第212回国会(臨時会)
質問第九八号 先住民族政策の世界の流れとアイヌ施策推進法施行後の施策の検証に関する質問主意書 右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。 令和五年十二月十二日 紙 智子
参議院議長 尾辻 秀久 殿 先住民族政策の世界の流れとアイヌ施策推進法施行後の施策の検証に関する質問主意書 二〇〇七年の「先住民族の権利に関する国連宣言」が採択されてから、先住民族への謝罪が各国で行われている。ここ数年だけでも、メキシコのロペスオブラドール大統領やデンマークのフレデリクセン首相が謝罪し、オーストラリアでは、先住民の同化政策への賠償を決定した。カナダを訪問したフランシスコ・ローマ教皇は、カトリック教会による先住民への虐待に対して謝罪した。 アメリカのハーランド内務長官は、先住民族のシャイアンとアラパホを襲撃し、虐殺した上、土地を略奪した事実を踏まえ、「この史実は米国の一部であり、それを伝えることは私たちの責務だ」と語った。 ところが日本政府は、アイヌ民族への謝罪もなく、同化政策の実態把握も不十分である。人権が蹂躙され、強制移住を強いられ、サケなどの資源が奪われ、コタンが消滅した歴史を明らかにする必要がある。 アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律(以下「アイヌ施策推進法」という。)には、施行後五年が経過した後に見直す規定があり、参議院国土交通委員会は附帯決議(二〇一九年四月一八日)を採択していることを踏まえ、以下質問する。 一 一二月六日の参議院政府開発援助等及び沖縄・北方問題に関する特別委員会において、田村公一内閣官房アイヌ総合政策室次長は「アイヌ施策推進法は令和元年五月に施行されておりますので、それから五年経過後の令和六年五月以降に法の施行状況について検討を行う考えでございます」と答弁した。アイヌの団体や個人が広く参加できる仕組みは、どのように検討されているか。 二 アイヌ施策推進法第八条は、「都道府県知事は、基本方針に基づき、当該都道府県の区域内におけるアイヌ施策を推進するための方針…を定めるよう努めるものとする」との規定があるが、現在、方針を作成した都道府県名を明らかにされたい。 三 一二月六日の参議院政府開発援助等及び沖縄・北方問題に関する特別委員会で、私の「世界では先住民族の同化政策などへの謝罪の動きが広がってきています。世界で広がっているこうした動きについて、外務大臣の御認識を伺いたい」との質問に対し、上川陽子外務大臣は「アイヌ施策推進法、この制度を含む取組を進めてきている」と答弁したが、聞いたのは国内の取組ではない。改めて聞くが、世界で広がっている謝罪の動きについて、政府の認識を示されたい。 また、附帯決議の二は、「「先住民族の権利に関する国際連合宣言」の趣旨を踏まえるとともに、我が国のアイヌ政策に係る国連人権条約監視機関による勧告や、諸外国における先住民族政策の状況にも留意し、アイヌの人々に関する施策の更なる検討に努めること」とある。政府が把握している勧告名並びに国名及び地域名を明らかにされたい。 四 附帯決議の四は、「アイヌの人々に対する差別を根絶し、アイヌの人々の民族としての誇りの尊重と共生社会の実現を図るため、アイヌに関する教育並びにアイヌへの理解を深めるための啓発及び広報活動の充実に向けた取組を推進すること。あわせて、本法第四条の規定を踏まえ、不当な差別的言動の解消に向けた実効性のある具体的措置を講ずること」とある。 1 アイヌ施策推進法第四条は「何人も、アイヌの人々に対して、アイヌであることを理由として、差別することその他の権利利益を侵害する行為をしてはならない」と定めているが、差別の定義を明らかにされたい。 2 アイヌ施策推進法の施行後もアイヌに対する差別的言動やネットへの差別的投稿が続いている。附帯決議の四には「不当な差別的言動の解消に向けた実効性のある具体的措置を講ずる」とあるが、どのような措置をとったのか、明らかにされたい。 五 附帯決議の五は、「アイヌの人々の民族としての誇りの尊重と我が国の多様な生活文化の発展を図るため、アイヌの人々の生活支援及び教育支援に資する事業や、存続の危機にあるアイヌ語の復興に向けた取組、アイヌ文化の振興等の充実に今後とも一層努めるとともに、アイヌの人々が北海道のみならず全国において生活していることを踏まえて、北海道外に居住するアイヌの人々を対象とする施策の充実に努めること」との規定がある。 1 無年金にあるアイヌ民族の長老(エカシ・フチ)の生活を保障することが課題になっている。アイヌ施策推進法施行後、現在の福祉政策の検証は行っているか。また、北海道内外に居住するアイヌの生活実態調査は行っているか明らかにされたい。 2 アイヌ語の話者を育てる支援策に関する質問主意書(第二百三回国会質問第二七号)に対する答弁書(内閣参質二〇三第二七号)では、「アイヌ語の話者の人数について、政府として把握していない」、「「アイヌ語を授業に取り入れている学校数」は政府として把握していない」、話者を育てる施策についても「アイヌ民族文化財団を通じたアイヌ語の指導者や話者の育成…に取り組んでいる」との答弁があったが、附帯決議の五では、「存続の危機にあるアイヌ語の復興に向けた取組…等の充実に今後とも一層努める」とある。現在の把握状況、新たな施策を明らかにされたい。 六 アイヌの遺骨はアイヌの先祖であり民族の誇りの源泉であるとされる。国立大学や博物館、研究機関には、何体の遺骨があるのか。団体の名称とともに何体あるかを明らかにされたい。また、遺骨の盗掘との指摘に対する政府の見解を示されたい。 七 アイヌ施策推進法第三十五条では、アイヌ政策推進本部長は、内閣官房長官を充てるとあるが、岡田直樹参院議員に続き、自見はなこ参院議員を担当大臣に任命した理由を明らかにされたい。同本部長は内閣官房長官で変わりないか。 右質問する。 |