質問主意書

第212回国会(臨時会)

質問主意書

質問第一二一号

商品先物業者ないし金融商品取引業者を所管する監督官庁の役割に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和五年十二月十三日

川田 龍平


       参議院議長 尾辻 秀久 殿



   商品先物業者ないし金融商品取引業者を所管する監督官庁の役割に関する質問主意書

 「金融経済教育推進機構」が金融リテラシーの向上のために創設されたが、あくまでも消費者投資家に対する自己責任が基調になっている。他方で、顧客と事業者では、情報において大きな格差がある。

 金融庁、経産省は公務として、業者の顧客の利益を顧みない自己本位な事業活動から国民の利益が損なわれないよう守る責務があると考える。

 特に、政府は「貯蓄から投資へ」の名のもとに国民の資産所得倍増計画の一環として、国民の原預貯金をNISAの投資に誘導し、海外資産運用会社に運用させようとしている。しかし、外資系法人には、日本法を無視した事業活動を行い、顧客に不利益を課している事例も多いと聞く。また、外資系法人の場合、日本で得た利益を巧妙に海外に移転し、日本での課税を免れている事例が多数あると聞いている。

 そこで、外資系金融資産運用法人に対する監督行政について、質問をする。

一 商品先物業者ないし金融商品取引業者の監督官庁である主務省の役割について

1 令和五年五月十九日付の「令和五年度商品先物検査基本方針及び検査基本計画」において、「主務省の基本的使命は市場の公正性・透明性の確保及び委託者等の保護」と記載されているが、これが商品先物取引法(以下「商先法」という。)の主務省である経済産業省の基本的使命と考えてよいか。

2 金融商品取引法(以下「金商法」という。)の主務官庁である金融庁については、異なるか。

二 外資系日本法人の内部管理ないし内部監査体制について

 令和元年八月の「商品先物取引業者等の監督の基本的な指針」のⅡ―1―1「経営管理」では、会社の機関ないし部門が以下述べるような役割を果たしているかを検証するとされる。すなわち(2)の「取締役・取締役会」の⑦では、「取締役会は、内部監査の重要性を認識し、内部監査の目的を適切に設定するとともに、内部監査部門の機能が十分発揮できるよう構築(内部監査部門の独立性の確保を含む。)し、定期的又は随時にその機能状況を確認しているか。」を問うている。また(4)の「内部監査部門」については「内部監査は、商品先物取引業者の経営目標の実現に寄与することを目的として、被監査部門から独立した立場で、業務執行状況や内部管理・内部統制の適切性、有効性、合理性等を検証・評価し、これに基づいて経営陣に対して助言・勧告等を行うものであり、商品先物取引業者の自律的な企業運営を確保していく上で、最も重要な企業活動の一つである。」として、これを前提に①では「内部監査部門は、被監査部門に対して十分な牽制機能が働くよう被監査部門から独立し、かつ実効性ある内部監査が実施できる体制となっているか。」を問うている。この内部監査については、商先法百九十条、百九十二条の商品先物取引業の許可申請に当たり提出を求められる商品先物取引法施行規則(以下「商先法規則」という。)様式第三号の「内部管理に関する組織の概要」には内部管理に関する業務を行う組織の概要の記載が求められている。

 そこで、外国資本の百%子会社である日本法人が、商品先物取引法の商品先物取引業者としての許可を受けている場合、日本法人の取締役会ないし内部監査部門は、たとえ外国資本から指示を受けたとしても、日本法に従った顧客保護の使命を果たすべきだと考えるか、どうか。

三 経産省、金融庁ともに、店頭デリバティブ取引により、買いポジションの決済取引が成立して金銭債務権の履行が残ることになった後に、その決済取引を拒否して金銭債務権を支払われなかった事例を承知しているか。承知しているとすれば、その内容を明らかにされたい。

四 契約締結前交付書面と約款との関係について

 商先法二百十七条は、商品先物取引業者が、顧客と商品取引契約を締結するときは、顧客に一定事項を記載した契約締結前交付書面の交付を義務付けており、商先法規則百四条には、その記載事項が記載されている。

