第212回国会(臨時会)
質問第四九号 我が国の「移民政策」と外国人労働者に関する質問主意書 右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。 令和五年十一月十五日 神谷 宗幣
参議院議長 尾辻 秀久 殿 我が国の「移民政策」と外国人労働者に関する質問主意書 日本で定住する外国人の数は、令和四年末時点で三百七万五千二百十三人(前年比十一%増)となり、初めて三百万人を超え過去最高となったという。あわせて就労という面では、先般、国土交通省が、人手不足が顕著なトラック、バス、タクシーのドライバーについて外国人労働者を大幅活用するための検討に入ったと報じられており(九月十二日毎日新聞)、実際に現場でも外国人営業ドライバーが現れ始めている。 しかしながら、そもそも、運転手不足の根本的理由は、ドライバーの賃金水準が低いままで推移していること、コロナ禍において営業不振を招いたことに対する救済措置が不十分であったことなどにより、人手の供給力が著しく損なわれたことにあるのではないか。そうしたところにメスを入れ、十分な対策を立てないまま「労働力不足の分野に外国人労働者活用を」とした政策をとるのは、筋違いと言うべきである。本来は他分野との賃金水準、労働環境の格差を是正することこそ、優先されるべき策であって、それを置いて「外国人労働者活用の推進」に進むのは順序が違うと言わざるを得ない。 あわせて政府は、令和五年六月九日の閣議決定と八月三十一日の省令等の改正によって、外国人就労に関する特定技能二号の対象分野を「造船・舶用工業」「建設」の二分野から十一分野に拡大することを決定した。新たに「ビルクリーニング」「素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業」「自動車整備」「航空」「宿泊」「農業」「漁業」「飲食料品製造業」「外食業」の九分野が追加され、これにより、今後、これらの分野で、無期限の在留と家族の同伴が可能となるという。 政府は、このような外国人労働者受け入れの拡大を進めながら、「移民政策は取らない」としてきたが、特定技能二号の対象分野拡大は、結局のところ、なし崩し的に移民を拡大することになるのではないか。 諸外国の例を参考にすれば、移民を大量に受け入れた場合には、外国人の集住地区が形成され、地元の慣習や文化を尊重しない外国系居住者が増え、犯罪の増加と治安の悪化などが見られることがある。特に、フランスやドイツのように難民を含む多数の移民を受け入れている欧州諸国では、貧困で社会に馴染めない移民第二世代の青年たちが、政府や既存社会に対してデモや集団的な暴力行為、交通妨害等を行い、社会の不安や混乱を引き起こしているケースが見られ、フランスやスペインでは、時にはテロ事件の温床ともなっているケースがあるとも聞く。また、受け入れ国にとっての社会コストが大きいことも指摘されている。例えば、移民受け入れ国として長い歴史を持つフランスでは、司法、警察、教育制度、社会福祉、公共交通機関及び組織的な反社会行為防止の分野で、移民に関連する費用として年間二百五十~三百億ユーロもの予算を要するとの試算もある。 このように、移民受け入れによる多様な社会問題は、各国の共通の課題であると言える。そのため、日本においても、事実上の移民受け入れ拡大につながる外国人労働者の就労拡大策は、経済的側面だけでなく、日本社会への影響をも考慮し、慎重かつ真剣な検討と対応が必要である。 以上を踏まえ質問する。 一 平成三十年二月二十日の経済財政諮問会議において、安倍内閣総理大臣は、「在留期間の上限を設定し、家族の帯同は基本的に認めないといった前提条件の下、真に必要な分野に着目しつつ、制度改正の具体的な検討」を進めると述べた。一方、令和五年六月九日の外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議において、岸田内閣総理大臣は、特定技能二号の対象分野を拡大することに関し、「我が国の深刻な人手不足を踏まえ、我が国が魅力ある働き先として選ばれる国となるよう」取り組むこと、そしてその取組をより強力に、かつ包括的に推進していくためには、その受入れ環境を整備することが重要であると述べた。この岸田総理の発言は、安倍総理が述べた「在留期間の上限を設定し、家族の帯同は基本的に認めない」という方針を変更するものか。 