第212回国会(臨時会)
質問第一一五号 貸与型奨学金の返済負担の軽減に関する質問主意書 右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。 令和五年十二月十三日 神谷 宗幣
参議院議長 尾辻 秀久 殿 貸与型奨学金の返済負担の軽減に関する質問主意書 独立行政法人日本学生支援機構(以下「JASSO」という。)による学生生活調査(令和二年度)によれば、大学生や大学院生の約半数が奨学金を利用しており、奨学金が多数の学生にとって欠かせない経済的支えとなっているというのが実態である。奨学金の借入総額は学生一人あたり平均三百十万円、返済期間は同十四・五年間に及ぶ(中央労福協二〇二二年九月「奨学金や教育費負担に関するアンケート報告書」)。 生活困窮者を支援するNPOが元大学生らに対して行ったアンケートによると、JASSOから奨学金を借りていた人のうち、返済延滞の経験がある人が二十八%、このうち自己破産を検討したことのある人も十%おり、その要因として、「収入が低い」ことが原因であると答えた人が六十七%であるとされる(令和四年九月二十一日付「共同通信」)。 貸与型奨学金に関連する自己破産は、平成二十四年度から平成二十八年度の五年間で延べ一万五千三百三十八人にも上る(平成三十年二月十二日付「朝日新聞」)。それだけでなく、令和四年から国の自殺統計の分類に、「奨学金の返済苦」が加わり、実際、奨学金の返済苦が原因で自殺したと考えられる人が十人いたという。 一方で、貸与型奨学金を返済中の者は、未婚率が高く、子供の数が少ないと研究結果で示されている(教育費負担と学生に対する経済的支援のあり方に関する実証研究)。 支払い総額が高額で長期の返済になる奨学金は、日本の若年世代の結婚や出産といったライフプランの大きな障害となっており、返済が滞った末に破産をしたり、自殺してしまったりする若者がいることが、以上のことから示されている。 現実に若年勤労者の収入増が十分に実現されない状況の下で、貸与型奨学金についてその返済負担の軽減について十分な対策が講じられないままであれば、若年層は増大する社会保障負担をも担いつつ疲弊する一方であり、家庭を持てないことでさらに少子化が加速することになりかねない。 政府は、「こども未来戦略方針」の「加速化プラン」等に基づき、奨学金制度の拡充を目途に令和六年から高等教育費の負担軽減策を実施する見込みというが、現状の抜本的な見直しをしなければ、解決に至らないのではないか。 以上を踏まえ、質問する。 一 貸与型奨学金が未婚率や少子化に影響を与えている可能性について、政府としてどのような現状認識を有しているか。また、現在、政府が打ち出している高等教育費の負担軽減策を通じて、未婚率や少子化の改善につなげていく戦略的視点を政府は有しているのか。 二 現在、政府が打ち出している高等教育費の負担軽減策について、各施策の対象となる学生の数と負担軽減額について示されたい。 三 過去十年間における奨学金返済をも債務に含んだ自己破産件数は何件に及ぶか、示されたい。 四 貸与型奨学金は、「奨学金」という名称が用いられているために実質的に「借金」であるという意識が低くなりがちである。自己破産者が出ている現状から見れば、「学生ローン」等への名称変更によって返還義務のある借金であるということの理解を進め、ライフプランの見通しを踏まえた借り入れを促すことが必要ではないか。 五 現状の貸与型奨学金の返済金利は(平成十九年四月以降に奨学生に採用され、令和五年十一月に貸与修了した者の場合で見ると)年利約一%であるが、そもそも「借り入れ」だとしても学業の成就のために必要な経済的支えとして支給が申請されるものであり、それがすぐに事業活動のような経済的利益につながると考えにくいものであることから、金利ゼロに戻すべきではないか。 右質問する。 |