1 商先法施行規則百四条一項五号には「当該商品取引契約の概要」を記載することが規定されているが、顧客と商品先物取引業者の合意が約款で行われている場合、ここでいう「当該商品取引契約」とは約款と考えてよいか。

 そうだとした場合、約款は、「概要」でよいとされているのに対し、同条四号では「契約締結前交付書面の内容を十分に読むべき旨」が記載されていることを考えると商先法上は、約款よりも契約締結前交付書面を重視していると考えてよいか。

2 商先法施行規則百四条が定める契約締結前交付書面の記載事項の中に、買いポジションの決済取引成立後、その取引を否定することができることを前提とする内容があるか。

3 もし、否定できる内容がない場合に、決済取引成立後、金銭債務の履行を拒絶できるとするのは契約締結前交付書面の顧客保護の趣旨からして、困難ではないか。また、決済取引成立後、その決済取引を否定して当初の買いポジションとは別の内容の買いポジションを商品先物業者が建てることも、同様な問題があるのではないか。

4 商先法百九十二条二項に定める許可申請の添付書類として、主務省令と定める書類として、商先法施行規則八十条には、契約締結前交付書面はあるが、商品先物契約(約款)が含まれていない。申請書類として約款を求める指針等の内規があるか。あるとすれば、これを提出されたい。

 内規がないとすれば、約款を商先法施行規則で添付書類とする予定はないのか。

五 商先法違反行為について

 商先法二百十四条は、「商品先物取引業者は、次に掲げる行為をしてはならない」とし、同条十号は、「前各号に掲げるもののほか、委託者等の保護に欠け、又は取引の公正を害するものとして主務省令で定める行為」を規定しており、これを受けて商先法規則百三条はその内容を規定している。

1 同条一項一号は「委託者等の指示を遵守することその他の商品取引契約に基づく委託者等に対する債務の全部又は一部の履行を拒否し、又は不当に遅延させること」を禁止しているが、前記の決済取引成立後の金銭債務の不履行は、この禁止条項に違反するのではないか。

2 同条三号は、「顧客の指示を受けないで、顧客の計算によるべきものとして取引をすること」を禁止しているが、前記四の3の後半に記載した新たなポジション建は、これに該当するのではないか。

3 これらが商先法及び施行規則に反するとすれば、これらの行為を外資の親会社の指示で行ったとすれば、取締役会及び内部管理が働かなかったと言えるのではないか。

六 ADR(裁判外紛争解決機関)ついて

 金融庁には利用者相談室が苦情を寄せられた場合、ADRを紹介している例が多いが、具体的解決に機能しているかどうかについては調査しているか。

七 証券会社の脱税疑惑について

 英国に本社のあるA証券では、親会社とのカバー取引を隠れ蓑にして、親会社に対するカバー手数料と顧客手数料とを同額に設定し、A証券は顧客からの受取手数料と親会社に対する支払い手数料とを相殺し、A証券の総益計算書には、A証券の顧客からの手数料収入は計上されない。A証券の主要な収益である受け取り手数料が相殺でなくなってしまうため、親会社からのリベートとして、A証券の事業価値の六パーセントである四十億四百万円が計上されている。一方、Aグループの連結決算では、日本の収益は、約百八十二億円が記載されている。つまり、二〇二二年におけるAグループの日本から英国への収益移転は、百四十二億円あったことがわかる。

1 A証券は、金融商品取引業者であり、「有価証券関連業の統一に関する規則」(統一経理基準)に従って決算書を作成する義務があるのではないか。

2 統一経理基準には、受取手数料とグループ会社に対する支払い手数料と相殺してよいという記載されていないのではないか。

3 A証券が海外からリベートの配分に基づいて会計報告につき、会計監査法人による適正であるとの報告書が作成提出されているとしても、国税庁はそのまま受け入れることは問題があるのではないか。

  右質問する。