質問主意書

第212回国会(臨時会)

答弁書

内閣参質二一二第六四号
  令和五年十二月五日
内閣総理大臣 岸田 文雄


       参議院議長 尾辻 秀久 殿

参議院議員神谷宗幣君提出洋上風力発電に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員神谷宗幣君提出洋上風力発電に関する質問に対する答弁書

一について

 お尋ねについては、従来から、例えば、防衛省のウェブサイト等を通じて、風力発電事業がレーダーに与える影響等について積極的な情報発信を行うとともに、当該事業を行おうとする事業者に対して当該事業に係る計画策定の初期段階において同省に相談をするよう依頼し、当該影響等についての確認を行っているところであるが、「国家安全保障戦略」(令和四年十二月十六日閣議決定)において「民間施設等によって自衛隊の施設や活動に否定的な影響が及ばないようにするための措置をとる」とし、また、「国家防衛戦略」(令和四年十二月十六日閣議決定)において「防衛関連施設の機能を十全に発揮できるよう、風力発電施設の設置等の社会経済活動との調和を図る効果的な仕組みを確立する」としたことを踏まえ、引き続き必要な検討を進めていく考えである。

二について

 我が国における洋上風力発電の促進については、「洋上風力産業ビジョン(第一次)」(令和二年十二月十五日洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会策定)において「国内にサプライチェーンを新たに形成するためには、まずは国内外からの投資の呼び込みが必要である。産業界からは、投資判断のためには、市場規模の見通しが必要との意見があった。そのため、政府として導入目標を明示するとともに、「絵に描いた餅」とならないよう、その実現に向けた取組を進める」とし、また、「脱炭素成長型経済構造移行推進戦略」(令和五年七月二十八日閣議決定)において「風車や関連部品、浮体基礎など洋上風力関連産業における大規模かつ強靱なサプライチェーン形成を進める」としており、こうした考え方を踏まえ、必要な取組を進めてきており、経済産業省の令和六年度概算要求において、浮体式洋上風力発電に係る設備投資の支援を含むGXサプライチェーン構築支援事業に要する経費を計上したところである。

三について

 海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律(平成三十年法律第八十九号。以下「再エネ海域利用法」という。)第二十三条第二項においては、非常災害が発生し、船舶の交通に支障が生じている場合において、緊急輸送の用に供する船舶の交通を確保するためやむを得ない必要があるときに、国土交通大臣が、促進区域内海域(再エネ海域利用法第十条第一項に規定する促進区域内海域をいう。以下同じ。)において海洋再生可能エネルギー発電設備又は船舶、船舶用品その他の物件を使用し、収用し、又は処分した場合に生じた損失について、損失を受けた者に対する補償を行うこととされているものの、再エネ海域利用法において、御指摘の「被害補償」についての規定は存在しないところ、海洋再生可能エネルギー発電事業により、御指摘の「施設周辺住民」に具体的な損害が発生した場合には、個別の状況に応じて民法(明治二十九年法律第八十九号)等に基づき適切な対応がなされるものと認識している。

 なお、海洋再生可能エネルギー発電事業に係る公共の安全又は環境の保全の確保の観点から、例えば、再エネ海域利用法第十五条第三項の規定に基づき選定された選定事業者(以下「選定事業者」という。)については、電気事業法(昭和三十九年法律第百七十号)において、選定事業者が設置する洋上風力発電設備などの事業用電気工作物(同法第三十八条第二項に規定する事業用電気工作物をいう。以下同じ。)が、人体に危害を及ぼし、又は物件に損傷を与えないようにすること等の観点から、経済産業大臣が定めた技術基準に適合するように当該事業用電気工作物を維持することが求められており、また、環境影響評価法(平成九年法律第八十一号)及び電気事業法において、当該事業の実施が環境に及ぼす影響について調査、予測及び評価を行うとともに、当該事業に係る環境保全措置を検討し、その過程において、環境への負荷をできる限り回避し、又は低減すること等に努めなければならないとされている。

四について

 お尋ねの「強風や落雷など自然災害を原因とする事故リスクに対する危機管理方法」については、海洋再生可能エネルギー発電事業を行う事業者に対しては、洋上風力発電設備などの事業用電気工作物について、電気事業法第三十九条の規定に基づき、強風や落雷など自然災害によるものを含め、人体に危害を及ぼし、又は物件に損傷を与えないようにすること等の観点から経済産業大臣が定めた技術基準に適合するように維持すること、同法第四十二条の規定に基づき、事業用電気工作物の工事、維持及び運用に関する保安を確保するため、災害その他非常の場合に採るべき措置に関する事項を含む保安規程を定め、国に対して届け出た上でこれを守ること等が義務付けられている。

