質問主意書

第211回国会(常会)

答弁書

内閣参質二一一第一一七号
  令和五年六月三十日
内閣総理大臣 岸田 文雄


       参議院議長 尾辻 秀久 殿

参議院議員神谷宗幣君提出トランス脂肪酸に関する情報発信と含有量表示等に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員神谷宗幣君提出トランス脂肪酸に関する情報発信と含有量表示等に関する質問に対する答弁書

一について

 政府としては、厚生労働省が行っている国民健康・栄養調査及び農林水産省が行っている有害化学物質含有実態調査の結果、今後の新たな科学的知見等を踏まえて、お尋ねの「国民のトランス脂肪酸摂取量について、現状を調査し、再評価を行う」必要性について検討してまいりたい。

二について

 トランス脂肪酸の食品を通じた人の健康に及ぼす影響については、平成二十四年三月に食品安全委員会が取りまとめた食品健康影響評価において、「日本人の大多数がWHOの勧告(目標)基準であるエネルギー比一%未満であり、また、健康への影響を評価できるレベルを下回っていることから、通常の食生活では健康への影響は小さいと考えられる」と評価されている。政府としては、当該評価を踏まえ、同委員会のホームページにおいて「脂質自体は重要な栄養素でもありますが、近年は、食生活の変化により脂質の摂取過剰が懸念されており、トランス脂肪酸だけを必要以上に心配せず、脂質全体の摂取量に十分配慮し、バランスの良い食事を心がけることが大切です」と周知しているところであり、引き続き、関係省庁の連携の下、SNS等も活用しながら、国民への分かりやすい情報発信に努めてまいりたい。

三について

 食品表示法(平成二十五年法律第七十号)第四条第一項の規定により定められた食品表示基準(平成二十七年内閣府令第十号)においては、消費者の摂取状況等を踏まえた消費者への表示の必要性があること、事業者にとって表示が実行可能であること及び国際基準と整合していることの三点を全て満たす栄養成分の量及び熱量の表示を、内閣総理大臣が同法第四条第二項(同条第六項において準用する場合を含む。)の規定に基づき消費者委員会の意見を聴いた上で、食品表示基準第三条第一項に規定する食品関連事業者が容器包装に入れられた加工食品(業務用加工食品を除く。)を販売する際(設備を設けて飲食させる場合を除く。)に表示されなければならない事項(以下「義務表示事項」という。)として定めている。トランス脂肪酸の量の表示については、現時点において当該三点いずれも満たしているとは言えないことから、義務表示事項とはしないこととしており、御指摘の「表示の義務化」については、現時点では検討していない。

四について

 お尋ねについては、「トランス脂肪酸の情報開示に係る周知・普及について」(令和二年六月二十六日付け消食表第二百四十号消費者庁食品表示企画課長通知)において、「トランス脂肪酸を含む原材料を供給する食品製造事業者は、トランス脂肪酸を含む原材料を利用する食品製造事業者に対して、当該原材料中のトランス脂肪酸の含有量についての情報の提供に努める」こと、「トランス脂肪酸を含む原材料を利用する食品製造事業者であって、当該食品中のトランス脂肪酸の含有量の把握をしていない者は、原材料中のトランス脂肪酸の含有量の情報を入手し、含有量の把握に努める」こと及び「食品製造事業者は、引き続き、トランス脂肪酸に関する情報を自主的に開示する取組を進める」ことを示しているところであり、政府としては、引き続き、御指摘の「事業者に対し、トランス脂肪酸の含有量を把握することをより推奨し、情報発信を行う環境整備を行う」ことに努めてまいりたい。

五について

 お尋ねの「理由」については、平成二十五年十二月四日に開催された「食品表示部会栄養表示に関する調査会(第一回)」の資料において、「一般表示事項(エネルギー、たんぱく質、脂質、炭水化物、ナトリウム)に比べ、合理的な推定を行うための書籍、文献等が充実していないと考えられる」とされたところであり、現時点においても、トランス脂肪酸の量の表示については、御指摘の「「事業者にとって表示が実行可能であること」の要件」を満たしていないと考える。

六について

 御指摘の「トランス脂肪酸の情報開示に関する指針」(平成二十三年二月二十一日消費者庁作成)においては、「零(ゼロ)グラムと表示することができるのは、原則として当該食品にトランス脂肪酸が含まれない場合に限られる」とした上で、「分析精度にはばらつきがあること」を踏まえ、零グラムとみなすことができる誤差の範囲について、「食品百グラム当たり(清涼飲料水等にあっては百ミリリットル当たり)のトランス脂肪酸の含有量が〇・三グラム未満である場合には、零グラムと表示しても差し支えない」としている。このため、ある食品に含まれるトランス脂肪酸の含有量が当該指針に即して零グラムと表示されている場合に、消費者が当該食品を大量に摂取した結果として、御指摘のように「消費者が一日に摂取する量がエネルギー比一%を超えてしまう」ことは、通常の食生活においては一般に想定されないと考えており、「一般消費者の誤認を誘うのではないか」との御指摘は当たらないものと考えている。