質問主意書

第212回国会(臨時会)

質問主意書

質問第一一七号

日本における脱炭素エネルギー戦略に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和五年十二月十三日

神谷 宗幣


       参議院議長 尾辻 秀久 殿



   日本における脱炭素エネルギー戦略に関する質問主意書

 令和五年十一月三十日よりドバイで国連気候変動枠組条約第二十八回締約国会議(COP28)が開催された。この会議に参加した岸田内閣総理大臣のスピーチでは、次の三点が示された。

○グリーン・トランスフォーメーション推進法に基づき、成長志向型カーボンプライシング構想を実行していきます。来年には、世界初の国によるトランジション・ボンドを国際認証を受けて発行いたします。排出削減、エネルギーの安定供給、経済成長の三つを同時に実現するGXを加速させ、世界の脱炭素化に貢献します。

○日本は、徹底した省エネと、再エネの主力電源化、原子力の活用等を通じたクリーンエネルギーの最大限の導入を図ります。日本は、世界で再エネ容量を三倍とし、エネルギー効率改善率を二倍とするとの議長国の目標に賛同いたします。

○日本は、自身のネット・ゼロへの道筋に沿って、エネルギーの安定供給を確保しつつ、排出削減対策の講じられていない新規の国内石炭火力発電所の建設を終了していきます。

 一方、COP28合意文書草案については、サウジアラビア、ロシア、インド、中国が賛同しておらず、合計で総排出量の約三十七パーセントを越えるCO2を排出している国が賛同していない(二〇二〇年時点、排出量は同年の実績換算)。加えて二〇五〇年までに世界全体の原子力発電の設備容量を二〇二〇年の三倍にする宣言には、日米など二十か国以上が参加している。

 十二月三日、NHKの番組内で、伊藤太郎環境大臣は「再エネ三倍増」公約に関連して、実際に三倍増を目指すのかと問われた際、「太陽光発電の導入に伴う森林などの環境破壊の問題もあり、必ずしも三倍にできる容量があるとは考えていない。再生可能エネルギーは、なるべく伸ばそうと思っているが、明日や来年に三倍に増やすことはできない」と慎重な発言をしている。

 同番組内で、西村康稔経済産業大臣は石炭火力発電の段階的な削減について、「国民生活や経済への影響なども考えながら、CO2の排出を減らしていかないといけない。最終的には燃料をアンモニアへと転換させることを目指したい」とも発言している。

 これらを踏まえ質問する。

一 現実に目を向けると、今年の石炭や石油などの化石燃料を燃やして排出される世界のCO2の量は三百六十八億トンとなり、去年に比べ、一・一パーセント増え、過去最大の排出量になる見通しとなっている。このうち、燃料別の排出量では石炭が全体の四十一パーセントを占め、最も多い。またCOP会議での誓約に中国、ロシアなど、CO2を多く排出している国々が署名していない状況から、CO2削減目標達成を疑問視する声も多い。こうして、国連気候変動枠組条約の目指す目標が現実的な裏打ちを持てない中、日本政府は自国の経済、産業、国民の生活に負荷をかけながら二〇三〇年度に四十六パーセント減、更に五十パーセント減の高みに向け挑戦を続けていく考えなのか。世界的な情勢を踏まえて、条約締約国全体での取組を実現性のあるものに見直していくことは検討しないのか。

二 日本は二〇五〇年までに世界全体の原子力発電の設備容量を二〇二〇年の三倍にする宣言に賛同しているが、この数値は、どれくらいの数の原子力発電所を再稼働させれば達成されるのか。あるいは、新規の原子力発電所建設と発電開始も踏まえての目標なのか。

三 岸田内閣総理大臣による「日本は、自身のネット・ゼロへの道筋に沿って、エネルギーの安定供給を確保しつつ、排出削減対策の講じられていない新規の国内石炭火力発電所の建設を終了していきます」とのスピーチを踏まえるなら、日本においては、高効率・低炭素化対策を行っている石炭ガス化複合発電について今後も継続的に技術開発及び稼働を進めていくということなのか。石炭ガス化複合発電についての今後の展開について、見通しを示されたい。

四 高効率・低炭素化対策を行っている石炭ガス化複合発電等を用い、アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)の下で東南アジア諸国への優れた脱炭素型技術の普及や対策を通じ、二国間クレジット制度(JCM)を活用し、我が国のNDC(国が決定する貢献)達成のために適切にカウントする方針を持っているのか。具体的なJCM貢献額を目標達成の前提としているかどうかを示されたい。

五 十二月三日、NHKの番組内での、伊藤太郎環境大臣や、西村康稔経済産業大臣の発言を鑑みると、日本政府は、「原発三倍増」とする目標は現行の再稼働政策の延長で確保可能とし、火力発電についてはアンモニア転換などによる排出削減対策を講じた火力発電に力を入れる方針であるというように受け取れる。そうなると、日本のエネルギーミックスにおいて、再生可能エネルギーについては三倍にする余地が残されていない。それに対し今後GXに必要となる十年で百五十兆円の投資のうち、再生可能エネルギーの大量導入に約三十一兆円以上の投資をイメージしているが、現在政府が進めているGX経済移行債の投資計画と将来のエネルギーミックスの計画とは整合性がとれるのか。同時に欧米諸国からグリーン投資のパフォーマンス低下が報道される中、GX移行債が当初想定していたようなパフォーマンスを実現し続けられる見通しを持っていると考えているのか、示されたい。

  右質問する。