきたが、追悼式の様子がインターネット上で紹介された直後から、「碑文が反日的だ」と撤去を求める苦情が群馬県に寄せられ始めた。 その後、追悼碑の撤去を求める団体が県庁に来て抗議したり、高崎駅と群馬の森で街宣活動とチラシ配布を実施するようになり、公園管理職員と小競り合いになり、警察官が駆け付ける事態にもなった。 このような事態となり、県と追悼碑を管理する市民団体(以下「管理団体」という。)との間で協議が行われ、右翼団体との衝突を回避するためとして、県担当者は次回の追悼式に関しては追悼式開催に際して県立公園の使用許可申請を提出しても不許可処分とする考えを明らかにした。そこで、管理団体は毎年恒例であった追悼碑の前ではなく、別の場所で追悼式を開催した。 管理団体は追悼碑設置から十年の期間が近づいたことから、追悼碑の期間の更新申請を行ったが、群馬県は追悼式における出席者の発言をもとに政治的行事を行わないという条件を守らなかったという理由で更新を許可しなかった。 このような経緯から群馬県が更新許可を不許可とした背景に追悼碑を反日的だと考える「そよ風」等の団体による抗議行動が大きな影響を与えていると考えられる。 近年、この追悼碑に限らず、上記の団体などによって、全国各地の同種の追悼碑に対して抗議行動が行われたり、展覧会等の展示物に抗議して公共施設の使用許可を取り消すよう求める運動が行われたりしている。 公の施設で正当な言論活動を平穏に行おうとしている人達を、その言論に敵対する者(敵意ある聴衆)が存在するので混乱するという理由でむやみに規制したり、公の施設の利用を拒んだりしてはならないという「敵意ある聴衆の理論」が米英の判例では採用されている。この理論が支持されるのは、上記のような理由で、公の施設がそれ自体は平穏な集会のための利用を拒むならば、結果的に悪意ある妨害者を利することになり、公権力が集会の自由侵害に加担することになるからである。 また、道路や公園は太古から公衆の使用のために信託され、集会、市民間の思想伝達、公的問題についての討議を目的として使用されており、道路や公的場所のそのような使用は、古代の時代から市民の特権、免除、権利、自由の一部でありつづけてきた。 一般公衆が自由に出入りできる場所は、それぞれその本来の利用目的を備えているが、それは同時に、表現のための場として役立つことが少なくない。道路、公園、広場などは、その例である。これを「パブリック・フォーラム」と呼ぶことができ、このパブリック・フォーラムが表現の場所として用いられるときには、所有権や、本来の利用目的のための管理権に基づく制約を受けざるをえないとしても、その機能に鑑み、表現の自由の保障を可能な限り配慮する必要があると考えられる。 以上を踏まえて、以下質問する。 一 道路、公園、広場など一般公衆が自由に出入りできるパブリック・フォーラムは所有権や、本来の利用目的のための管理権に基づく制約を受けざるをえないとしても、表現の自由を可能な限り配慮する必要があると考えるが政府の見解を伺う。 二 国や地方公共団体等は、正当な言論活動を平穏に行おうとしている人達が公の施設を利用することについて、その言論に敵対する者(敵意ある聴衆)が存在するので混乱するという理由で公の施設の利用を拒んではならず、表現や集会の自由を制限できるのは、公共の安全に対する明白かつ現在の危険があると客観的に予測できる場合に限るべきだと考えるが政府の見解を伺う。 右質問する。 |