質問主意書

第212回国会(臨時会)

質問主意書

質問第九〇号

離婚後の親権のあり方を検討する上で前提となる知見等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和五年十二月十二日

熊谷 裕人


       参議院議長 尾辻 秀久 殿



   離婚後の親権のあり方を検討する上で前提となる知見等に関する質問主意書

 現在法務省法制審議会家族法制部会において離婚後の親権のあり方等について共同親権制の導入を想定する形での検討が進んでいる。しかしながら、その前提となる知見等は必ずしも明確ではない。

 よって、以下質問する。

一 二〇二一年の内閣府「離婚と子育てに関する世論調査」では、父母の双方が、離婚後も子の進路などの未成年の子の養育に関する事項の決定に関わることは、子にとって望ましいと思うか聞いたところ、「どのような場合でも、望ましい」と答えた者の割合が十一・一%、「望ましい場合が多い」と答えた者の割合が三十八・八%、「特定の条件がある場合には、望ましい」と答えた者の割合が四十一・六%、「どのような場合でも、望ましくない」と答えた者の割合が五・七%となっている。即ち、どのような場合でも原則共同親権を望む者は十一%しかおらず、例外を認めない共同親権を国民の多くは望んでいないと言える。離婚後の例外無き共同親権制の導入には立法事実がないと考えるが見解如何。

二 同調査で「父母の双方が、離婚後も未成年の子の養育に関する事項の決定に関わることは、子にとって「望ましい場合が多い」、「特定の条件がある場合には、望ましい」と答えた者」にどのような場合に子にとって望ましくないと思うか聞いたところ、「別居親から子への虐待がある場合」を挙げた者の割合が八十・八%と最も高く、以下、「父母の不仲や争いが深刻である場合」(六十六・一%)、「離婚した父母の一方が他方から、暴力を受けている場合」(六十五・七%)、「子が、父母の双方が共同で決めることを望んでいない場合」(六十・九%)、「別居親の子を育てる能力に問題がある場合」(五十九・〇%)などの順となっている(複数回答、上位五項目)。即ち、虐待はもちろんのこと、父母が不仲や争いがある場合、つまり合意が困難である場合には共同決定できないというのが国民の声であると考えられるが見解如何。

三 元夫婦間で又は事実婚夫婦で両人とも共同親権を求めている割合はどの程度であり、求めている者はいかなる理由で共同親権を求めているものと政府は把握しているか示されたい。

四 報道等を含め共同親権導入を求める声を見るに「子どもに会うために離婚後共同親権を導入すべき」という理解が広がっている状況がある。しかし、面会を求めるならば面会交流調停・審判を申し立てすればよく、子と会えないのは、その調停・審判で十分に話し合いができていない、あるいは家庭裁判所が子の福祉の観点から面会交流することが相当では無いと判断したという問題であって、共同親権になれば別居親の子との面会が可能になる訳ではない。離婚後共同親権についての正しい理解を周知する必要があると考えるが如何。

五 「共同親権は子の福祉や子の最善の利益に適う場合もある」とされているが、子の福祉や最善の利益をどのように推し量るのかは明らかではない。共同親権と定めることの可否を裁判所が判断する場合には、子の福祉に適うかどうかにつき何らかの根拠又は基準が必要であると考えられる。このような検討に資するものとして、法務省において、又同部会において、いかなる子の福祉と親権に関する調査・研究を用いているのか示されたい。

六 二〇一二年から二〇二〇年ころまで、家庭裁判所では面会交流原則実施論という運用があり、その後、ニュートラルフラットに変化したと聞く。その期間の間に、面会交流申立ての手続きを利用した当事者や子どもに対する調査をしているか。調査をしていない場合、する予定はあるか。また、面会交流の過度な促進のためエラーケースが生じ、決め直しも多いと聞く。これらの家庭裁判所で決めた面会交流事例の追跡調査や分析をする必要があると考えるが、調査・分析をする予定はあるか。上記二点につき、調査・分析をする予定がない場合、しない合理的な理由はあるのか。

七 家庭裁判所の決定による面会交流が子にとって良かったのか悪かったのかなど、子どもの心理や福祉に関する追跡調査が行われていないとすれば、家庭裁判所で決定したケースでの共同親権が子にとって良いものとなるかどうかの心理学的知見はないこととなると考えられる。同部会における初期の審議において、心理学者の文献レビューが提出されているが家庭裁判所で取り扱ったケースの追跡調査によるものではない。このように知見が揃っていない状態での共同親権制導入は拙速と考えるが見解如何。

八 婚姻中に十分な育児実績を積まなかった別居親が、独力で子と出掛けたり日常生活を送ったりする際に十分な安全確保ができるかについては疑問がある。例えばアレルギーへの対応や急な飛び出しの予測と防止など一朝一夕にできることではないものが多いと考えるが見解如何。

九 離婚等の裁判や調停において同居親が裁判官、調査官、調停委員等からどのような対応をされてきたか、調停等を利用した人がどのような感想及び意見を持っているか等について、法務省は同部会の場以外に調査や意見聴取を行ったのか示されたい。

十 法務省がホームページで公開している法制審議会家族法制部会議事速報英語訳の資料で、「親権」は「Parental Authority」と訳されている。しかしながら、国際連合子どもの権利委員会は、例えばフランスに対して、法律及び政策において子どもの権利と整合するようこの用語を「Parental Responsibility」等に変更するよう勧告している。海外における日本の制度への誤解も生じさせているこの訳語は変更すべきではないか。

  右質問する。