質問主意書

第212回国会(臨時会)

質問主意書

質問第一二三号

薬価改定を含む医薬品の諸問題に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和五年十二月十三日

小西 洋之


       参議院議長 尾辻 秀久 殿



   薬価改定を含む医薬品の諸問題に関する質問主意書

 私は、令和四年に「毎年薬価改定の見直しに関する質問主意書」(第二百八回国会質問第四四号)及び「薬価の中間年改定の在り方等に関する質問主意書」(第二百十回国会質問第八〇号)を提出し、薬価改定による薬価の頻繁な引下げが創薬によるイノベーションを阻害する可能性があること、後発医薬品に対する過度な薬価の引下げが後発医薬品企業の製造・供給能力を阻害していること、薬価という公定価格制度の下で多くの後発医薬品企業が昨今の物価高騰に対応する体力がないことなど、現行の薬価制度が引き起こしている諸問題について指摘してきた。

 これと同様に、厚生労働省の「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」(以下「有識者検討会」という。)も、令和五年六月に公表した報告書において、薬価の下落が後発品企業の経営を圧迫し、新規収載品の上市による更なる少量多品目生産や安定供給に資する生産設備等への投資を困難にさせることにつながっていると指摘されていること、企業経営に影響を与える薬価引下げや薬価制度の予見可能性等が外資系企業の日本市場への医薬品上市の敬遠につながっていることが指摘されていること、企業経営に大きな影響を与えるような薬価制度改革が頻回に行われると不確実性が増大し、当初計画していた投資コスト回収が困難となるリスクが高くなることなどを挙げている。

 しかしながら、その後、解熱鎮痛薬、鎮咳薬、去痰薬等の不足が顕在化し、国民生活に具体の支障が生じるに至っている。日本製薬団体連合会の調査によれば、令和五年十月時点で、全医薬品の約二十四パーセント、三千九百七十品目が限定出荷又は供給停止となっているなど深刻な状況となっている。厚生労働省は、令和五年十月及び十一月に、製薬企業に対して医薬品の増産を要請しているが、このような一時しのぎの状態を繰り返してはならない。

 令和六年度は、診療報酬改定、介護報酬改定、障害福祉サービス等報酬改定が重なる、いわゆる「トリプル改定」が行われる年である。加えて政府は、検討中の「こども未来戦略」案において、「次元の異なる少子化対策の実現」のための財源を、「二〇二八年度までに徹底した歳出改革等を行い、それによって得られる公費節減の効果及び社会保険負担軽減の効果を活用」すること等によって、三兆六千億円程度確保する方針を示している。

 近年、社会保障関係費の伸びを抑制するための主な財源を薬価改定による薬価引下げに求めることが常態化しており、薬価はいわば財源確保のための草刈り場と化している。しかし、薬価差は、未曽有の原材料価格の高騰等により年々縮小しており、中央社会保険医療協議会において示された調査結果によれば、薬価調査による令和五年度の平均乖離率は令和三年度と比較して一・六パーセントポイント低下している。こうした中、これまでの方法を続ければ、国民に適切な医療を届けるために必要な、我が国における創薬イノベーションの確保や医薬品の品質管理及び安定供給に更なる問題を生じさせ、取り返しのつかない事態になりかねない。また、薬価引下げは医薬品産業における人材育成にも影響を及ぼすほか、岸田政権の方針である賃上げの実現とも矛盾しかねない。医薬・医療機器・医薬品卸・OTC・化粧品関連労働組合政策推進協同協議会(ヘルスケア産業プラットフォーム)が令和五年八月から九月にかけて実施した調査によれば、医薬品卸で働く組合員のうち、退職を考えたことがあると回答した割合は全体で五割を超え、三十歳代以下では約七割に上っており、退職を検討した理由としては、医薬品卸の将来に不安を感じたからが最も多く、次いで給与、賞与等の労働条件に不満があるからとなっている。

 以上の問題認識を踏まえ、以下質問する。

一 医薬品の不足が生じている現状及びその原因について、政府の見解を示されたい。

二 政府は、毎年の薬価の引下げが医薬品の安定的な供給を阻害する要因の一つであると認識しているか。

三 政府は、令和五年十一月に閣議決定した「デフレ完全脱却のための総合経済対策」(以下「総合経済対策」という。)において、二〇二四年度薬価改定において、医薬品の安定的な供給確保に向けた薬価上の措置を検討するとしているが、具体的にどのような検討を行っているか。

四 有識者検討会は、令和五年六月に公表した報告書において、「毎年薬価改定については、そもそも特許期間中に薬価改定が行われ、価格が引き下がることが、日本市場の魅力を引き下げている一因だと指摘されていることや、後発品の価格の下落と採算性の低下の加速により、医薬品の供給不足をさらに助長するおそれがあることを踏まえ、その在り方を検討すべきではないか」と指摘しているが、これを受け、政府として、毎年薬価改定の在り方をどのように検討し、いつ結論を得ようとしているのか。また、令和六年度の診療報酬改定に、当該検討結果を反映させるのか。

五 毎年の薬価の引下げが、製薬企業や医薬品卸等の医薬品産業における賃上げを妨げ、人材流出を招いているとの声が上がっているが、医薬品産業における賃金の状況及び人材流出の状況についての政府の認識を示されたい。また、毎年の薬価の引下げが、医薬品産業における人材育成や賃上げに及ぼす影響について、政府の見解を示されたい。

六 政府は、総合経済対策において、医療・介護・障害福祉分野における人材確保に向けて賃上げに必要な財政措置を早急に講ずるとするとともに、令和五年度補正予算に、医療・介護・障害福祉分野の職員に対する処遇改善に向けた支援のための費用を計上しているが、医療分野の一員である医薬品産業における賃上げの必要性についてはどのように考えているか。

七 薬価を含む医薬品に関する問題の担当部署は、厚生労働省において、医薬産業の振興、医薬品等の生産、流通及び消費の増進等を所掌する医政局、医薬品等の品質、有効性及び安全性の確保等を所掌する医薬局、医療保険制度等を所掌する保険局に分かれており、これらの各局がそれぞれ、検討会等を開催して薬価改定を含む医薬品に関する諸問題について検討している。また、財政の観点から、財務省が財政制度等審議会財政制度分科会等において薬価等についても指摘しているほか、内閣府も、経済財政諮問会議における経済財政運営と改革の基本方針案の議論等を通じて薬価等の問題に関与している。このように、政府内の各部署が医薬品の問題にそれぞれ別個に対応していることが医薬品に関する諸問題を招来している一因ではないか。

八 政府として、今後、薬価を含む医薬品に関する施策を整合的に形成するための対応があれば示されたい。

  右質問する。