質問主意書

第211回国会(常会)

答弁書

内閣参質二一一第八七号
  令和五年六月九日
内閣総理大臣 岸田 文雄


       参議院議長 尾辻 秀久 殿

参議院議員神谷宗幣君提出妊娠中や授乳中の新型コロナワクチン接種が胎児等に及ぼす影響に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員神谷宗幣君提出妊娠中や授乳中の新型コロナワクチン接種が胎児等に及ぼす影響に関する質問に対する答弁書

一について

 お尋ねの「ファイザー社とFDAが、令和三年三月の時点で、新型コロナワクチンが妊婦、胎児及び授乳中の乳児に対して潜在的な影響を持つ可能性を事前に認識していたという事項」の意味するところが必ずしも明らかではないが、ファイザー社との感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律等の一部を改正する法律(令和四年法律第九十六号)による改正前の予防接種法(昭和二十三年法律第六十八号)附則第七条第一項の規定による新型コロナウイルス感染症に係る予防接種(以下「新型コロナ予防接種」という。)に使用するワクチン(以下「新型コロナワクチン」という。)の購入契約に係る交渉に際して、同社が米国食品医薬品局に御指摘の「本件文書」を提出したという事実及び当該文書の内容についての説明を受けたことはない。なお、当該交渉は、当該新型コロナワクチンが医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和三十五年法律第百四十五号。以下「医薬品医療機器等法」という。)による承認(以下単に「承認」という。)を受けることを前提として行ったものである。

二について

 お尋ねの「前記一の事実について、現在はどのように認識しているか」の意味するところが必ずしも明らかではないが、新型コロナワクチンについては、その有効性とリスクも含めた安全性を比較衡量し、薬事・食品衛生審議会における議論を経て、承認を行ったものであり、新型コロナ予防接種については、承認を受けた新型コロナワクチンについて厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会において有効性及び安全性に関する議論を行った上で、新型コロナ予防接種の実施が新型コロナウイルス感染症のまん延予防のため必要であること、新型コロナ予防接種の有効性及び安全性に関する知見、諸外国における接種状況等を総合的に考慮し、対象者を決定して、実施しているものである。

 また、新型コロナ予防接種を受けたことによるものと疑われる症状については、予防接種法第十二条第一項の規定により、医師等から厚生労働大臣に報告されているほか、医薬品医療機器等法第六十八条の十第一項及び第二項の規定により、新型コロナワクチンの製造販売業者等から同大臣に報告されており、これらの制度により収集した情報等に基づき、厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会及び薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会(以下「合同部会」という。)において、専門家による議論が行われ、新型コロナワクチンの安全性について評価を行っているところであり、令和五年四月二十八日の合同部会において、現時点では「ワクチンの接種体制に影響を与える重大な懸念は認められず、引き続き国内外の情報を収集しつつ、新型コロナワクチンの接種を継続していくこと」としてよいこととされている。また、公表されている学術論文等から収集した新型コロナワクチンの安全性等に係る知見においても、御指摘の「妊婦、胎児及び授乳中の乳児」に係る重大な懸念が報告されているものは承知していない。

 新型コロナ予防接種については、こうした審議会での専門家による議論等を踏まえ、妊娠中の者及び授乳中の者も対象として実施しているものである。

三について

 お尋ねの勧告の内容については承知している。

四及び五について

 お尋ねの「ワクチンが胎児や生殖器に悪影響を及ぼすという報告」及び「ワクチン自体が母乳に移行する可能性は低く、万が一mRNAが母乳中に存在しても、子どもの体内で消化されることが予想され、影響を及ぼすことは考えにくい」との「報告」については、特定の機関から政府に対して行われた報告を指しているものではなく、公表されている学術論文等から厚生労働省が収集した新型コロナワクチンの安全性等に係る知見である。

 新型コロナワクチンの安全性や新型コロナ予防接種の実施に関する政府の考え方については、二についてで述べたとおりであり、御指摘のように「文書は撤回して見直すべき」又は「内容を再評価し、出し直すべき」とは考えていない。

