質問主意書

第212回国会(臨時会)

質問主意書

質問第三七号

憲法改正に関する岸田総理の認識に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和五年十一月二日

小西 洋之


       参議院議長 尾辻 秀久 殿



   憲法改正に関する岸田総理の認識に関する質問主意書

 岸田総理は、本年十月二十三日の衆議院及び参議院の本会議での所信表明演説において、憲法改正について、「あるべき国の形を示す国家の基本法たる憲法の改正もまた、先送りのできない重要な課題です。先の国会では、衆参両院の憲法審査会において、活発な御議論をいただきました。このような動きを歓迎いたします。憲法改正は、最終的には、国民の皆様による御判断が必要です。国会の発議に向けた手続を進めるためにも、条文案の具体化など、これまで以上に積極的な議論が行われることを心から期待いたします。」と発言している。

一 岸田総理が憲法改正を「先送りのできない重要な課題です」と考える具体的な理由について示されたい。答弁に際しては、岸田総理の見解を本人に確認の上、政府として逃げることなく答弁されたい。

二 前記一について、岸田総理は日本国憲法にどのような不都合があり、憲法改正を先送りのできない重要な課題であると認識しているのか。また、そうした認識は岸田内閣の認識であると理解して良いか。

三 前記一及び二について、岸田総理が憲法改正を「先送りのできない重要な課題です」と考える具体的な理由やその根拠なる日本国憲法において不都合があると認識する事項を説明できないのであれば、岸田総理の所信表明演説は憲法改正の実施そのものを政治的な目的とする、いわゆる改憲ありきの暴論ではないか。

四 「国会の発議に向けた手続きを進めるためにも、条文案の具体化など、これまで以上に積極的な議論が行われることを心から期待いたします。」について、岸田総理は、なぜ「国会の発議に向けた手続きを進める」必要があると考えているのか。また、「条文案の具体化など」の「など」はどのような事項を意味しているのか。

五 岸田総理がこの度の所信表明演説で、「条文案の具体化」という文言を用いた理由を示されたい。過去の総理大臣の施政方針演説や所信表明演説で憲法改正の「条文案の具体化」などを総理が訴えた例はあるのか。

六 「先の国会では、衆参両院の憲法審査会において、活発な御議論をいただきました。このような動きを歓迎いたします。」について、先の通常国会において、参議院の憲法審査会が行った憲法五十四条の参議院の緊急集会に関する議論では、自民党、日本維新の会、公明党、国民民主党が主張している国会議員の任期の延長の憲法改正が、参議院の緊急集会が災害等の有事を想定していない平時の制度であり、その開催期間も七十日間に限定されるなどの緊急集会を巡る主張を、立憲民主・社民会派が緊急集会制度の立法事実や憲法制定時の金森徳次郎憲法担当国務大臣による緊急集会の根本趣旨などを根拠に法令解釈にすら値しない憲法違反の暴論であると論駁し、そうした見解は参考人でお招きした早稲田大学大学院法務研究科教授長谷部恭男先生、京都大学法学系(大学院法学研究科)教授土井真一先生にも支持されるなどし、その結果、六月七日に行われた参議院の憲法審査会における各会派の緊急集会に関する意見表明では、日本維新の会を除く自民党、公明党、国民民主党の各会派が、衆議院の憲法審査会での国会議員の任期の延長を主張する自民党、公明党、国民民主党の各会派の緊急集会制度の解釈を否定したり、異なる見解を述べたりするなどしているところであるが、岸田総理はこうした事実関係等を認識した上で、「活発な御議論をいただきました」、「このような動きを歓迎いたします」などと主張しているのか。時に、「このような動き」とは、これら改憲を主張する政党(会派)の衆議院と参議院の憲法審査会での分裂状況も含めて「歓迎いたします」としているのか。

