質問主意書

第211回国会(常会)

答弁書

内閣参質二一一第六二号
  令和五年五月十二日
内閣総理大臣 岸田 文雄


       参議院議長 尾辻 秀久 殿

参議院議員牧山ひろえ君提出改正ADR法において規定する執行力の付与に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員牧山ひろえ君提出改正ADR法において規定する執行力の付与に関する質問に対する答弁書

一について

 裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律の一部を改正する法律(令和五年法律第十七号。以下「改正法」という。)による改正後の裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律(平成十六年法律第百五十一号。以下「新法」という。)においては、認証紛争解決手続において紛争の当事者間に成立した和解であって、当該和解に基づいて民事執行をすることができる旨の合意がされたもの(以下「特定和解」という。)について、これに基づく民事執行を許す旨の決定(以下「執行決定」という。)をするものとされているところ、紛争の当事者が当該和解に基づいて民事執行をすることができる旨の合意をすることを執行決定の要件としていること、消費者と事業者との間で締結される契約に関する紛争等に係る特定和解については新法第二十七条の二の規定を適用しないものとしていること、裁判所は、特定和解が、無効、取消しその他の事由により効力を有しないこと等一定の事由があると認めるときには執行決定を求める申立てを却下することができるものとしていること等に鑑みれば、新法に基づく特定和解の執行決定については、御指摘の懸念はないものと考えている。

二について

 調停による国際的な和解合意に関する国際連合条約の実施に関する法律(令和五年法律第十六号)においては、民事上の契約又は取引のうち、その当事者の全部又は一部が個人(事業として又は事業のために契約又は取引の当事者となる場合におけるものを除く。)であるものに関する紛争に係る和解合意については、同法の規定を適用しないこととされているところ、これは、調停による国際的な和解合意に関する国際連合条約が、国際的な商事紛争を解決するために当事者が締結した調停による合意を適用対象としていることによるものである。

 他方で、改正法においては、認証紛争解決手続の利用の状況に照らし、その当事者の全部が個人であるものに関する紛争に係る特定和解について新法第二十七条の二の規定を適用するニーズが高いと考えられること、及び認証紛争解決手続は、その公正かつ適正な実施が制度上担保されていることを踏まえ、紛争の当事者の全部が個人であることのみを理由に同条の規定の適用を除外することとはしていない。

三について

 改正法が、人事に関する紛争その他家庭に関する紛争に係る特定和解について、原則として新法第二十七条の二の規定を適用しないこととしているのは、当該紛争が身分関係に影響を及ぼす紛争類型であり、当事者間の合意を根拠として一律に当該紛争に係る特定和解に基づく民事執行を可能とすべきではないと考えられることによるものである。

 他方で、養育費等の金銭債権に係る和解は、子の利益の観点から、その履行確保が喫緊の課題となっていることに加えて、家庭に関する紛争に係る和解ではあるものの、身分関係に影響を及ぼすものではないこと、及び民事執行法(昭和五十四年法律第四号)においても、養育費等の金銭債権について強制執行を容易にするための特例が設けられていることを踏まえて、改正法においては、養育費等の金銭債権に係る特定和解については、新法第二十七条の二の規定を適用することとしている。

四について

 改正法の施行に当たっては、認証紛争解決手続において手続実施者に選任され得る者に対する研修を充実させるための支援や法務省大臣官房司法法制部が平成十八年六月に作成した「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律の実施に関するガイドライン」の見直し等必要な検討を行う予定である。

五について

 御指摘の「当事者が面会交流(親子交流)なども併せて合意している場合には、一方の当事者に不満が残る懸念」の意味するところが必ずしも明らかではないが、面会交流等に関する特定和解について、新法第二十七条の二の規定を適用しないこととしている趣旨は、三についてで述べたとおりである。