二 特定技能とは、特定産業分野において、人材の確保が困難な状況にあるため外国人により不足する人材の確保を図るべき産業上の分野として法務省令で定めるものとされている。平成三十年十一月七日の参議院予算委員会において、山下貴司法務大臣は、特定技能の在留資格新設の意義について、「人手不足が本当に深刻で国内人材の確保もままならない、そういったところの熟練の技能を持つ者について」特定技能の二号とする旨を答弁している。今回の特定技能二号の拡大対象となった分野における「人手不足が本当に深刻で国内人材の確保もままならない」状況について、どのような分析を行い、どのように評価したか。具体的な分野とその人手不足の状況の分析評価について示されたい。 三 政府は、内閣衆質一九六第一〇四号において、移民政策に関し、「国民の人口に比して、一定程度の規模の外国人を家族ごと期限を設けることなく受け入れることによって国家を維持していこうとする政策については、専門的、技術的分野の外国人を積極的に受け入れることとする現在の外国人の受入れの在り方とは相容れないため、これを採ることは考えていない」と答弁している。しかしながら、前述の九分野において「無期限の在留と家族の同伴が可能」という前提で特定二号の対象を拡大することは、結果的に「国民の人口に比して、一定程度の規模の外国人を家族ごと期限を設けることなく受け入れることによって国家を維持していこうとする政策」となるのではないか。 四 特定技能二号は、「従事しようとする業務に必要な「熟練した技能」を有していることが試験その他の評価方法により証明されていること」とされており、例えば、外食業では、「外食業分野における特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する方針」及び同方針に係る運用要領でその内容が定められている。この点、特定技能二号外国人に求められる実務経験は、「外食業特定技能二号技能測定試験の合格及び食品衛生法(昭和二十二年法律第二百三十三号)の営業許可を受けた飲食店において、複数のアルバイト従業員や特定技能外国人等を指導・監督しながら接客を含む作業に従事し、店舗管理を補助する者(副店長、サブマネージャー等)としての、二年間の実務経験(ただし、当該経験を終えてから、別途農林水産大臣が定める期間を経過していないものに限る。)を要件とする」とされている。この基準では、店舗管理補助業務を適正に行ってきたのか客観的に評価する指標が定められていない。対象者が「熟練した技能」を有していることについて、どのように担保するのか。特定技能二号の対象である各特定産業分野について、具体的な評価基準を示されたい。 五 どの国の人材を受け入れるかについては、我が国と相手国との二国間関係、それぞれの相手国の政治的安定・経済情勢・文化の相違など、諸々の要素を勘案して定めるべきである。この点で、相手国ごとの留意点、選定基準は存在しているのか。例えば、特定技能二号の基準を個人的に満たす外国人にあって、国籍が特定の国である場合に入国して就労できない場合があるのか。 六 特定技能二号の対象拡大によって、国民生活にも大きな影響が生じると思われる。令和五年六月九日の閣議決定までに、公聴会開催などを含めて十分に国民の声を聴く取組は行われたのか。この点、令和元年度から令和三年度までの外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策では、「「国民の声」を聴く会」を設置し、国民及び外国人双方から共生施策の企画立案に資する意見を継続的に聴取するとされている。ここでは、外国人材の受入れを要望する業界団体からのヒアリングは行われたが、地域住民からのヒアリングはされず、また、同会は、令和元年から令和二年にかけて開催されて以降、開催されていない。この点をどう評価するのか。また、今後、どのようにして国民の声を聴き、施策に反映させていく方針か、具体的に示されたい。 七 特定技能二号の対象拡大による外国人労働者の受け入れが経済に与える効果と、受け入れに伴って生じる社会コストを、少なくとも国レベルで試算しているか。 八 外国人労働者の受け入れ人数についての目標数等はあるか。また、「分野別運用方針に基づき、その産業上の分野において、必要な人材が確保されたと認められるときは、一時的に在留資格認定証明書の交付の停止の措置をとる」(内閣衆質一九七第一九号)とのことであるが、「必要な人材が確保されたと認められるとき」は、どのような内容で判断されるのか。具体的な評価方法や基準数値などを示されたい。 右質問する。 |