七 前記六に関して、五月三十一日の参議院憲法審査会において、私による、「では、長谷部先生、土井先生にお伺いさせていただきたいんですが、先ほどからの衆議院における任期延長の改憲論の論拠、これ、言わばこの緊急集会七十日限定説、その基本の考え方は、これを文理解釈、七十日として、この間に選挙ができる、平時という言い方をしているんですが、災害などを想定していない平時の制度だという理解なんですけれども、先ほどの七十日というこの期日の趣旨、そして、これ衆参でまだ議論されていないんですが、土井先生の御著書、拝読させていただきましたら、佐藤達夫先生の「日本国憲法成立史」、緊急集会がつくられた歴史ですけれども、明らかに災害ということを繰り返し繰り返し日本側は言ってこの制度がつくられている。そうすると、緊急集会制度の立法趣旨、すなわち災害などに備えて衆議院がないときの立法機能確保ということを考えると、いわゆる七十日に限定するというものは、七十日のこの文言の、先ほどの、まず権力の居座りを防ぐという解釈、趣旨、そして元々立法趣旨として災害などを想定しているということからしても解釈上無理があると、そのような見解でよろしいでしょうか。簡潔に、長谷部先生、土井先生、お願いいたします。」との質問に対して、長谷部恭男参考人は「そのとおりだと思っております。」と陳述し、土井真一参考人は「そのように解釈しております。」と陳述しているところであるが、ここで私が説明している衆議院憲法審査会における緊急集会が災害などを想定していない平時の制度であり開催期間も七十日間に限定されるという主張が、緊急集会を定めた憲法五十四条の解釈上無理があるとする見解を日本を代表する憲法学者のお二人が示していること(右記、「そのとおりだと思っております。」、「そのように解釈しております。」)について、岸田総理の見解を示されたい。

八 前記一から七について、岸田総理は、自らの自民党内の政治基盤の弱さを補うために憲法改正を行うべきとする自民党内の政治勢力におもねて、所信表明演説で「・・・憲法の改正もまた、先送りのできない重要な課題です。・・・国会の発議に向けた手続きを進めるためにも、条文案の具体化など、これまで以上に積極的な議論が行われることを心から期待いたします。」などと訴えているのではないか。これは憲法改正を自らの政治の道具に使う、政治家(総理・総裁)として断じてあってはならない行為ではないのか。

九 岸田総理は、十月二十五日の衆議院の本会議において、「内閣総理大臣の立場からは、憲法改正についての議論の進め方等について直接申し上げることは控えなければならないと考えております」と述べているが、ここでいう「憲法改正についての議論の進め方等」について可能な限り具体的に答弁されたい。また、岸田総理が同月二十三日の所信表明演説で訴えた「条文案の具体化」がなぜ「憲法改正についての議論の進め方等」に該当しないのか、その理由を具体的に説明されたい。

十 岸田総理は、十月二十五日の衆議院の本会議において、「また、自民党総裁としてあえて申し上げれば、総裁任期中に憲法改正を実現したいという思いにいささかの変わりもありません。党内の議論を加速させるなど、憲法改正の課題に責任を持って取り組む決意であります。」と述べているが、岸田総理はなぜ「総裁任期中に憲法改正を実現したい」と考えているのか。また、そのように考える根拠として日本国憲法にどのような不都合があると考えているのか具体的に説明されたい。

十一 岸田総理は本年十月二十五日の参議院本会議において、「憲法第六十七条の規定に基づき国会議員の中から指名された内閣総理大臣が、憲法に関する事柄を含め、政治上の見解、行政上の事項等について説明を行い、国会に対して議論を呼びかけることは禁じられているものではなく、三権分立の趣旨に反するものではない」と述べているが、内閣総理大臣がどのような具体的内容の憲法改正を欲するのかを明らかにせず、ただ単に憲法改正の議論を国会に呼び掛けることも禁じられておらず、三権分立にも反しないと考えているのか。また、ここでいう「憲法第六十七条の規定に基づき国会議員の中から指名された」との文言には何か特別の意味があるのか、この文言を用いずに単に「内閣総理大臣」とした場合にどのような問題があると考えているのか。

  右質問する。