質問主意書

第212回国会(臨時会)

答弁書

内閣参質二一二第九九号
  令和五年十二月二十二日
内閣総理大臣 岸田 文雄


       参議院議長 尾辻 秀久 殿

参議院議員紙智子君提出ALPS処理水の海洋放出に伴う漁業への影響並びに北海道の赤潮被害対策に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員紙智子君提出ALPS処理水の海洋放出に伴う漁業への影響並びに北海道の赤潮被害対策に関する質問に対する答弁書

一について

 御指摘の「八月二十四日に海洋放出を開始して以降」、東京電力ホールディングス株式会社(以下「東京電力」という。)において、御指摘の「ALPS処理水」の海洋への「放出」(以下「海洋放出」という。)を三回実施してきており、一回目として令和五年八月二十四日から同年九月十一日までにタンク十基に入った合計七千七百八十八立方メートルが、二回目として同年十月五日から同月二十三日までにタンク十基に入った合計七千八百十立方メートルが、三回目として同年十一月二日から同月二十日までにタンク十基に入った合計七千七百五十三立方メートルが、それぞれ放出されたところであると承知している。

二について

 お尋ねについては、「「東京電力ホールディングス株式会社福島第一原子力発電所における多核種除去設備等処理水の処分に関する基本方針」の実行と今後の取組について」(令和五年八月二十二日廃炉・汚染水・処理水対策関係閣僚等会議・ALPS処理水の処分に関する基本方針の着実な実行に向けた関係閣僚等会議決定)において、政府は「ALPS処理水の処分に伴う風評影響の懸念やなりわい継続に対する不安に対処するべく、今後、(中略)これらの対応に政府としてALPS処理水の処分が完了するまで全責任を持って取り組んでいく」こととしていることを踏まえて、引き続き、責任をもって必要な対策に取り組む考えである。

三について

 御指摘の「直接説明した」の具体的に意味するところ及び御指摘の「漁業協働組合や経済団体等」の具体的な範囲が必ずしも明らかではないが、東京電力が海洋放出を開始した令和五年八月二十四日以降、例えば、岸田内閣総理大臣又は西村経済産業大臣(当時)は、全国漁業協同組合連合会、北海道をはじめとする地域の漁業協同組合、日本経済団体連合会、日本商工会議所等と面会し、海洋放出に伴う水産物の消費拡大等に向けた取組等について意見交換を行ってきているところである。

四の1及び2について

 令和五年度予算予備費で措置された御指摘の「ALPS処理水関連の輸入規制強化を踏まえた水産業の特定国・地域依存を分散するための緊急支援事業」のうち、新規需要開拓等事業については、令和五年十二月二十日時点で、採択した件数は一件であり、交付決定した額は約百一億円である。代替販路開拓事業費補助金による補助事業については、同日時点で、採択した件数は一件であり、交付決定した額は約五十億円である。国内加工体制の強化対策事業については、同日時点で、採択した件数は一件であり、交付決定した額は約五十一億円である。

四の3について

 お尋ねの「支援策」としては、海洋放出に伴う風評影響を受けていると認められる水産物について、政府において、学校給食や子ども食堂等へ提供する取組に対する補助事業を実施するとともに、各都道府県教育委員会等に対し、当該補助事業も活用しつつ、学校の状況や地域の実情に応じて、学校給食における国産水産物の活用に取り組むよう周知しているところである。お尋ねの「利用状況」の具体的に意味するところが必ずしも明らかではないが、学校給食等におけるホタテ等の国産水産物の利用量については、網羅的に把握しているものではなく確定的にお答えすることは困難であり、また、当該補助事業の実施状況については、令和五年十二月二十日時点で、当該水産物を学校給食等へ提供する事業が十二件実施されているところである。

四の4について

 お尋ねについては、政府として、これまで、農林水産省、経済産業省、復興庁及び外務省が令和五年九月に取りまとめた「「水産業を守る」政策パッケージ」に基づき、漁業者団体等によるホタテ等の輸出の減少が顕著な品目についての海外を含む新たな需要の開拓等への支援を既に実施しているところであり、また、令和五年度補正予算においても、例えば、国内販路拡大等支援事業について漁業者団体等による水産物の販路拡大のための取組への支援に係る経費を措置し、既に当該支援の対象となる事業者を決定したところであるなど、迅速な対応を行ってきていると考えており、引き続き、全国の水産業支援に万全を期してまいりたい。

