質問主意書

第212回国会(臨時会)

質問主意書

質問第三号

外国人留学生の増加に対応する日本語教育の体制整備に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和五年十月二十日

神谷 宗幣


       参議院議長 尾辻 秀久 殿



   外国人留学生の増加に対応する日本語教育の体制整備に関する質問主意書

 教育未来創造会議が令和五年四月二十七日付で発表した「未来を創造する若者の留学促進イニシアティブ(第二次提言)」は、大学学部および高校段階での留学生数の大幅な増加を図る具体的な目標を示している。これは、同年三月十七日の第五回教育未来創造会議において、議長である岸田文雄総理大臣が「二〇三三年までに、日本人学生の海外留学者数五十万人、外国人留学生の受入れ数四十万人の実現を目指すことをはじめとした具体的な指標を、同計画に位置付けるよう」と示したことを受けての提言である。

 一方、岸田総理は、労働力不足に悩む経済界からの要望を受け、令和五年六月九日の閣議決定で特定技能二号の対象分野を追加し、同年六月二十一日公表の「人口減少危機を直視せよ」との日本社会の未来像を提案する呼びかけ第一弾を受けて、同年七月二十二日開催の「令和臨調一周年大会」で「外国人と共生する社会を考えていかなければならない」との方向性を明言している。

 以上に関連して令和五年六月九日開催の外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議において、日本語教育等の取組について「日本語教師の質の確保や量的確保・育成が課題」であるともされている。同年七月三十一日の技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議でも、日本語教員数の圧倒的な不足が深刻な問題であり、十分な予算の確保が必要であるとの議論がなされている。

 そもそも、日本人学生の生活と学業支援が決して十分ではない中、外国からの留学生受入れを数値目標まで決めて推進するあり方が異常に思えるとともに、賛成できるものではない。仮にこれを進めるにしても現状の日本語教育体制は次に示すとおりであり、人的確保や待遇の面で相応しい質と量の確保とはなっていないことは重大な問題である。

 国内の日本語学習者数についての文化庁国語課による日本語教育実態調査によれば、新型コロナウイルス感染拡大による入国制限のため、令和二年度から三年度には急激に減少したものの、四年度は制限緩和もあって、前年度から七十八パーセントの増加となった。一方で、同年度の日本語教師等の数は十二パーセントの増加に留まっている。

 日本語教師の職務形態別の内訳では、ボランティアによる者が四十九・〇パーセントと最も多く、以下、非常勤による者が三十六・一パーセント、常勤による者が十四・九パーセントの順となっている。教師の年代別内訳は、五十代以上が五十四・七パーセントを占めているのに対し、二十代はわずか五・四パーセントである。

 日本語教師の質、量ともに向上させることが切実な実態が明らかで、大学教育での日本語教師養成課程の役割が重要となっているが、現状では大学の日本語教師養成課程修了者のほとんどが日本語教師とならないで推移している。令和四年度の日本語教師養成課程修了後の進路についての調査結果では、民間の日本語教師養成研修実施機関を除き、日本語教師養成課程を有する大学(大学院含む)及び短期大学(二百十校)について見るなら、日本語教師の職に就いたのは、課程修了者二千四百七十八人中、百十二人(四・五パーセント)のみであった(令和四年度大学等日本語教師養成課程及び文化庁届出受理日本語教師養成研修実施機関実態調査研究報告書)。

 令和五年一月二十五日の日本語教育の質の維持向上の仕組みに関する有識者会議における報告でも、課題である日本語教師の人材不足について、処遇の低さ(年間収入や雇用単価等において専門性が評価されておらず厳しい状況にあること)が背景にあると分析されている。また、職業としての社会的な認知が低く、日本語教師を目指す者が日本語教育機関等で活躍する状況に結びついていない現状も指摘されている。

 以上の状況を踏まえ、同年五月二十六日の国会で日本語教育機関認定法(日本語教育の適正かつ確実な実施を図るための日本語教育機関の認定等に関する法律)が可決・成立した。これによって、文部科学大臣の登録を受けた登録日本語教員は国家資格保持者と見なされるが、この法律の施行は令和六年四月一日である。

 以上を踏まえ質問する。

一 外国人留学生の増加が促進され、外国人材受入れの推進を当面の課題として推し出しているにもかかわらず、質の高い日本語教師の確保とは逆行する状況が大学での日本語教師養成課程修了者の進路状況に現れているのは明らかである。こうした現象の因果関係について、政府はどのように分析しているのか。

二 岸田総理が述べている「外国人留学生の受入れ数四十万人の実現」や、外国からの技術研修生受入れ等の今後の方向から考えて、政府は日本語教師の確保について、その必要数をどのように見ているのか、示されたい。あわせて、大学教育における日本語教師養成課程修了者の有用化のための待遇改善その他の具体的な施策についても説明されたい。

三 日本で学ぶ留学生、技能実習生の受入れが当事者にとっても、また日本社会にとっても望ましいものとして進展していくためには、日本語教育の果たす役割は極めて大きいものと考える。しかし、「受入れ数」目標などが先行するばかりで、それに見合った受入れ体制の最初の入口となる日本語教育体制が人的裏付けも不確かなままなら、入国者の希望と実際の日本での留学や研修がミスマッチなものとなるほか、受入れ元での円滑な教育や研修活動の実施が効果を上げないなどの事態につながりかねない。性急な外国人受入れについて、政府は受入れ体制の実態に見合った形に見直すべきではないか。

  右質問する。