質問主意書

第211回国会(常会)

答弁書

内閣参質二一一第九四号
  令和五年六月十六日
内閣総理大臣 岸田 文雄


       参議院議長 尾辻 秀久 殿

参議院議員神谷宗幣君提出食料自給率向上と農業従事者支援の充実に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員神谷宗幣君提出食料自給率向上と農業従事者支援の充実に関する質問に対する答弁書

一について

 お尋ねの「農業従事者数の確保に向けた目標」は設定していないが、「食料・農業・農村基本計画」(令和二年三月三十一日閣議決定。以下「基本計画」という。)においては、「農業者の大幅な減少等により、農業の持続性が損なわれる地域が発生する事態が懸念されることから、これを防」ぐため、「新規就農の促進・・・などを進め、農業現場を支える多様な人材や主体の活躍を促すことが重要である」としているところであり、就農準備段階や経営開始直後の青年就農者を対象とした資金の交付、農業法人等における雇用就農者の研修に対する支援、無利子融資等を活用した機械・施設等の取得の支援等の施策を実施している。このような取組を通じて、御指摘の「農業従事者数の確保」に取り組んでまいりたい。

二について

 御指摘の「目標数値」については、基本計画において、「食料消費見通し及び生産努力目標を前提として、諸課題が解決された場合に実現可能な水準として示す食料自給率等の目標」として設定しており、お尋ねの「目標数値の達成をどのような取組で担保していくのか」については、基本計画において、「食料自給率の向上に向けた課題と重点的に取り組むべき事項」として、「食料消費」については、「食育や国産農産物の消費拡大、地産地消、和食文化の保護・継承、食品ロスの削減をはじめとする環境問題への対応等の施策を個々の国民が日常生活で取り組みやすいよう配慮しながら推進する必要がある」等と、「農業生産」については、「持続可能な農業構造の実現に向けた担い手の育成・確保と農地の集積・集約化の加速化、経営発展の後押しや円滑な経営継承を進めるとともに、農業生産基盤の整備やスマート農業の社会実装の加速化による生産性の向上、各品目ごとの課題の克服、生産・流通体制の改革等を進める必要がある」等としていることを踏まえ、引き続き、各種施策に取り組んでまいりたい。

三について

 御指摘の「限られた空間を最大限に活用し効率的な食料生産を実現する新しい農業展開」の意味するところが必ずしも明らかではないが、農林水産省のホームページにおいて公表している「園芸用施設の設置等の状況(R二)」によると、御指摘の「水耕」も含めた「養液栽培施設」の「設置実面積」は、令和二年時点において二千十四ヘクタールであり、トマト、いちご等が生産されている。「養液栽培施設」についての目標は設定していないが、これも含めた園芸施設の整備等に要する費用の一部を補助する支援を行っているところであり、引き続き、必要な支援を行ってまいりたい。

四について

 前段のお尋ねについて、耕作放棄地(農林業センサスにおいて「以前耕作していた土地で、過去一年以上作物を作付け(栽培)せず、この数年の間に再び作付け(栽培)する意思のない土地をいう。」と定義していた「耕作放棄地」をいう。)の面積については、平成二十七年までで取りまとめを終了しているが、平成二十年から毎年農林水産省が取りまとめている、荒廃農地(現に耕作に供されておらず、耕作の放棄により荒廃し、通常の農作業では作物の栽培が客観的に不可能となっている農地をいう。以下同じ。)の面積について、お尋ねの「都道府県別の分布」については同省のホームページにおいて公表している「令和三年度の荒廃農地面積」に示しているとおりであるが、お尋ねの「放棄されてきた年数が五年以内のもの、五年以上のもの、十年以上のものそれぞれの面積と割合」の調査は行っておらず、把握していない。また、お尋ねの「それぞれの地域における農地全体に対する割合」については、その意味するところが明らかではないため、お答えすることは困難である。

 後段のお尋ねについては、農地中間管理事業の推進に関する法律(平成二十五年法律第百一号)第二条第三項に規定する農地中間管理事業の実施により農業の担い手への農地集積・集約化を進めるとともに、日本型直接支払制度により農業生産活動を下支えするほか、中山間地域等においては、農山漁村振興交付金により、採草放牧地の用に供することを含め、土地の活用を総合的に支援することにより、荒廃農地等の発生防止及び解消に取り組んでいるところである。

五について

 お尋ねの「農業生産発展の方向性」については、例えば、基本計画において「生産性と収益性が高く、中長期的かつ継続的な発展性を有する、効率的かつ安定的な農業経営(主たる従事者が他産業従事者と同等の年間労働時間で地域における他産業従事者と遜色ない水準の生涯所得を確保し得る経営)を育成し、こうした農業経営が農業生産の相当部分を担い、国内外の需要の変化に対応しつつ安定的に農産物を生産・供給できる農業構造を確立することがこれまで以上に重要となっている」と示しているとおりである。このため、基本計画においては、「経営感覚を持った人材が活躍できるよう、経営規模や家族・法人など経営形態の別にかかわらず、担い手(効率的かつ安定的な農業経営及びこれを目指して経営改善に取り組む農業経営(認定農業者、認定新規就農者、将来法人化して認定農業者になることが見込まれる集落営農))の育成・確保を進めるとともに、担い手への農地の集積・集約化、農業生産基盤の整備の効果的な実施、需要構造等の変化に対応した生産供給体制の構築とそのための生産基盤の強化、スマート農業の普及・定着等による生産・流通現場の技術革新、気候変動への対応などの環境対策等を総合的に推進する」としており、こうした施策が、農業の担い手の所得の向上に寄与し、このことが御指摘の「平均農業所得」を「引き上げて」いくことにつながるものと考えている。

 なお、お尋ねの「平均農業所得」の「年次的な数値目標」については設定していない。

六について

 御指摘の「水田稲作経営」の意味するところが必ずしも明らかではないが、農林水産省の「農業経営統計調査 令和三年 農業経営体の経営収支」における水田作経営の農業所得には、御指摘の「水田稲作以外の農作物生産の所得」も含まれている。

 また、お尋ねの「水田稲作専業経営体と他の作物を並行して生産している経営体の実数、割合」及び「水田稲作を専業にしている経営体のみを見た場合の平均農業所得」については取りまとめていない。

七について

 前段のお尋ねの「農業経営体の収入向上策について」の「目標」については設定しておらず、その「テンポ」についてお答えすることは困難である。

 後段のお尋ねについては、例えば、主食用米を含めた米穀に係る需要見通しや価格動向等についての生産者等に対するきめ細かな情報提供、主食用米から麦・大豆や野菜、果樹といった需要が大きい作物への転換への支援が含まれる。

八について

 中山間地域を含む、農地の集約化やほ場の大区画化が困難な地域においては、農業経営の規模の大小にかかわらず、四についてで述べたとおり、日本型直接支払制度や農山漁村振興交付金等による農業生産活動の下支え等の支援策を講じているところである。

九について

 御指摘の「若手農業従事者」及び「失業者に対する事業転換支援」の意味するところが明らかではないため、お尋ねについてお答えすることは困難であるが、いずれにせよ、政府としては、一についてで述べたとおり、新規就農の促進が重要と考えており、一定の要件を満たした四十九歳以下の者を対象に、就農準備段階や経営開始段階の資金の交付、農業法人等における雇用就農者の研修に対する支援等の施策を実施しているところである。