四の5について

 御指摘の「仲買人などの流通業者」の具体的な範囲が必ずしも明らかではないが、水産物の卸売業者や仲卸業者(以下「卸売業者等」という。)に対する支援策については、例えば、卸売市場における倉庫、冷蔵庫等の整備に必要な資金に係る支援として、株式会社日本政策金融公庫による食品流通改善資金の利用が可能であるほか、福島県内の消費地の卸売市場において同県産の水産物の消費拡大に取り組む同県内の卸売業者等に対し、令和五年度復興会計特別予算における福島県産水産物消費拡大事業により販売促進に係る経費を支援しているところであり、また、卸売業者等が生産者、販売事業者等と連携して生産性の改善等を行う取組に対し、令和五年度一般会計予算におけるバリューチェーン改善促進事業によりその経費を支援しているところである。

四の6について

 お尋ねの「賠償方針」については、東京電力において、「東京電力ホールディングス株式会社福島第一原子力発電所における多核種除去設備等処理水の処分に関する基本方針」(令和三年四月十三日廃炉・汚染水・処理水対策関係閣僚等会議決定)における「画一的に賠償期間や地域、業種を限定することなく、被害の実態に見合った必要十分な賠償を迅速かつ適切に実施」との方針に基づき、東京電力が令和四年十二月二十三日に取りまとめた「福島第一原子力発電所における多核種除去設備等処理水の放出に伴い風評被害が発生した場合の賠償基準について」等に沿って、漁業者等の個別の事情を伺いながら当該賠償を行っているものと承知している。また、お尋ねの「相談件数」については、東京電力に寄せられる相談の内容等が様々であることから、一概にお答えすることは困難である。

五について

 お尋ねの「被害総額」の具体的な範囲が必ずしも明らかでないが、北海道庁が令和五年二月十六日に公表した「令和三年九月に北海道太平洋沿岸で発生した赤潮による被害の状況について」においては、「数量は、赤潮発生後一箇年が経過した二千二十二年九月末までの漁獲状況等から推定」、「金額は、数量に被害前五箇年の平均単価を乗じて推定。ただし、赤潮発生後に一部魚種に顕著な単価の増減が見られたため当該部分について補正」、「「うに」については、再生産までの知見を踏まえ四年間の被害を推定」、「「たこ」「つぶ類」「その他」について、複数年の影響が見込まれるが、漁場が沖合で被害状況の全容把握が困難なこと、隣接海域を越える移動や今後の資源動向に不明な点も多いことから、現時点(発生後一年)で把握した一年分の被害を推定」及び「次年度以降、必要に応じ更新」とした上で、令和四年九月末時点における被害額の合計は九十億七千百万円とされており、そのうち、「うに」にあっては六十九億三千三百万円、「さけ」にあっては七千四百万円、「たこ」にあっては七億二百万円、「つぶ類」にあっては十二億四千百万円、「その他」にあっては一億二千百万円とされているものと承知している。

 お尋ねの「赤潮発生メカニズム」については、政府として、これを解明するため、令和三年度補正予算、令和四年度第二次補正予算及び令和五年度補正予算に計上している北海道赤潮対策緊急支援事業において、北海道庁等と連携して、赤潮の発生に影響する海洋環境に関する情報の収集及び分析に取り組んでいるところであり、現時点において確たることをお答えすることは困難である。

 政府としては、同事業において、お尋ねの「継続的な海底環境の調査」については、漁業者等が漁場の環境を把握するために海中で行う調査に対する支援を、お尋ねの「今後の発生予防対策」については、北海道庁等と連携して、赤潮による漁業被害を防止するために赤潮の発生を予測する手法の開発並びに当該発生のモニタリングに係る技術の開発及び移転を、それぞれ行っているところである。