質問主意書

第212回国会(臨時会)

答弁書

内閣参質二一二第八五号
  令和五年十二月二十二日
内閣総理大臣 岸田 文雄


       参議院議長 尾辻 秀久 殿

参議院議員神谷宗幣君提出精神医療における本人の同意に基づかない入院の在り方等に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員神谷宗幣君提出精神医療における本人の同意に基づかない入院の在り方等に関する質問に対する答弁書

一について

 お尋ねについては、精神科医療の提供体制等は国により異なることから、日本と諸外国の取組を単純に比較することは困難であり、一概にお答えすることは困難である。

二について

 お尋ねの趣旨が必ずしも明らかではないが、一般に、精神科病院の経営の在り方については、各精神科病院において検討されるものと考えている。

 また、現時点ではお尋ねの「その経営転換」に係る「財政的助成措置」はない。

三について

 御指摘の「家族等」と精神障害者との関係については様々な状況があることから、御指摘の「同意権者」について一律に「優先順位を設けること」は考えていないが、「医療保護入院における家族等の同意に関する運用について」(平成二十六年一月二十四日付け障精発〇一二四第一号厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部精神・障害保健課長通知)により、都道府県及び指定都市(以下「都道府県等」という。)を通じて精神科病院に対して、「医療保護入院においては、その診察の際に付き添う家族等が、通例、当該精神障害者を身近で支える家族等であると考えられることから、精神科病院の管理者・・・は、原則として、診察の際に患者に付き添う家族等に対して入院医療の必要性等について十分な説明を行い、当該家族等から同意を得ることが適当である」と示しているところである。

 なお、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(昭和二十五年法律第百二十三号。以下「精神保健福祉法」という。)第五条第二項ただし書の規定により、精神障害者に対して訴訟をしている者や身体に対する暴力を行った者等については、同項に規定する家族等から除かれているところである。

四について

 お尋ねの「どのようなインフォームドコンセントがなされているか」について、個々の精神科病院における状況は把握していないが、政府としては、良質かつ適切な精神障害者に対する医療の提供を確保するための指針(平成二十六年厚生労働省告示第六十五号)において、「精神医療においても、インフォームドコンセント(医師等が医療を提供するに当たり適切な説明を行い、患者が理解し同意することをいう。・・・)の理念に基づき、精神障害者本位の医療を実現していくことが重要であり、精神障害者に対する適切な医療及び保護の確保の観点から、精神障害者本人の同意なく入院が行われる場合においても、精神障害者の人権に最大限配慮した医療を提供すること」等を基本的な考え方として定め、都道府県等を通じて精神科病院に対して示しているところである。

五について

 お尋ねの「役割の増大が明らかである要員の増員等の施策」の意味するところが必ずしも明らかではないが、例えば、精神保健福祉士は、精神保健福祉士法(平成九年法律第百三十一号)第二条の規定により、精神障害者の保健及び福祉に関する専門的知識及び技術をもって、精神科病院等において精神障害の医療等を受けている者の相談援助を行うことを業としており、精神科病院に入院する者の早期の地域生活への移行に向けた取組の推進を図る上で重要な役割を担っているものと考えている。このため、令和元年に精神障害者の保健及び福祉に関する専門的知見を有する有識者等から構成される「精神保健福祉士の養成の在り方等に関する検討会」で議論を行い、精神障害者の状況に応じ、より的確に相談援助を行うことができる人材を育成するため、精神保健福祉士の養成カリキュラムの充実等の取組を行っているところであり、今後とも、必要な取組を進めてまいりたい。

六について

 御指摘の「精神障害者の地域生活への移行を促進するため、精神疾患と精神障害者に対する地域社会、国民の間での正しい理解の促進が必要である」という課題について、政府としては、例えば、令和三年度から、「心のサポーター養成事業」において、メンタルヘルスや精神疾患への正しい知識と理解を持ち、地域や職域でメンタルヘルスの問題を抱える者及びその家族等に対して可能な範囲で支援する者を「心のサポーター」として養成するための研修等を実施しており、今後、「心のサポーター」の認知度を向上させ普及を図ることが重要であると考えている。

 このほか、ホームページでの周知や啓発イベントなどの取組を通じて、精神障害に関する正しい知識を普及させるとともに、国民一人一人の理解が深まるよう、引き続き必要な取組を進めてまいりたい。

七について

 御指摘の「国際的な機関も含めた人権関連団体から我が国に対し、本人の同意に基づかない入院を廃止すべきとの勧告等」の具体的に意味するところが必ずしも明らかではないが、「本人の同意に基づかない入院」については、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律等の一部を改正する法律(令和四年法律第百四号。以下「令和四年改正法」という。)附則第三条において、「政府は、精神保健福祉法の規定による本人の同意がない場合の入院の制度の在り方等に関し、精神疾患の特性及び精神障害者の実情等を勘案するとともに、障害者の権利に関する条約の実施について精神障害者等の意見を聴きつつ、必要な措置を講ずることについて検討するものとする」とされており、これに基づいて検討してまいりたい。

八について

 お尋ねについては、精神科医療の提供体制等は国により異なることから、御指摘の「判決の内容」について単純に評価することは困難であり、一概にお答えすることは困難である。

九について

 御指摘の「精神保健福祉法案衆議院附帯決議」においては、「代弁者制度の導入など実効性のある支援策について早急に検討を行い、精神障害者の権利擁護の推進を図ること」とされており、当該支援策の在り方について検討するため、平成二十六年度障害者総合福祉推進事業「入院中の精神障害者の意思決定及び意思の表明に関するモデル事業」を実施したところ、同事業等により蓄積されたノウハウ等も踏まえ、精神障害者の保健及び福祉に関する専門的知見を有する有識者等から構成される「地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会」で令和四年六月九日に取りまとめられた報告書において、「非自発的入院による患者・・・は、閉鎖処遇に置かれており、外部との面会交流が難しくなる。家族からの音信がない市町村長同意による医療保護入院者については、医療機関外の者との面会交流が、特に途絶えやすくなる。(中略)市町村長同意による医療保護入院者を中心に、精神科病院の理解のもと、精神科病院に入院する患者を訪問し、相談に応じることで、医療機関外の者との面会交流を確保することが必要となる」とされたところである。これを踏まえて検討が行われ、令和四年改正法による改正後の精神保健福祉法第三十五条の二第一項に規定する入院者訪問支援事業が創設され、同項に規定する入院者訪問支援員が入院中の精神障害者本人の希望により精神科病院を訪問し、本人の話を丁寧に聴くとともに、必要な情報提供等を行うものとされたところであり、同事業を適切に実施しながら、引き続き入院中の精神障害者の権利擁護を図ってまいりたい。

十について

 お尋ねについては、日本と諸外国における精神科医療の提供体制等は異なることから、御指摘の「司法審査」を日本に導入することについては慎重に検討すべきものと考えているが、必要に応じて情報の収集に努めてまいりたい。

十一について

 お尋ねの「国籍別人数及び過去五年間の推移」については、把握していない。