 また、御指摘の「事業者は明示すべきである」の具体的に意味するところが必ずしも明らかではないが、御指摘の「新たな産業廃棄物の発生を防ぎつつ適切な処分を行う」ことを含め、御指摘の「洋上風力発電事業の終了もしくは中断に伴う発電設備の撤去」については、再エネ海域利用法第十三条第一項の規定に基づき経済産業大臣及び国土交通大臣が定めることとされている公募の実施及び海洋再生可能エネルギー発電設備の整備のための促進区域内海域の占用に関する指針において、促進区域内海域の占用の期間が満了した場合その他の事由により促進区域内海域の占用をしないこととなった場合における当該海洋再生可能エネルギー発電設備の撤去に関する事項を定めることとされており、例えば、「秋田県能代市、三種町及び男鹿市沖海洋再生可能エネルギー発電設備整備促進区域公募占用指針」(令和二年十一月二十七日経済産業大臣及び国土交通大臣公示)において、「選定事業者は促進区域内海域の占用をしないこととなった場合、海洋再生可能エネルギー発電設備の撤去を行う義務を負う」ものとして、「撤去に当たっては、占用許可期間の終了後又は公募占用計画の提出者が経営破綻した場合に備え・・・撤去費用の確保等に関する方法を公募占用計画に示すこと」と規定しているところである。

五について

 御指摘の「予想され得る周辺地域への健康被害や景観への影響、落雷事故による二次被害などのリスクを、欧州等で確保される離岸距離相当に回避できる」の具体的に意味するところが必ずしも明らかではないが、経済産業大臣及び国土交通大臣が、再エネ海域利用法第八条第一項に規定する海洋再生可能エネルギー発電設備整備促進区域(以下「促進区域」という。)を指定する際には、促進区域の範囲が御指摘の「離岸距離」によって必ずしも制限されるものではないが、御指摘の「山形県遊佐町沖の洋上風力発電事業の想定海域」を含め、促進区域において実施される海洋再生可能エネルギー発電事業による周辺住民及び環境への影響については、御指摘の「離岸距離」のみではなく、当該事業を行う選定事業者の具体的な事業計画の内容を踏まえて、当該選定事業者において、その評価及び対策が検討されるべきものと考えている。

 なお、当該選定事業者に対しては、例えば、電気事業法に基づき、人体に危害を及ぼし、又は物件に損傷を与えないようにすること等の観点から経済産業大臣が定めた技術基準に適合するように設備を維持すること、環境影響評価法及び電気事業法に基づき、当該事業の実施が環境に及ぼす影響について調査、予測及び評価を行うとともに、当該事業に係る環境保全措置を検討し、その過程において、環境への負荷をできる限り回避し、又は低減すること等に努めることが求められている。

六について

 御指摘の「前項の山形県遊佐町沖の洋上風力発電事業の計画」及び「「住民同意を得た」と結論づけること」の意味するところが必ずしも明らかではないが、再エネ海域利用法第八条第一項の規定に基づき、経済産業大臣及び国土交通大臣が行った山形県遊佐町沖の促進区域の指定については、再エネ海域利用法第九条第一項の規定に基づき経済産業大臣、国土交通大臣及び山形県知事により組織された協議会が令和五年三月二十九日に作成した「山形県遊佐町沖における協議会意見とりまとめ」において山形県遊佐町沖の区域を「着床式洋上風力発電に係る促進区域として指定することに異存はない」とされたことを踏まえたものである。

 その上で、再エネ海域利用法第八条第四項の規定に基づき利害関係者から経済産業大臣及び国土交通大臣に提出された山形県遊佐町沖の促進区域の指定の案に対する意見書への回答において示したように、「法律に特別の定めがない場合において、地域の中でどのように意見集約や意思決定を行うのかは、地方自治の観点から、その地方公共団体の運営に委ねられるものと考えられ」るため、「協議会や促進区域指定に係る一連の対応も同様に、国としては、協議会構成員である都道府県知事及び市町村長の意思決定に係る判断が尊重されるべきものと」考えているところ、同協議会については、その構成員に再エネ海域利用法第九条第二項第一号に規定する関係都道府県知事及び同項第二号に規定する関係市町村長が含まれること並びに当該回答で言及したとおり山形県が「地域住民の皆様からも御意見をいただくために、遊佐町と一緒になって平成三十年度以降、町内六地区で開催している住民説明会や区長会研修会等で二十九回にわたり説明や意見交換」を実施したと承知していることから、政府として、同協議会とのやりとり等を通じて、当該促進区域の指定に当たって、丁寧に住民の意見の聴取を進めたものと考えている。

七について

 再エネ海域利用法の制度の運用については、政府において、その達成状況等を踏まえて不断の見直しを行いながら進めているが、今般のロシアによるウクライナ侵略を踏まえ、エネルギー安全保障の観点から、重要な脱炭素の国産エネルギー源である再生可能エネルギーの導入を更に加速することが急務となったことから、再エネ海域利用法第十四条第二項第九号に規定する供給価格だけでなく、同項第三号に規定する海洋再生可能エネルギー発電事業の実施時期に係る当該事業の開始の早さの点においても、選定事業者となろうとする者の間の競争を促す仕組みとすべく、再エネ海域利用法第十三条第二項第十五号に規定する評価の基準等についての詳細を定めた「一般海域における占用公募制度の運用指針」(令和元年六月経済産業省資源エネルギー庁及び国土交通省港湾局策定。以下「運用指針」という。)を改訂するための議論を開始することとしたものである。

 また、令和三年十二月十日に公募を開始した秋田県八峰町及び能代市沖においては、その運用指針の改訂を踏まえた公募とすべく、その締切りを延長し、令和四年夏以降に新たに指定する促進区域と併せて公募を実施することとしたものであるが、運用指針については、外部有識者を含む、経済産業省及び国土交通省の審議会で議論を行い、パブリックコメントを経た上で令和四年十月に改訂したものであり、「不適切であったのではないか」との御指摘は当たらない。