質問主意書

第213回国会(常会)

質問主意書

質問第一四号

国の専決事項たる外交や安全保障を侵害する非核神戸方式に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和六年二月一日

浜田 聡


       参議院議長 尾辻 秀久 殿



   国の専決事項たる外交や安全保障を侵害する非核神戸方式に関する質問主意書

 神戸市会では昭和五十年三月十八日に「核兵器積載艦艇の神戸港入港拒否に関する決議」として「神戸港は、その入港船舶数及び取扱い貨物量からみても、世界の代表的な国際商業貿易港である。利用するものにとっては使いやすい港、働く人にとっては働きやすい港として発展しつつある神戸港は、同時に市民に親しまれる平和な港でなければならない。この港に核兵器が持ちこまれることがあるとすれば、港湾機能の阻害はもとより、市民の不安と混乱は想像に難くないものがある。よって神戸市会は核兵器を積載した艦艇の神戸港入港を一切拒否するものである。」といった文面で議決を行った。そして、神戸市当局は神戸市会の議決を尊重するといった形で、入港する外国軍艦の神戸港入港の際に非核証明書の提出を求めているというものである。

 これはいわゆる「非核神戸方式」と呼称されるが、この「非核神戸方式」については、これまでも国会で取り上げられ政府からも懸念を示されてきたところであるが、令和五年十二月一日には、非核神戸方式を運用する神戸市においても、神戸市会経済港湾委員会の質疑で取り上げられたところである。中継された神戸市会経済港湾委員会では同委員会副委員長の上畠寛弘議員より長谷川憲孝港湾局長に対して次の通り、質疑がなされている。同議員は、質疑において、産経新聞が配信するネット記事「平成三十年史 大震災の時代」中の阪神淡路大震災の際の対応において、米軍の支援の申し入れもあったこと、米国からは人員や機材の提供のほか、空母や医療船などを神戸港に入港させて被災者を救援する案も打診されたが実現しなかった。その理由として当時官房副長官を務めた石原信雄氏の「神戸市の条例で神戸港に米艦船を受け入れるには、核兵器搭載の有無を調べる必要があり、同市が難色を示した。政府が拒否したわけではない」といったコメントが掲載されていることに触れた上で、東日本大震災の際には、トモダチ作戦の名の下でいろいろな支援をしてくださり、両国の友好関係がさらに深まったと前置きし、非核神戸方式の原因となっている神戸市会がかつて議決した「核兵器積載艦艇の神戸港入港拒否に関する決議」については、神戸市会の意思という意味での決議というのは、これは法的拘束力のあるものではなく、地方自治法第九十九条に基づく意見書でもないと表明している。

 更に同議員は、平成十一年三月九日の第百四十五回国会の参議院外交・防衛委員会における非核神戸方式に関する質疑に対する高村正彦外務大臣の「国と地方公共団体とは相互に異なる次元においてそれぞれの事務を処理しており、非核三原則という国の基本政策に沿うものであるからという理由で地方公共団体が国として責任を有する外交関係の処理を妨げるようなことが許されるわけではない」、「外国軍艦の本邦寄港は、外交関係の処理につき責任を有する立場から国がその是非を判断すべきものであります。地方自治法及び港湾法に基づく地方公共団体に認められている係留場所の指定等の港湾施設の使用に関する規則は、あくまでも港湾の適正な管理及び運営を図る観点からの港湾管理者としての地位に着目してのものにとどまるわけであります。」との答弁を引用し、神戸市会経済港湾委員会における質疑において、この国の見解について認識把握しているか、把握している上で国の考えに反するものではないかという考えかと問うたところ、神戸市の長谷川憲孝港湾局長は、「私ども港湾局といたしまして、この市会での決議、これを尊重する形で、今非核の証明書の提出を求めているものでございます。そういう意味では、いわゆる法的な根拠はないのではないかという認識でございます。」と答弁し、更に同議員からの「国のこの見解というのも把握はしているか」という旨の質疑に重ねて「議員指摘の通りである」との答弁をしており、国の見解を神戸市は把握していることが判明した。その上で同議員の「非核神戸方式については行政法上の何か効果とか法的拘束力をもたらすものではないという認識か」との質疑に対し、同局長は「あくまで市会の決議を尊重して資料の提出を求めているものでございまして、法的には何の拘束力も今ないのではないかと認識している」と神戸市当局が法的には何の拘束力がないことを表明した。そして、同議員からは「日米安保条約であるとか日米地位協定というものが国と国で結んでいるところであり、それを侵害するものではあってはならないと思う。それを侵害するつもりも神戸市当局としてはないということでよろしいか」との質疑に対して同局長は明確に「その点につきましても委員が御指摘されているとおりだと認識してございます。」と答弁し、神戸市会においても令和の時代となって非核神戸方式が問題視され、非核神戸方式を運用する神戸市当局自身が明確に何ら法的拘束力のないものであるということを認識している旨明らかとなった。

