質問主意書

第212回国会(臨時会)

質問主意書

質問第八〇号

福島第一原発一号機原子炉倒壊・使用済燃料水抜けの危険等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和五年十二月六日

川田 龍平


       参議院議長 尾辻 秀久 殿



   福島第一原発一号機原子炉倒壊・使用済燃料水抜けの危険等に関する質問主意書

 二〇二三年十月十一日の第三十七回原子力規制委員会の議題二「東京電力ホールディングス株式会社福島第一原子力発電所の一号機ペデスタルの状況を踏まえた対応状況(二回目)」及び資料二(以下「会議資料」という。)等に関し、以下質問する。

一 原子炉格納容器が原子炉建屋に衝突した場合の想定条件について

 会議資料の別紙二(四十四頁から四十八頁)で東京電力がまとめた「圧力容器倒壊における原子炉建屋への影響評価について」を踏まえて、会議資料の別紙三(五十八頁~六十頁)では原子力規制庁から「局所的に原子炉格納容器(以下「PCV」という。)の部材が原子炉建屋にぶつかるという仮定を立て、東京電力の情報を得ながら実際に自ら計算した結果、圧力容器(以下「RPV」という。)・PCV等もまとめ二千トンの原子炉構造を一つの金属体として、これを建屋コンクリートにぶつけたと仮定した。その結果、二メートルある壁面が貫通しても五十四センチメートルにとどまる。裏面剥離も百十八センチメートル程度と二メートルの範囲内に収まるという結果になり、厳しい条件を想定しても、そもそも原子炉建屋に対して影響が大きく及ばないということが分かった。」旨の報告があった。以上について質問する。

1 原子炉の倒壊を想定した評価を原子力規制庁が実施することは、国民の不安に対応したものであり評価できる。しかし会議資料の別紙三に掲載されているこの評価に係る想定の条件に疑問点がある。表一、表二の計算式の入力条件を見ると、コンクリート設計基準強度は設計値が用いられている。しかし、福島第一原発一号機の建屋は二〇一一年の東日本大震災、続いて起こった屋上階の水素爆発、一九六七年建設着工以来五十年以上経過したことによる老朽化等により設計値よりも剛性が著しく低下しているはずである。東北電力は自社の女川原発二号機(一九八九年建設着工)について、二〇一一年の東日本大震災により建屋壁面にヒビが千百三十ヶ所、はがれが七ヶ所発生したことや、ヒビは揺れが大きい上層階ほど多く屋上階は七百三十四ヶ所と集中しており、上層階の剛性は建設時よりも七割低下していることを明らかにしている。福島第一原発一号機は女川原発二号機より古く、水素爆発により屋上が破壊されている。また建屋の四階北西側階段のエレベータ室入口ではコンクリートが大きく消失(剥落)している記録写真がある。このようなことから福島第一原発一号機は女川原発二号機の七割よりもさらに剛性が低下していることが想定される。この剛性の低下が今回の別紙三の規制庁の評価計算ではどのように具体的に配慮されているのか詳細を示されたい。

2 もし剛性の低下が配慮されていない場合は、剛性の低下を女川原発の例等から推定し保守的な補正を行い貫通限界厚さ、裏面剥離限界厚さ等を再度推算するべきだと思料するが、政府の見解を示されたい。

3 使用済燃料プール(以下「SFP」という。)の壁面にRPV・PCV等もまとめ二千トンの原子炉構造体がぶつかった場合壁面の破損が憂慮されるが、SFPの衝突側壁面の厚さは何センチメートルか、SFPの冷却水漏れの可能性はないのか。これ以外にもさまざまな支障が出てくると思われるが、政府の見解を示されたい。

二 福島第一原発一号機のSFPが損傷し冷却水が抜けた場合の想定について

 会議資料の四十九頁~五十七頁の東京電力による「SFPが損傷、プール水位が低下した際の敷地境界線量率および原子炉建屋周辺線量率への影響評価」を基に、原子力規制庁から「原子炉建屋内SFP自身の水がなくなっても、燃料自身の発熱は五百度程度に収まる。水がなくなることによってスカイシャイン線が外部に出るが、そのスカイシャイン線も、敷地境界では毎時〇・五三マイクロシーベルト程度であり非常に小さな値に収まっている。ペデスタルの機能が喪失したとする更に厳しい評価をしても環境影響等に大きく影響を及ぼすという結果は得られていない、それを確認できた。」旨報告された。

 原子炉が倒壊した際、原子炉建屋への影響は大きなものではないとしながらも、原子炉建屋の使用済燃料プール壁に影響を与えプールの冷却水が抜けた場合における東電の試算結果を報告しており、その慎重な姿勢を評価しつつ、以下質問する。