六について

 お尋ねの「妊娠中」の「ワクチンの曝露について」「どのような副反応事例が何例あるか」の意味するところが必ずしも明らかではないが、仮に、妊娠中の者に対する新型コロナ予防接種に係る副反応疑い報告の件数を意味するのであれば、例えば、新型コロナ予防接種が開始された令和三年二月十七日から令和五年三月十二日までの間に製造販売業者から百十二例の副反応疑い報告があり、これらについて、「ICH国際医薬用語集日本語版」に基づく症状別に分類してお示しすると、「COVID―十九」が延べ十二件、「発熱」が延べ八件、「自然流産」が延べ七件、「腹痛」が延べ六件、「切迫早産」が延べ五件、「呼吸困難」が延べ五件、「倦怠感」が延べ五件、「出血」が延べ五件、「胎児死亡」が延べ五件等である。また、お尋ねの「授乳中」の「ワクチンの曝露について」「どのような副反応事例が何例あるか」の意味するところが必ずしも明らかではないが、仮に、授乳中の者に対する新型コロナ予防接種に係る副反応疑い報告の件数を意味するのであれば、副反応疑い報告においては、被接種者が授乳をしているかどうかについて報告を求めておらず、網羅的に把握していないため、お答えすることは困難である。さらに、お尋ねの「授乳を介した曝露」の意味するところが必ずしも明らかではないが、仮に「ICH国際医薬用語集日本語版」における「母乳を介した曝露」を意味するのであれば、同期間の製造販売業者からの副反応疑い報告において、「母乳を介した曝露」は三件報告されている。

七について

 お尋ねの「妊婦や授乳中の乳児の安全性」については、令和三年二月十四日に承認を受けたファイザー社の新型コロナワクチンについて、当該承認の申請に当たって実施された臨床試験において妊娠中の者は対象から除外されていたものの、独立行政法人医薬品医療機器総合機構の特例承認に係る報告書に記載のとおり、同社が収集した「海外における使用許可後又は製造販売後」の「自発報告」において、「妊婦」及び「授乳婦」に対する接種に関し、「妊婦は二十八例及び授乳婦は三十九例確認され」、それらについて、「妊婦二十八例のうち、二十六例で妊娠中のワクチン曝露が報告され、そのうち九例で臨床症状を伴う非重篤な事象(ワクチン接種部位疼痛四件、頭痛及び四肢疼痛各二件、血性分泌物、筋肉痛、疼痛及び鼻漏)が報告され」、また、「授乳中の乳児三十九例において、四例で非重篤の事象(腹部不快感、食欲減退、過敏症、疾患、乳児嘔吐、乳児易刺激性、不眠、易刺激性、嗜眠、発熱、発赤及び嘔吐各一件)が報告され」ており、これらも踏まえ、同機構は、「本剤の承認の可否に影響する重大な懸念は認められていない」との評価を行ったものであり、厚生労働大臣は、当該報告書を踏まえ、薬事・食品衛生審議会における議論を経て、承認を行ったものである。

 妊娠中の者への新型コロナ予防接種については、承認を受けた新型コロナワクチンについて、令和四年二月十日の厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会において胎児への影響も含めた安全性等に関する知見等に基づき議論を行った上で、当該者への新型コロナ予防接種の実施が新型コロナウイルス感染症のまん延予防のため必要であること、当該者への新型コロナ予防接種の有効性及び安全性に関する知見、諸外国における当該者への接種状況等を総合的に考慮し、当該者を対象として実施しているものである。

 なお、同社の新型コロナワクチンについては、承認後の医薬品安全性監視活動の一環として、妊娠中の者を対象とした臨床試験が海外で実施されていると承知している。

八について

 お尋ねの「長期的な検証」の意味するところが必ずしも明らかではないが、新型コロナ予防接種を受けた者の健康状況については、現在、新型コロナワクチン接種後健康状況調査、令和二年度厚生労働行政推進調査事業費補助金新興・再興感染症及び予防接種政策推進事業による「新型コロナワクチンの投与開始初期の重点的調査(コホート調査)」、新型コロナワクチンについての承認を取得した製造販売業者が実施する医薬品の製造販売後の調査及び試験の実施の基準に関する省令(平成十六年厚生労働省令第百七十一号)第二条第一項に規定する製造販売後調査等に基づく報告等により、政府として情報収集に努めているところであり、政府としては、引き続き、専門家の意見も聴きながら、新型コロナ予防接種の安全性に係る情報の収集に努めるとともに、これらの情報等を踏まえ、必要な対応を行ってまいりたい。