 一方で苫小牧市では平成二十七年八月二十四日に苫小牧市市民参加条例第十七条第一項の規定により提出された市民政策提案書において、同市民から「外国軍艦船入港の際、核を搭載していないという「非核証明書」の提出を求める」といった政策提案が出され、提案に対する回答として、苫小牧市は「市としては、非核神戸方式の準用として、「非核証明書」の提出に代え外務省及び在札幌米国総領事館に対し文書による照会を行っており、さらなる確認を迅速に行うこととして」いるとされ、何ら法的拘束力もない神戸市の非核神戸方式が準用されるといった由々しき事態も起こっているところである。上畠寛弘議員が質疑の場でも示した通り、同盟国である米国から反米の印象を日本の自治体たる神戸市が持たれているおそれがあることは重大な懸念を持つところである。以上を踏まえて、以下質問する。

一 神戸市会で昭和五十年三月十八日に議決された「核兵器積載艦艇の神戸港入港拒否に関する決議」を尊重する形で神戸市当局が外国艦艇に対して非核証明書の提出を求めるといったいわゆる「非核神戸方式」に関する現在の日本政府の見解は如何。

二 神戸市のいわゆる「非核神戸方式」の運用は港湾法による港湾管理者としての権限を著しく超えるものであり、港湾管理者に外国軍の艦艇の入港の可否を判断し、拒絶し阻止する権限は存在し無いと考えるが日本政府の見解は如何。

三 港湾管理者である地方公共団体が、国が認めた外国軍の艦艇の入港について拒絶し阻止することは違法であると考えるが日本政府の見解は如何。

四 神戸市のいわゆる「非核神戸方式」については何ら法的拘束力を持つものではなく、現行法及び現行制度上、神戸港の港湾管理者である神戸市が、外国軍艦艇に神戸港入港に際して非核証明書の提出を義務づけること、非核証明書の提出がなされなかった場合に当該外国軍艦艇の神戸港入港を拒絶することはいずれも不可能であると解するが日本政府の見解は如何。

五 神戸市が「非核神戸方式」を運用する神戸港にはこれまでも外国軍の艦艇が入港している。令和元年には海上自衛隊阪神基地隊との親善交流のためにインドネシア海軍練習帆船が神戸港に入港したが、自民党の神戸市会議員、上畠寛弘氏によると、その際にも神戸市はインドネシア海軍に対して非核証明書を提出させているとのことである。本件の政府による認識の有無について伺いたい。

六 神戸市による「非核神戸方式」の運用以降、外国軍の艦艇が神戸港に入港するに際して日本政府は神戸市の運用によって行われている非核神戸方式が原因のトラブルの発生防止や相手国に礼を失さないようにすべきであると考える。日本政府から入港する外国艦艇の属する軍や政府に対して非核神戸方式については説明がなされているのか。

七 神戸市のいわゆる「非核神戸方式」に対して、日本政府が把握するこれまで米軍をはじめ米国政府の見解やとった行動は何か。併せてこれまで日本政府が米国政府に対して非核神戸方式について情報提供をしたことはあるのか。

八 阪神淡路大震災時に米国政府より救援の打診があったことは事実であるのか。

九 産経新聞の配信するネット記事「平成三十年史 大震災の時代」には、阪神淡路大震災時に官房副長官を務めた石原信雄氏による「神戸市の条例で神戸港に米艦船を受け入れるには、核兵器搭載の有無を調べる必要があり、同市が難色を示した。政府が拒否したわけではない」とのコメントが掲載されているが、日本政府として、阪神淡路大震災時に米軍の支援を受け入れることについて神戸市が難色を示したことは把握しているか。

十 これまで日本政府は神戸市に対していわゆる「非核神戸方式」についての懸念や国会で表明されているような見解を神戸市に対して伝えたことはあるか。併せて伝えていた場合は神戸市の反応は如何であったか。伝えていなかった場合は今後、政府としての懸念や見解を伝える予定はあるか。伝えていた場合は伝えた理由、伝えていなかった場合も伝えていなかった理由について明らかにされたい。

十一 本質問主意書が提出されたことを踏まえて神戸市に対していわゆる「非核神戸方式」についての政府の懸念や政府見解を伝えるとともに改善を求めて頂きたいと考えるが如何か。

 質問主意書については、答弁書作成にかかる官僚の負担に鑑み、国会法第七十五条第二項の規定に従い答弁を延期した上で、転送から二十一日以内の答弁となっても私としては差し支えない。

  右質問する。