質問主意書

第212回国会(臨時会)

質問主意書

質問第六〇号

日本の朝鮮植民地時代の民間徴用者の遺骨問題に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和五年十一月二十一日

福島 みずほ


       参議院議長 尾辻 秀久 殿



   日本の朝鮮植民地時代の民間徴用者の遺骨問題に関する質問主意書

 一九四二年二月三日に山口県宇部市の「長生炭鉱」で水没事故が起こり、百八十三名の命が犠牲になったが、そのうち百三十六名が朝鮮半島の出身者である。

 一九九二年に韓国では「遺族会」が結成され、遺骨を故郷に返してほしいと政府に訴え続けてきたが、事故から八十一年の歳月が過ぎ去った今も、水没遺骨を掘り起こせず遺族が苦しんでいる。

 韓国尹錫悦大統領と岸田政権の間では、この間、国交正常化・友好関係の構築に向け真摯な努力がなされた。一九九八年に金大中大統領と小渕恵三首相との間で交わされた「日韓共同宣言」では、小渕総理大臣が「今世紀の日韓両国関係を回顧し、我が国が過去の一時期韓国国民に対し植民地支配により多大の損害と苦痛を与えたという歴史的事実を謙虚に受け止め、これに対し、痛切な反省と心からのお詫び」を述べた。

 民間徴用者の遺骨問題は、その「日韓共同宣言」に基づき二〇〇四年の日韓首脳会談において、盧武鉉大統領が戦時中の民間徴用者の遺骨返還を要請され、小泉首相が「何ができるか真剣に検討する」と応答し、これを受けて二〇〇五年総務省が全国で遺骨調査をはじめ取組を進めているが、多くの解決すべき課題がある。

 そこで、以下質問する。

一 長生炭鉱水没事故について

1 一九四二年二月三日山口県宇部市にある長生炭鉱の水没事故で、百八十三名の坑夫が生き埋めになり、そのうち百三十六名が朝鮮人労働者であった。すぐそこに遺骨があり、韓国人遺族が奉還を望んでいるのが実現していない。政府は総務省の調査などからその事故と発掘が待たれているこの遺骨問題が韓国国内で問題になっていること、遺族が解決を望んでいること、両国間にある未解決事案であることを承知しているか。

2 長生炭鉱水没事故から八十一年が経ち、遺族の高齢化は待ったなしの状況である。犠牲者の名前や死亡した時の年齢も分かっており、待ちわびる遺族は既にDNA鑑定などもして、遺骨発掘に備えている。この長生炭鉱の遺骨をこのまま放置することは、政府間の交渉を踏まえても、人道上からも放置できないと考えるが、政府として現状についてどのように認識しているか。

3 毎年行われる追悼式は山口県内のNHKや民放でも継続して取り上げられ、地域でも解決を待つ声が高まっている。もちろん韓国政府もこの問題を認識し、日本政府に外交ルートを通じて解決を要請していると聞く。最近では、二〇二三年九月六日の韓国行政安全部が韓国遺族会宛に出した公文(韓国行政安全部長官からの公文で、主務課からの発出文書「強制動員犠牲者遺骸奉還課―一八四七号」)によると、長生炭鉱遺骨問題の解決を日本政府に要請したとのことだが、この要請があったことは事実か。

4 これまでの韓国政府から長生炭鉱の遺族問題解決に向けた要請の経緯について、時系列に示されたい。また、それぞれの要請に対してどのような対応をしてきたのか、併せて示されたい。

5 長生炭鉱水没事故の民間徴用者の被害者は、遺骨として地上にも出ることも叶わず、海底下に放置されたままである。本年四月七日の参議院政府開発援助等及び沖縄・北方問題に関する特別委員会において髙良鉄美議員が国会で長生炭鉱の問題について質疑を行ったほか、去る十一月二日には韓国宗教界(観音宗)から七十人が追悼のため来日し、宗教界としても遺骨発掘を求めている。十二月八日には遺族が来日し国との意見交換会が予定されるなど、日韓で発掘を求める声が高まっている。鉱物採掘販売を行っていた長生炭鉱株式会社はすでに解散しており、日本政府が遺骨発掘に向けて、可能なことを努力することは植民地支配に対する反省として政府のなすべきことと考える。

 また、遺骨問題の前進こそが、現在の日韓関係をさらに友好的に発展させると考える。これらの視点から遺骨発掘に向けて日本政府がどのような対応、対策を講じようとしているのか説明されたい。

二 厚生労働省職業安定局総務課人道調査室の役割について

 日本政府の中で、民間徴用者の遺骨問題を担当する人道調査室は、お寺などに安置されている「見える遺骨」については、その数や名前などの調査ができるが、目に見えない海底坑道の中にある遺骨を調査する権限は、人道調査室には無いと発言している。地元の支援団体である「長生炭鉱の水非常を歴史に刻む会」は、坑道全体の調査は直ちには無理でも、坑口付近から海まで間のボーリング調査や、陸地にある埋められた坑口をショベルカーなどで開いてのドローン調査など、実現可能な提案を行っているが、人道調査室は掘ることも、掘るための事前調査も権限を越えると言っている。

1 人道調査室は、同室が使用できる予算の執行範囲は「お寺にある遺骨を調べるための派遣」と「遺骨の運搬と保管」に限定されると、福島みずほ事務所との面談の席上で断言しているところ、「遺骨発掘の可能性を探るための調査・派遣」のために同予算を使うことは可能と考えるが、政府の見解を示されたい。

2 前項に関連して、予算を遺骨発掘のために使用できないとした場合、人道調査室が「遺骨発掘の可能性を探るための調査・派遣」を来年度以降、新たな予算として別に計上することは可能と考えるが、政府の見解を示されたい。可能でないとする場合に障壁となる事項は何か示されたい。

3 人道調査室の権限では上記の「遺骨発掘の可能性を探るための調査・派遣」と「遺骨発掘」の事業遂行を実施できず、権限を越えているとする場合、長生炭鉱の目の前に埋没する遺骨を放置することになると考える。遺骨の放置は、これまでの日韓両国の政府交渉の経過、遺族や韓国国民の感情、そして人道上の観点からも許されるものではないと考える。政府として長生炭鉱の遺骨問題に限って、人道調査室に必要な権限を与えることはできないのか、見解を示されたい。

4 人道調査室がこの遺骨発掘問題の解決に向けて必要な権限を有する部署ではなく、政府も必要な権限を与えることができない場合、責任ある部署が新たに設置されるべきだと考えるが政府の見解を示されたい。また、仮に設置される場合、政府のどこに設置されるのかを示されたい。

  右質問する。