1 会議資料の五十二頁で、SFP水位が大きく低下し、制御棒、使用済燃料が有効底部まで露出した場合における敷地境界線量率および原子炉建屋周辺線量率の評価結果が出ており、建屋周辺の線量率を毎時約四・六×千マイクロシーベルト(=毎時四・六ミリシーベルト)と想定している。これは原子炉建屋外壁面から約二十五メートルの地点の評価値とのことである。

 「東京電力福島第一原子力発電所事故の調査・分析に係る中間取りまとめ(二〇二三年版)」によると一号機の四階建屋の線量率は毎時四~三十四ミリシーベルト、多くは毎時四~十ミリシーベルト、三階は圧力容器付近は毎時四十八ミリシーベルト、多くは毎時一~四ミリシーベルトと報告された。そのため市民とのヒアリングでは、高線量で立ち入りが困難とし、圧力容器倒壊防止の作業はできない旨の文書回答があった。SFPの冷却水が抜けると、建屋外壁面から二十五メートル地点は毎時四・六ミリシーベルトと想定されることは、建屋の外周辺は高線量になり立ち入り困難になり、これでは一号機のSFPに貯蔵されている二百九十二体の使用済燃料の取出しや廃炉作業が高放射線下でできないことになるのではないか。政府の見解を示されたい。

2 会議資料五十二頁記載の評価は、原発事故から約九年半後の二〇二〇年八月一日時点での評価になっているが、当初炉から取り出したばかりの使用済燃料の崩壊熱は莫大だったはずであり、当時冷却水がなくなった場合はすぐにジルコニウム火災が起こったはずである。原子炉から使用済として取り出された燃料は冷却水が喪失した場合、何日でジルコニウム火災の心配がなくなるのか。またその根拠となる関係報告資料を示されたい。

3 現在、福島第一原発一号機のSFPの水の上部は、エアモルタルが充填された養生バッグが落下物の緩衝材として覆われているとのことだが、水が抜けた場合、この養生バッグが使用済燃料の自然対流の妨げになるのではないか。また、崩壊熱等により養生バッグが破損した場合、内容物が使用済燃料の隙間に入り込み燃料体の崩壊熱がこもり、局所的に高温になり薄いジルコニウムのさや管が酸化燃焼する可能性があるのではないか。さらに、メルトダウンが起こるのではないか。政府の見解を示されたい。

4 福島第一原発四号機のSFPには約六ミリメートル厚のステンレス鋼が水漏れ防止のためライニングされているとのことだが、一号機、二号機についても金属のライニングが施されているのか。施されているならば、その材質と厚さを示されたい。またライニングは原子炉が倒壊した場合破損せずに耐え得るものなのか示されたい。

5 福島第一原発一号機のペデスタル損傷という新事実に対応し、原子炉倒壊が起こる前に一号機屋上にあるSFPから使用済燃料を地上に下ろし、乾式貯蔵もしくはプールで貯蔵すべきではないか。そのことが、周辺地域の人々のリスク軽減のための配慮であり、国民の信頼につながることになるのではないか、政府の見解を示されたい。

三 原子炉倒壊防止対策について

1 RPV倒壊防止対策を講じなければ、今後発生する中程度以上の地震の繰り返しによる固有周期の揺れの共振により、RPV・PCV等もまとめ二千トンもの原子炉の倒壊が必ず現実になるものと思われる。津波が来るとの警告があったのに何も対策を講じなかった福島第一原発事故の教訓を踏まえて、作業員の被ばく防護を最大限講じながら原子炉の倒壊防止対策が必要と思われる。衆知を集め、対策を講じることが今求められているはずである。座して倒壊を待ち、倒壊後泥縄で対応するのか。政府の見解を示されたい。

2 福島第一原発一号機、二号機の設計基準地震動はいくらか。天井クレーンや圧力容器など安全上重要な設備の固有周期を示されたい。女川原発二号機の基準地震動は千ガルになっているが、福島第一原発もその程度の地震の襲来が予想されるのではないか。福島第一原発で今後想定されている基準地震動はいくらか、またその場合の応答スペクトルは検討されているのか。政府の見解を示されたい。

3 高線量下対策工事ができない、放射性物質を処理できないまま海へ流すなど、そのような言い訳がまかり通る原発は未熟な技術であり許可しないとする原発事故後の対応を踏まえた法律を新規制基準で追加整備・制定し、事業者を厳しく指導するべきではないか。

 福島原発事故のような多くの人を悲しませるような事故を絶対に起こさせないとする原子力規制委員会設立の原点に立ち戻り国民への責任をしっかり果たしてほしいと考えるが、政府の見解を示されたい。

  右質問する。