質問主意書

第212回国会(臨時会)

質問主意書

質問第八三号

離婚後共同親権とドメスティック・バイオレンス及び児童虐待に係る懸念に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和五年十二月七日

岸 真紀子


       参議院議長 尾辻 秀久 殿



   離婚後共同親権とドメスティック・バイオレンス及び児童虐待に係る懸念に関する質問主意書

 現在法務省法制審議会家族法制部会において検討されている離婚後共同親権制についてはDV(ドメスティック・バイオレンス)及び虐待に係る懸念が強く訴えられているところである。

 よって、以下質問する。

一 DVや虐待の加害者の目的は家族の支配であり、これまでは殴る蹴るの身体的暴力によって思い通りに家族成員を支配していたが、時代の趨勢とともに家族間の身体的暴力でも逮捕等の対応がされるようになり、加害者の手段は精神的暴力等に移行している。精神的な暴力は、DVや虐待の証拠を得るのが困難な場合がほとんどである。この実態に対し、DVや虐待がある事案において、共同親権制の対象から除外することが可能であるとする根拠を具体的に示されたい。

二 DVなどで子どもや自分自身が精神的、物理的に追い詰められ切迫している状況において、加害者から「共同親権にしないと離婚しない」と言われたら被害者は受け入れざるを得ないことが懸念される。単独親権制である現状においてすら、手続上は協議離婚であっても実質的な「共同親権」の強要、即ち加害者である別居親が被害者である同居親を従わせることは多く行われている。DV被害者は被害の自覚が薄い場合も多く、離婚、別居後もDV支配から抜け出すまでには年単位の時間を要することも珍しくない。共同親権制におけるこのようなケースについて政府はどのような認識でいるのか。また、民法改正以外の施策等を含め具体的にどのような対策を講じる方針であるのか答えられたい。

三 同部会で検討されている「家族法制の見直しに関する要綱案の取りまとめに向けたたたき台」では、共同親権の対象からDVや虐待がある事案を除くとしているが、協議離婚において意に反して共同親権に同意させられることや裁判所においてDVや虐待が適切に認識又は評価されず共同親権が定められることが懸念される。これらを防ぐことを可能とする根拠は部会資料及び審議内容からは見出し難い。このような状況で離婚後共同親権制が導入された場合には、DV防止施策が事実上無力化される恐れがある。特に、離婚後も続く暴力に対しては支援側も認識が十分とは言えない現状がある。離婚後共同親権制とDV防止施策とをどう両立させる想定か具体的に示されたい。

四 同部会資料30―2は「DVや虐待がある事案における被害者の保護等は、民事基本法令以外の各種法令(DV防止法、児童福祉法、児童虐待防止法など)によっても手当てがされているところである」とし(四ページ)、同部会参考資料30―2で既存の相談支援機関や制度が紹介されているが、これらはDV被害者が加害者から安全に逃げる又は逃げた前提での支援がほとんどである。つまり、被害者が逃げられないように加害者が関わりを持ち続ける共同親権とは真逆のものであると言える。このような特徴を有する既存の制度が共同親権制が導入された場合にどのように機能すると考えられるのか、各制度毎に具体的に示されたい。

五 離婚後共同親権が定められた場合においては、共同決定のための情報提供の要請として過量の質問等が別居親から寄せられ得ることは、現状のDV被害者の経験から十分に想定できるところである。また、同居親がPTSD等で加害者である別居親との接触、連絡が困難な場合もある。以上のような事態において同居親の相談に応じ援助を行う仕組みが必要となると考えられるが、その整備や費用負担のあり方などについてどのように想定をしているのか。

  右質問する。